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マイクロカプセルで自己再生する人工骨

人工骨というと金属やセラミックスといった固くて生体にも影響を与えないものを想像されるかもしれませんが、最近の研究では人間の骨と同じ成分でできているものも作られるようになってきました。

そんな人工骨の研究はいろんな方面から今でも盛んにおこなわれており、折れても勝手に再生する人工骨なんてものが開発されました。

今回はそんな人工骨についての研究を紹介したいと思います。

勝手に再生する人工骨

普通どんな物質でも折れたり割れたらもとには戻らないですよね。むしろ傷ができても勝手に再生していく生き物の皮膚や臓器の方がよほど特殊な環境といえるでしょう。

そうはいっても、昨今の研究では壊れても自己再生する材料というものが開発されており、自己再生コンクリートなんかはかなり有名です。

そして、今回開発された人工骨は折れても勝手に元に戻るというとてもユニークな特徴を持っています。それでは一緒に見ていきましょう。

この人工骨の特徴はその内部にマイクロカプセルを含んでいるという点です。いったい何のためのマイクロカプセルなのか気になりますよね。

このマイクロカプセルは簡単に言ってしまえば、皮膚が傷ついたときにできるかさぶたの役割を果たします。人工骨が折れたときに中から出てきて、そのカプセルが傷口をふさいでくれるのです。

そもそも今回使われている骨にはレジンという樹脂が使われています。レジンと聞くとUVで固めるアクセサリーに使う材料を想像されるかもいると思いますが、大きくまとめるとまさにそのレジンです。当然、折れたり割れたりしたレジンを隣り合わせても勝手につながってはくれません。

そこで、初めに内包したマイクロカプセルの出番となります。

レジン人工骨の回復にはTEGDMA と呼ばれる物質が使われています。ここで細かい名前を気にする必要はありません。まあ、簡単に傷薬みたいなイメージで良いでしょう。

この物質を人体に無害なポリウレタンのカプセルの内部に入れ込み、さらにそのカプセルを人工骨の中に入れるという形になります。

参考文献より引用(割れたカプセルが見える)


2つのカプセルでより良い人工骨を作る

ところで、この研究の肝はマイクロカプセルを入れたらいい感じで回復しましたというところではありません。

この研究が注目していたのは、人工骨の中には異なる2つのマイクロカプセルを入れたときにより回復が進むのか?というところでした。

この2つ目のマイクロカプセルには、1つ目のカプセルの反応を始める開始剤の役割を持ちます。

つまり、骨が割れたときに2つのカプセルが中から放出されて、開始剤により反応が早く進むという流れになります。

研究者の予想通り、2つのマイクロカプセルを混ぜたときの方が1種類の治癒用マイクロカプセルだけの時よりも効率よく人工骨を回復させることに成功したようです。

さらに、この論文ではマイクロカプセルが人体に無害であることを調べています。

ポリウレタンマイクロカプセルは理論通り、人体に影響を与えることはないようです。万が一人工骨から出てきたマイクロカプセルが体内に迷い込んでも特段問題はないようですね。

論文より引用


最後に

今回は自己再生する人工骨について紹介しました。

医療の研究は今後も発展していきますが、まるでSF映画のような技術が学術領域では実現しつつあります。これからも科学が盛り上がって、私たちの身近な生活が快適なものになるのが楽しみですね。

そのためにも基礎研究はお金の無駄だなんて言わずに、どんどんお金を投資してほしいものです。多くの研究が無駄になる中でないとやはり素晴らしい研究とは生まれないものですからね。そもそも無駄だと思われていた研究が将来何かの役に立つこともありますからね。

参考文献

Biocompatible Nanocapsules for Self-Healing Dental Resins and Bone Cements

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