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【X線残留応力測定法】結晶のミクロなズレを精密に調べる~
みなさんはX線残留応力測定法という言葉を聞いたことがあるでしょうか?
もちろんあるわけないですよね。
もし聞いたことがある!という方がいたら、それはもう専門家なのでブラウザバックで大丈夫です。
ということで、今回は非常にニッチな測定手法をわかりやすく簡単に紹介してみたいと思います。
X線残留応力測定法とは
専門外の方からしたら、もはや名前からして意味不明ではないでしょうか。
ここではコラム的な雰囲気でなんとなく知ってもらえたら嬉しいので、簡単なところから紹介していきますね。
まずX線とあるので、レントゲンなどで使われるX線を使うんだなというのはわかると思います。
ただ次の残留応力というのは何が何だか…ですよね。
残留応力というのは結晶分野における単語です。
結晶は原子が規則正しく並んだ物質のことを指すんですが、加工の際に引っ張ったり押しつぶしたりといった機械操作を行うと、結晶内の原子の位置が正しい位置から少しだけずれます。もちろん小さすぎて目には見えないですが。
そのときに引張や圧縮という加工を終えた後、外力を加えずとも結晶の内部では原子の位置がほんの少しだけずれた状態になっています。このとき、物質内には残留応力が存在しているといいます。
この残留応力は結晶の破壊挙動などにダイレクトに影響するため、どれくらい残留応力が溜まっているのかを調べたいという要望があるんです。
そこで考えられたのがX線残留応力測定法です。
これは結晶構造(原子の位置関係)を調べるためのX線構造解析手法を応用した方法です。
X線残留応力測定法の簡単な原理
X線残留応力測定法では主に多結晶物質を対象にします。
多結晶とは原子が規則正しく並んだ単結晶の小さな粒が向きを変えてくっついて一つの結晶となっている状態です。なんだか特別な感じがしますが、実は世の中の大半の結晶は多結晶です。
原子が規則正しく並ぶためには熟練の結晶化技術が必要で、数センチメートルでも単結晶ができればかなりすごいんです。これをやってのけるのが現代の半導体業界なわけです。
つまり、私たちが認識するほど大きな金属やセラミックスというのは単結晶が向きを変えてくっついた多結晶であることが一般的です。
この多結晶にX線を当てるとその向きに合わせて回折が起きます。ここから先はかなり難しい結晶構造解析になるので、専門的な内容が知りたい方は専門書や学術的な記事をご覧ください。ここでは超ざっくりとした説明にとどめます。
結晶にX線を当てて回折が起きると検出器(カメラ)では強度の強いピークというものが観測されます。山みたいなイメージです。
![](https://assets.st-note.com/img/1702146042952-V0ognD5vtC.png?width=1200)
このピークの位置というは結晶の面間隔、つまり原子の位置によって決まるわけですが、先ほどの残留応力があるとどうでしょうか?
残留応力があると原子の位置が正しい位置からほんの少しずれてしまいます。引張応力であれば原子間の距離は引き延ばされ、圧縮応力であれば押しつぶされて原子間距離が近づきますね。
![](https://assets.st-note.com/img/1702145743815-Q42EL2RDa0.png?width=1200)
すると検出されるピーク(山)の位置が検出器上で右や左(2θ方向)にずれます。このズレをピークシフトと呼んだりしますが、これを検出して計算してやると目には見えない原子のズレを引き起こす残留応力を調べることができるのです。
![](https://assets.st-note.com/img/1700774526341-t28nr2PlGi.png)
最後に
今回はX線残留応力測定法について紹介しました。
実はこの手法自体はもう少し細かい分類やプロトコルがあるようなんですが、ずいぶん数学チックなお話になってしまうので、その辺はザクっと省略しました。
興味がある方はsin2Ψ法とかcosα法とか調べてもらうといいと思います。