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Art|「都市」の最小単位は「人」である

毎朝7時からClubhouseで、食のこととか、アートのこととかお話しています。5月12日(水)には、アーティストの金子未弥さんと1時間ほど「都市の希望」というテーマでお話をさせてもらいました。

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未弥さんとは、2020年11月に参加した伊勢市クリエイターズ・ワーケーションでお会いしたのがきっかけで、伊勢から帰ったあとも、アトリエを見させてもらったり、SNSでも交流して連絡をとっていました。

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ここ1カ月ほど、フランス料理の歴史を学ぶなかでヨーロッパの中世・近代史を知る機会が増えると、ヨーロッパ史のなかでレストランの誕生は、産業革命以降に生まれた工場と農村との移動によって生まれた近代都市が大きくかかわっていることがわかりました。そして、「人々の移動」を前提として外食というサービスが生まれたことであることに気付きます。

新型コロナウイルスは、人々から「移動」を奪うものだとすれば、移動が前提の近代都市の在り方がかわるのではないか。都市が変わればおのずと外食(レストラン)も変わっていく(一部はなくなっていく)。だとすれば都市の未来を考えることは、レストランの未来を考えることなのではないかと思うのです。

都市についてもっと考えてみたいと思ったときに思い浮かんだのが、「都市」をテーマに作品を作り続けている未弥さんでした。

都市を描く、作家としての意思決定の強さ

未弥さんは、大学時代に作品を制作するテーマが決まらず悩んでいたといいます。散歩が趣味ということもあって、街をあるいていたときに、都市を形作る家や柱、ガードレールや標識、側溝にいたるまで、すべてのものが、人が意思をもって自分たちの手によって作られていることに気付いたそうです。

それぞれ隣り合うものがまったく違う人が作って関係性のないものであっても、一つの景観を作ってそれが都市になっていく。全部まぜこぜにしても都市となりえる存在に、「都市ってかっこいい!」と感じ、人々の場所に関する記憶のなかから「都市の肖像」を導き出そうとするような作品の制作を決めたといいます。

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photo:Motohiko David Suzuki

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photo:Hirofumi Tani

地図の沈黙を翻訳せよ》2017年

横浜市・黄金町のアトリエの前に「あなたの地図を見せてください」という募集を出して、持ってきてくれた29人の人が地図を持ってきたといいます(出典)。その地図の中に書かれている思い出深い都市とその周辺の都市の名前(英語)を黒い塗装をしたアルミ板に刻印していきます。

都市は、周辺の町や村というさまざまな場所との関係性によって生まれるものなので、その地図にある地名をすべて刻印していくんです

印象的だったというのは、地図を持ってきた人が、当然ながらすべて違う意味をもって地図を持ってきて、その中にある地図の記憶を話してくれたことだといいます。

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見えない地図を想像してください》2018年

地図の沈黙を翻訳せよ》から1年後に制作された《見えない地図を想像してください》は、マネックス証券株式会社のプレスルームを飾ったインスタレーションアートです。

ここに見えない地図が書かれていると想像してください。その地図上に『中心の場所』『重要な場所』『行きたい場所』『行った場所』『思い出した場所』をそれぞれ配置してください

というワークショップを7日間行い、およそ60人が作った「見えない地図」を重ね合わせて、そののなかにある場所を繋いでいるそうです(線と線が重なると点が生まれてしまうため、絶対に重ねない)。

地図の沈黙を翻訳せよ》では他者がもってきた地図の年を、未弥さんの意思で刻印していましたが、《見えない地図を想像してください》では「作為性を排除したかった」と他者に場所の位置関係を決めさせています。

60人の場所の記憶は、そのままその人の生涯になる。肖像画(セルフポートレイト)が重なり合う場所が「都市」なのではないか。そんな仮説がこの作品のなかに宿っているように感じます。

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未発見の小惑星観測所》2020年

未弥さん本人の作為性をなくそうとした《見えない地図を想像してください》から2年、《未発見の小惑星観測所》では再び作家本人の意思が大きく介入している作品を制作しています。

道路に面したガラス張りのギャラリー内で公開制作を行いました。公開制作中に訪れた人は私に電話をかけることができ、電話をその人にとって特に重要な場所とか、強く印象に残っている場所の話を伺い、私はその会話を元に地図を想像し、その集合から一つの「未発見の小惑星」のドローイングを描いています。(出典

壁を隔てた向こう側にいる人との会話のなかから地図を想像し、その重なりあいによって小惑星を描き出すというドローイング(作品の前の下書き)です。

《見えない地図を想像してください》は、参加者の意思に委ねていたのですが、その中に私ももう一度入っていきたいと思たからだと思います」と、未弥さんは制作の背景を話してくれました。

作家の意思を反映していく背景には、作家としての「意思決定の成長」があったといいます。

作品を私が加わることでより複雑に理解したいと思うようになりました。その背景には、それまで作品のなかで場所を決定する際の私自身の意思の弱さがあって、作為性を排除しようとした《見えない地図を想像してください》から、自信をもって決定できる強い意志が自分にできたということだと思っています

人と人との関係によって生まれる未弥さんがの都市は、もっともっと遠くに形づくられ、小惑星としてどこかに存在しています。

実は、誰とも共有することのできない「都市の記憶」はお互い数光年くらい離れているのかもしれません。では、たとえ誰も見ていなくても、都市は都市でいられるのでしょうか?当プロジェクトは、ワークショップを通して、数光年離れた先に漂っている都市のイメージに思いを馳せる試みです。(出典

意思をもって作品を制作する。未弥さんは、「私が聞いたことを、私が描く。私の経験をもとに描くしかないのです」といいます。

都市は、人が一人いれば都市になる可能性がある

clubhouseでは「未弥さんにとって『都市』の定義とはどういうことですか?」という質問を最後にしました。

都市は、人が一人いれば都市になる可能性がある」と答えてくれました。

人が一人いれば、食べ物を集めるためたり、生きるために情報を集めますよね。それによって関わりが生まれて都市になる可能性があると思うんです

都市という概念に対して「一人」という発想を用いて定義するのはおもしろいなと僕は感じました。都市は、人の集まりをイメージさせますから、個はその対極にある概念というか。

しかしながら未弥さんは、未弥さんが作る作品もそうだし、作品を通じて描こうとする都市の姿は、つねに「人と人との関係性によって生まれる」ということを言い続けています。

そう思うと、これまで線(形)に気をとられて見ていた未弥さんの作品が実は、交差する「」にこそ作品の本質であり、それは「都市の肖像」、つまり都市を構成する最小単位としての人の記憶なのかもしれません。

未弥さんが表現する都市が「人と人との関係性によって生まれる」とすれば、レストランもまた「人と人との関係性によって生まれる」ということが言えるのかもしれません。

今回のテーマである「都市の希望」という点でも個々の関係が希望の種になっていくのでしょう。線はあくまで補助線であって、その線が交差する点こそ、最小単位の都市を作るもの、そして未来のミニマルな都市の姿なのかもしれません。

都市」の最小単位は「」であるということに気付けたClubhouseでした。

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金子未弥さんの個展が横浜で開催されます!

BankART Under 35 2021 35歳以下の作家の個展シリーズ
BankART1929の2021年度の最初の企画展で35歳以下の作家の個展のシリーズ「BankART Under 35 2021」に7名のアーティスの一人として出展されます。ご興味がある方、ぜひ横浜・馬車道に観にいってみてください!

BankART Under 35 2021
会場|BankART KAIKO
(横浜市中区北仲通5-57-2 KITANAKA BRICK & WHITE 1F)
時間|11:00~19:00 
料金|一般200円(カタログ1種類1部進呈)、中学生以下及び、障害者手帳お持ちの方と付き添い1名は無料
※各作家の個人カタログ(A4版/16~24p)
http://www.bankart1929.com/bank2020/news/21_018.html

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明日は、「Event」。シードルイベントについて。

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江六前一郎|Ichiro Erokumae|Food HEROes代表
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