【驚異のナノテク】DNAオリガミを使って抗体を直接見る方法
パンデミックの時代となりネットやテレビでもウイルスとか抗体といった言葉を聞く機会が増えたかと思います。
そんな生化学的にも重要な抗体のイメージ画像を見たことがある人も多いかと思いますが、この抗体を直接見るのはとっても難しいんです。
これまでナノの世界を覗くには電子顕微鏡やX線技術など様々な方法が模索されており、現在は原子レベルまで見ることができるようになってきました。
しかし、これはある限られた条件でしか見れず、液体中の動いているものをナノレベルで観察することは非常に難しく、今でも容易ではありません。
今回は、そんな普通の方法では決して見ることのできない抗体の動きを観察したというすごい研究を紹介したいと思います。
今の技術でどこまで見れる?
現代の科学技術を使えば真空中にあるものや動かないものをナノレベルで観察することは可能です。
例えば、結晶表面に付着する原子や結晶中の原子は大掛かりな装置を使えば見ることができますし、DNAやタンパク質といった生体分子も結晶化させてやればX線回折や電子顕微鏡を使ってみることができます。
しかし、この結晶化というのが厄介で、タンパク質のような大きな物体を結晶化するのは難しい上に動きが固定されてしまうため、生きた状態=動いている状態で見ることは困難です。
最近ではX線小角散乱法などを使って液体中の構造を調べる方法もありますが、こちらも残念ながら直接観察はかないません。
直接見る技術として有力な方法の1つとしてAFMという技術があります。これは針を使って表面をなぞることで、その針が凹凸を検知して、ナノレベルで画像にすることができる方法です。
そんな方法があれば見れるんじゃないの?と思われるかもしれませんが、そんなに都合よくは生きません。例えば、ナノレベル以上の凹凸がある基板の上では当然画像が乱れて見えなくなってしまいますし、そもそもナノレベルだと広い平面の内どこを見れば良いのか分からないという問題があります。
学生時代、私の身近に使っている人がいましたが、話を聞くとかなりテクニカルなスキルも要求されるとのことでした。
そんなAFMですが、最近はハイスピードで観察する技術も生まれて、どうにか使えないかと工夫したのが今回の研究です。
DNAオリガミを使って位置を固定する
この打開策となったのがDNAオリガミです。このnoteでも何度か紹介しているDNAオリガミですが、いったい何に使うの?と思われていた方も多いでしょう。
DNAオリガミの実用例の1つとして、ナノレベルの足場を作るという使い道があります。DNAを設計することで、サイズや形を制御した平面的な足場を作ることができます。
このDNAでできた足場に抗体とくっつくエピトープを用意しておくことで抗体を捕まえてくれます。
研究者たちはこのDNAでできた足場を観察することで、抗体の動きやその安定な形を調べることができました。
DNAでできた足場にはエピトープを決められた間隔で配置します。この間隔の違いが重要で、抗体の安定的な形を調べることができるんです。
実際に見てみるとこんな感じに見えます。上の画像の白く光ているところが抗体です。
なんだかモヤっとしていてわかりにくいなと思いますよね。でも、このレベルでも見えてるだけですごいんです。しかも重要なのはハイスピードAFMで撮影したので、動画で動いている様子がわかるということです。
その詳細は次から見ていきましょう。
抗体の直接観察と安定な構造
今回評価に使った抗体は免疫グロブリン(IgG)と呼ばれる物質です。
映像として動画に収めることができるため、実際にこの抗体が三角形のDNAオリガミの表面に吸着する様子が観察できます。
さらに詳細に観察すると、くっつく前から1か所でくっつく場合、そして2か所でくっつく場合とそれぞれの状態をモヤっとしてますが観察することができました。
イメージ図と照らし合わせると確かにそんな感じがしますよね。
加えて、抗体の吸着のしやすさについても観察と計算をもとに考察されています。抗体がDNAオリガミの足場に2か所くっつく場合、足場に用意された吸着サイト(エピトープ)の間隔が重要だと前述しましたね。
この吸着サイトの間隔によって抗体は少し足を広げて(形を変えて)くっつきます。この形を変えるというのが、抗体を研究する上で重要なポイントになるわけです。
抗体やタンパク質といった生体分子はソフトマターとも呼ばれる柔らかい物質です。この柔らかい物質は少しぐらいなら自由に形を変えられる一方で、大きく形を変えるためにはエネルギーが必要になります。
要は、一番自然な形というのが、一番エネルギーのいらない安定な形といえるわけです。それがこれまでの結晶化などでは、本当に単独で存在するときに安定な形かどうかわからなかったわけです。
この単独で存在しているときに最も安定な形を調べるというのが今回の目的でもあります。
様々な間隔を持ったDNAオリガミの足場に吸着するときに速さから、どうやら免疫グロブリン(IgG)という抗体は10nmに足を広げているのが最も安定だとわかりました。
この距離は計算結果からも推定される長さであり、これよりも短くても長くても余計なエネルギーが必要であるということがわかりました。
このナノレベルの計算結果と観測結果が一致するというのはなかなか素晴らしい話ですね。
最後に
今回はDNAオリガミの足場を使って抗体の安定な形を直接観察する方法を紹介しました。
これまで研究者たちが計算上でしか示すことができなかった特徴を実際に目で見ることでより確かな情報を得ることができます。
そして溶液中に単独で存在する抗体の安定な形を理解することは、医学の上でも生物学の上でもとっても重要なことなんです。
今後もウイルスや感染症の問題などが出てくると思いますが、そんな課題をいち早く解決する手助けになるかもしれませんね。
参考文献
Capturing transient antibody conformations with DNA origami epitopes