夕日と共に沈むのは、遠くの誰かの嘆き。
私は女の子を知らなかった。
成熟した女性も知らなかった。
長い日を共にした幼馴染が「好きだ」と告げてくれた時何もかもわからなかった。
わからなくて、「私も好き」としか言えなかった。
それは本当の気持ちだった。
けれどとても付き合うことはできないと思った。
彼が求めているものを差し出すことはできないと思った。
なぜなら私にはないものだから。
初めからないものなのだから。
私はその骨ばった四角い肉体を愛する嗜好を持ち合わせていなかった。
どちらかといえば触れていて気持ちの良いやわらかな女体の方が好きだった。けれどそれは自分で事足りるから女の人を愛するにも至らなかった。
私には何もなかった。男の子を愛することができなかった。
好きな人に触れたいという感情がなかった。
触れられたいという感情はもっとなかった。
私は女の子でいることができなかった。
周りの子と楽しく恋バナすることができなかった。世界に置いていかれているようだった。
苦しかった。
私の知らない喜びをみんなが知っていてずるいと思った。悔しかった。
私には何もなかった。今までずっとなにもなくて、これからもずっと何もない。
なのにお姉ちゃんは「いつ結婚するの?」なんて言う。「あなたもいつか寂しくなるよ。1人でいられなくなるよ」と。
そんなこと勝手に決めないで欲しかった。私の幸せは私にしか決められないものであるはずだ。
ツイッターもインスタグラムもうるさかった。幸せな恋愛の投稿がリアルと創作のどちらも溢れていて本当にうるさかった。
私が享受できない幸せなんてなくなって欲しかった。
恋愛をせずに幸せに生きると決意したけれど、すぐに自信が底を尽きる。
本当はずっとコンプレックス。みんなずるい。世界がずるい。
世界を変えられたらいいのに。
あの幼馴染とずっと仲良くいられる世界だったら良かったのに。
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