やっと無責任に愛をささやける
記念日にペアリングをプレゼントすると、その子は大きく驚いて小さな声でありがとうと言った。
それは抑制された美しさであった。
彼女とは付き合って4か月ほどだが学生時代からの友人で、初々しいスタートではなかったから意外だったのだろう。
元恋人にペアリングをあげたときは引くほど泣いて喜んでいたが、その子は冷静に指につけてふふと笑っていた。
それが実にその子らしくて好ましいと思った。
何も予定がなかったのでとりあえず近所の街に出かけた。
コンビニでピスタチオのパピコを買い2人で食べた。
古着屋さんでアクセサリーを見た。
疲れてケンタッキーに入る。
「思い出す?」
ふいにその子が言った。ウェーブがかった長い前髪から薄いヘーゼルの瞳が覗いている。
「芳江ちゃん。ケンタッキー好きだったんでしょ」
ふいに元恋人の名前を挙げられて驚いた。
芳江と付き合っていたころにはその子によく恋愛相談にのってもらっていた。
「思い出すね」
そういうとその子はくしゃっと笑った。
「素直でよろしい」
あわてて謝ろうとしたけれど、その子は気にしていない顔でレッドホットチキンを食べていた。
「私も花火を見ると思い出すわ」
その子の元恋人はすごくスタイルが良かった。
私はなんだかそれが少し負い目で時々嫉妬をする。
1番初々しいその子の隣にいたのがその人だったことにも。
その子は眼を細めて私の目をじっと見る。
多分全部見透かされている。
その子は全て食べ終わるとお手洗いに立った。
今私にできることは今のその子を愛することだ。
泣き虫だったころのその子を助けられなかったけれど、今のその子の笑顔を作ることはできる。
椅子に掛けられた刺繍のカーディガンはその子が長く愛用しているもので、今日も相変わらず可愛くてその子らしいと思う。
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