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シネマな日:小さな映画館、異国の記憶

身体を整えるためには、食事や運動、睡眠のほかにも心の栄養が必要。

最近タスクAと名付けたものに追われていたけれど、終わりが見えてきたのでシネマに行くことにした。

本当は終わらせてからでかけたかったのだけれど、それを待っていたら上映終了してしまうし、平日の昼下がりから映画に行けることももうなかなかないだろうと思い、勢いに身を任せ流れるように玄関の扉を開けた。


『わたしの叔父さん』を観るために恵比寿ガーデンプレイスに向かった。

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女の人が好きそうな都会のオアシス。多分にもれず私もそこそこ好き。

ガーデンプレイス自体は5回目だけれどシネマは初めてだった。

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ふだん映画は住んでいる場所から1番近いところに行くけれど、ちょっとマイナーな映画だと場所が限られる。時間はかかるけれどそのたびに新しいシネマに出向くことはとても楽しい。

小さな映画館は個性があるところが多くて面白い。

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恵比寿ガーデンシネマはラグジュアリーな空間だった。

売店でホットチョコレートが売っていてそれだけでも素敵に思えた。

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カフェにプラスしてちょっとした作業のできるスペースがある。これは映画を観た後の写真。観る前(15時ごろ)はブラインドが開いていて光がいっぱい入っていた。


シアターへ。

私はいつも後ろのほうの席に座る。ここのシアターはあまり傾斜がなく、後ろのほうの席でもスクリーンをやや見上げるようなかたちだった。

ちょっともぐっているような感覚にもなれて落ち着く。より臨場感がある。結構好きなタイプだ。


『わたしの叔父さん』は小津安二郎を師として仰ぐ北欧の監督が撮った作品で、『晩春』と似たつくりになっている。

固定されたカメラ。音楽がほとんど登場しない世界。叔父と姪。温度、湿度、情緒がひしひしと伝わってくる映画だった。

実際に本当の叔父と姪が演じていること。農場は叔父さんのものであること。獣医に興味を持つ姪を演じる女優さんは元獣医だったこと。

リアルなのだ。リアルに加えて『晩春』ぽいということで、わたしは観に行かないわけにはいかなかった。

吸いたいのだ。異国の日常を。私の人生と違うものを。


全体を通してデンマークの農場を舞台に日々の生活の場面がドキュメンタリーのように映し出され、豊かな日常を摂取することができる。

牛の声に起こされる明け方。主人公クリスの着替え。カーテンを開けて叔父を起こす。セリフは少なく牛の声だけが響いている。すごくいい。叔父さんのために石鹸のボトルをボンッと置くところとか。音がいい。こんなvlogが私は観たかった。

朝、パンにヌテラを塗る叔父。シリアルを食べる姪はいつも懸命に数独をしている。テレビのニュース。彼らの日常とかけ離れていて国際問題も下界の出来事の様だ。

スーパーのレジにはレールがひかれていて、ウィーンのスーパーを思い出した。アルファベットが描かれたジャムや洗剤も異国の香りがしてすごく良かった。私の身体に記憶されているウィーンでの短い日々が思い出されて、その時感じた空気を脳内で揺らしながら映画を観ていた。

思い出せる街があることを幸福に思った。匂いを覚えていることを愛おしく思った。


ちょっとネタバレになるけれど、主人公の日常が大きく変わらないという結末も含めて晩春ぽいなと思った。もちろん変わるかもしれないと自覚した時点で彼女の心は動いているし全く変化がないわけではない。それでも自分の出世と天秤にかけてでも日常を手放せないところに愛らしさを感じた。

農場や叔父さんに縛られているようにみえる主人公は本当は幸福だとすごく思う。叔父さんを慕う娘。ほんの少しのいやらしさもなく健気な関係に見えた。若い男ではなく農場と叔父さんを選んだ。この物語は保守的な大人の都合のいい夢ではなく、クリスと言う一人の人間の強さと幸せを描いた作品だなと感じた。

強いきずなで結ばれた叔父と姪。そういう誰にも負けない関係を持っていると思えることは果てしなく幸福で、27の女性なのに他の世界を知らないなんてと思う周囲には想像できないほど最高の人生だと思う。「かわいそう」とは無縁だと感じた。


夜、感想を見て、上映している映画館が少ない分同じシネマで見ている人が多いことを改めて感じた。感想を読んでぐっときた。同じ空間にいた人たち。彼らはシネマを出て私と同じ景色を見て何を感じたんだろう。気になってしまう。


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夕暮れ手前のガーデンプレイス。やはり好き。


駅前で回転ずしを6皿食べ、渋谷に向かう。

続けて『スワロウ』を観に行った。食べ合わせ的には微妙だろうけれど東京最終日なのでしかたない。

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渋谷シネクイント。こちらも初めての映画館。

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主人公のハンターはストレスから異食症になってしまう。

普通の人ができないことをしてその無敵感を感じるということはとてもわかるなと思ってしまった。

普通の食べ物は少しも美味しそうではないのに、異物は本当に美しく描かれている。ビー玉、冷たい金属、映画を観ていると確かにおいしそうだと思えてくるのだ。

映像が美しかった。プールとか雨の降った屋上とかおもちゃとかドレスとか。

カリカリという感覚が印象的だった。氷を噛む音。異物を飲み込む音。スナック菓子。スマホゲーム。必要でないのに求めてしまう。たぶんハンターは味よりもカリカリという感覚が好きなんだと思う。じゃがりこだったりなんこつだったり、よくある食べ物だけれどわたしもカリカリを求めているところはあるので他人事じゃないなと思った。

ハンターがすごくかわいかった。揺れている表情。自分をコントロールできない危うさ。受動と能動の間のようなそんな主人公。自信のなさからか年齢よりずっと幼く見えるところもすごく良かった。素敵な演技。

あと音楽が良かった。ほとんど無音の映画の後に観たからこそ音によるスリルをより強く味わうことができた。


映画を観ると世界が変わって見えることが1番好き。『スワロウ』を観た後の世界は不安定で、ビー玉が美味しそうで夜が香ばしくて不安でお腹をなでてしまうようなそんな世界だった。

余韻を味わいたいから基本的に映画は一日ひとつしか観ないけれど、別の映画を観た後だからこそ感じられるものもあって、運命的で、映画のはしごもいいなと思えた良きシネマな日でした。

いつもありがとうございます🤍