Art|ジョージ・スタッブス 《ミルバンク家とメルバーン家の人々》 困難なミッションに拍手
ロンドン・ナショナル・ギャラリー展の出品作の中から毎週1枚を取り上げて紹介していく、火曜の「Art」。今回で15回目(15枚目)になります。
昨年末から『ロンドン・ナショナル・ギャラリー展 完全ガイドブック』(朝日新聞出版、1540円)を編集・制作していたこともあって、ロンドン・ナショナル・ギャラリー展を応援しようと始まった企画です。
今回は、ジョージ・スタッブス 《ミルバンク家とメルバーン家の人々》です。
馬を描かせたら英国随一の画家
この絵は、画面の左端で馬車に乗っているの女性、エリザベス・ミルバンクが16歳、1769年4月13日結婚する際に描かれた記念の両家の肖像画です。
ジョージ・スタッブス《ミルバンク家とメルバーン家の人々》
1762年頃 ロンドン・ナショナル・ギャラリー
エリザベスの隣は彼女の父・ラルフで、中央でこちらを見ているのがエリザベス兄のジョン。右端で馬に乗っているのが、エリザベスの6歳年上での新郎ペニストン・ラムです。
ペニストン・ラムは、とても裕福なメルバーン家の財産を相続していた財産家で、ミルバンク家にとっては、いわゆる”玉の輿”でした。に結婚したのを
記念に家族で描いてもらいました。
そのため、ペニストン・ラムを右端でもっとも高い位置にしているのも、そうした両家の関係をうまく描いています。
ジョージ・スタッブスは、イギリス北西部の都市リヴァプールで、皮革商の家に生まれたました。家業が馬具を製造しっていたこともあり、競馬や競争馬の育成、狩猟といったものを描かせればイギリス随一といわれたといいます。
下の絵は、同じくロンドン・ナショナル・ギャラリーに所蔵されているスタップスが描いたホイッスルジャケットという競走馬の絵です。
ジョージ・スタッブス《ホイッスルジャケット》
1762年頃 ロンドン・ナショナル・ギャラリー
馬を解剖して、筋肉から内臓、骨格を知り尽くしたような正確な描写でありながら、生き生きとした生命力まで表現しています。
じつは《ミルバンク家とメルバーン家の人々》でも、ペニストン・ラムが乗っている栗色の馬のツヤの毛並みのよさは、ミルバンク家の2頭の馬とは明らかに大きく堂々と描かれています。馬を横からきちんと描いているあたりも、メルバーン家にとっては「わかってる、さすが馬のスタッブス」と唸らせたのではないでしょうか。
もしかしたら、自慢の馬を描かせるためにスタッブスに発注をしたのかもしれません。もしかしたら、メルバーン家が費用を多く出したのかもしれませんね。
スタッブスは、世界的に広く知られている画家ではありませんが、こうした「馬に特化した画家」として、一定の需要と評価を得ることができたわけですから、一芸をもつことはやはり何かに繋がるな、と思います。
一方で、ペニストン・ラムが新妻のエリザベスに視線を送っていたり、手前のしつけが行き届いた犬の存在なども、さまざまな配慮がなされています。
家同士の結婚という要素が強い貴族の婚姻ですが、コンプライアンスに配慮して最大限に気を使いまくった、困難なミッションを成し遂げたスタッブスに、盛大な拍手を送りたいと思います。