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ナノ材料を生み出すハーブティー

ナノ材料というのはとてもユニークで面白い特徴を持つことから未来の材料として期待されています。

その一方で、ウイルスぐらいのサイズしかないナノ材料を作るのはそう簡単ではないのが現状です。

そんな中、誰でも知っているお茶を使って、高い汎用性が見込まれるZnO(酸化亜鉛)のナノ粒子を作ってしまうという研究があります。

今回は、そんな茶葉を使ったナノ材料開発の世界を見ていきましょう。

お茶を使って材料開発

これまで様々な生き物が作るナノテクノロジーについては何度も紹介してきましたね。

そして、今度は茶葉に含まれる物質を使うことで効率よくナノ粒子を作るという研究が行われました。

使用されたのはBush Teaと呼ばれる南アフリカでよく飲まれるハーブティーに使われる茶葉のようです。

この茶葉から直接ZnOナノ粒子が得られるのかと思いきや実際はそんな簡単な話ではありません。

この茶葉は粉砕され様々な加工を受けたのち、亜鉛(Zn)の元ととなる硝酸亜鉛水和物と混ぜられます。

さらに、この混錬物を加熱するなど処理を施すことにより、中からZnOナノ粒子を生成することができたようです。そんなにいろいろ処理をするなら、初めからまっとうな方法で作った方がいいんじゃない?というツッコミはやめておきましょう。

ZnOナノ粒子の一例(参考文献より引用)

研究というのはそんなものですからね。それにしても茶葉と薬品が混ざったところからナノ粒子が生まれるというのは何ともロマンがあるじゃないですか!

お茶は意外と有能だった

ナノ粒子を作るときに最も重要なことはサイズを調整することです。一般的に、テキトーな方法でナノ粒子を製造するとサイズがバラバラになってしまい、それをろ過したり遠心分離したりして、均一のサイズでそろえなくてはいけません。

なぜなら、ナノ粒子は同じ材料でできていてもサイズが違うだけで性質も変わってしまうからです。

今回開発されたお茶を使ったナノ粒子製造法では、初めに投入する硝酸亜鉛の量を調整することで、ナノ粒子のサイズを容易に変えることができたようです。

硝酸亜鉛の量を1gまで少しずつ増やしていくと、徐々にナノ粒子のサイズが小さくなったようです。
一方で、さらに多くするとどうなるのかとやってみると、今度はサイズが大きくなってしまいました。

やはり、小さなナノ粒子をいかに均一に作るかが求められているため、この場合は1gがちょうどよかったということになります。そしてそれ以上に、この発見は前述したようにいとも簡単にナノ粒子のサイズを調整することができるということが明らかになったわけですね。

ちなみに、このような生物由来の材料を使用すると必ずと言っていいほど課題になるのが不純物です。そもそも、生物というのは非常にいろいろな元素が紛れ込んでいますからね。

その心配をかき消すかのように、純度の高いナノ粒子を得ることができたようです。それも最初に加える硝酸亜鉛の量を1g以上にすると不純物がなくなっていくという、サイズの面からも純度面からもちょうどいい結果が得られました。

さらなる挑戦

ここまでお茶の意外なすごさにフォーカスして紹介してきましたが、そもそもどうしてZnOというよくわからないナノ粒子を作ろうとしているのでしょうか。

冒頭でZnOはいろいろなものに使えると書きましたが、研究グループではZnOのバンドギャップに注目しています。バンドギャップって何?って方はこちらの記事をご覧ください。


非常にざっくりと紹介すると、バンドギャップは固体物質の電気的な特性とも言えます。電子デバイスへの応用や光との相互作用といった幅広い領域に影響のあるバンドギャップが面白いという点でZnOの研究をしているんですね。

そして研究グループはナノ粒子のサイズを調整しただけでなく、今度はナノ粒子に添加物を加えるという実験を行いました。具体的には銀とセリウムという金属を添加物を与えてどんな粒子ができるのかを確かめたわけです。

銀を添加した場合(参考文献より引用)
セリウムを添加した場合(参考文献より引用)

どうして突然添加物なんか入れたの?と思われるかもしれませんが、この添加物は専門用語でドーピングともいい、材料のバンドギャップに大きな影響を与えます。

この添加物を加えることで、お茶で作ったZnOナノ粒子のサイズだけでなくバンドギャップまでわずかではありますが制御できるようになったそうです。まあ、そんなことを聞いてもだからなんだ?って思わるのが普通でしょう。

ただ、想像するのが難しいバンドギャップよりも面白い現象が見られました。それはナノ粒子の形状が球形からロッド状に変化したんです。銀とセリウムという添加物はナノ粒子の特徴だけでなくその形まで変えてしまったわけですね。


最後に

今回は、お茶を使ったナノ材料開発について紹介しました。これまでたくさんの生態模倣(バイオミメティクス)関連の研究を見てきましたが、お茶を使うというのは初めてでした。

ハーブティーを材料研究に使うという突飛な発想も面白いですよね。それも純度の高く製造方法としても一般化できそうな手法です。

もしかしたら、将来のナノ粒子工場にはお茶がたくさん使われるなんて未来もあるかもしれないですね。


参考文献

Effect of Optimized Precursor Concentration, Temperature, and Doping on Optical Properties of ZnO Nanoparticles Synthesized via a Green Route Using Bush Tea (Athrixia phylicoides DC.) Leaf Extracts

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