たしかにこの街に天才少女がいた
その子がこの街に越してきたのは今から5年前だ。
街の中心地にあるこの店にやってきたとき、街のことについて事細かく聞かれた。地元の住人が長く住んでいるエリア、店の入れ替わりが激しいエリア、情報収集のできる飲食店、住人の品。
随分細かく聞いてきたのは住む物件を決めるためだという。
それから2週間後に賃貸契約を結びこの街の住人となった。
やがて隔週火曜日に来店する常連となり、近未来の計画についても話し合う仲となった。
彼女は野心家で明確な夢があった。ライフプランはしっかりと練り上げられており、とても新社会人の女の子とは思えなかった。
初めの頃から4年したら都心に移ると言っていたけれど、本業に加えいくつかの副業や資産運用をして、結局2年で出て行った。
今は白金の高級マンションに住んでいるそうだ。
時々立ち上げたサロンのPRのためにテレビに出ては、上質なブラウスとスカートを纏い大層落ち着いて話をしていた。
真柴ゆんは最初からそういう子だった。
イギリスの学校に通っていたから、日本も社会人も初めてだというのに余裕の表情で達観していた。
服はシンプルなのに洒落ていて、靴はいつも綺麗だった。
質問は具体的で無駄がなく、知りたいことが明確だった。おまけに愛想が良く聞き上手だった。
きっと彼女は彼女だというだけでこの世で上手くやっていける自信があったのだろう。
その直観と天性をいたく愛し信用していたのだろう。
「ここがたんと…いい店ですね」
ふいに来店した客に彼女の面影を感じた。
初めてあった時の彼女よりわずかに髪が長く大人っぽい顔立ちである。
私がぼうっと見ているとサイドテールの彼女は小首を傾げて言った。
「私、真柴ゆあです」
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