応援したくなるレストラン「West End」で得た新しい感情
先日のポップアップレストラン「HINODE」は、レストラン・エクスペリエンスをどこまで拡張できるか? という僕なりの実験でした。
レストランで食事をする行為は、店からサービスを受けるのが前提の受動的行為であることがマインドセットとして、根強くあるんじゃないか。
もちろん、素晴らしい料理、希少な食材を最適に調理した料理をいただく歓びは格別なものがある。しかし一方で、オンラインサロンなど自由な発言をするために有料のサービスに能動的に属するというのが当たり前にある現代で、利用者側のマインドセットを強制的に変えることができれば、能動的なレストラン・エクスペリエンスが生まれるのではないか、というのが「HINODE」の実験でした。
HINODEのアイディアの源泉West End
じつは、このHINODEには、アイディアの源泉になったポップアップレストランがあります。それが22歳の料理人、前田将之助さん(右)と、同じく22歳のソムリエ、谷口拓郎さん(左)、24歳のバーテンダー、國澤陽一さん(中央)による「West End」でした。3人はそれぞれ別の店に勤めていて、「West End」のときだけ集まるチームです。
僕が行ったのは、West Endのvol.05の9月8日の夜の部。この夜で僕は、それまでのレストランの楽しみ方のマインドセットをがらりと変えさせられる体験をします。
7月に僕らが始めたU-30の料理人向け勉強会「Easy going」に前田くんが来てくれたのが交流の始まりです(じつはそれ以前からすでに僕は一方的にTwitterで前田くんも「West End」を知っていて、注目していたので、勉強会は直接DMして誘ったんです)。
一緒に行ったのは、ソウダルアさん。SNSでやりとりが始まって、1度だけリアルでお会いしてたことのあった出張料理人さんをお誘いして向かいました。
この回のWest Endの会場は、前田くんがその当時勤めていたレストラン「Magaribana」。前田くんたちの活動に、Magaribanaのお店が理解・協力をされて定休日に店を使うことを承諾したというのです。
これも、従業員の個人活動のために店を使わせるっていうのは、料理業界ではかなり異例で(実際お店の名前が出てしまうので、お店本来のイメージを損なう可能性もあるからです)、Magaribanaというお店自体のあり方も、時代に合わせて前例を乗り越えようとする素晴らしいお店だな、と感じました。
料理はデザートまで11品。それぞれにアルコールかノンアルコールのペアリングが付きます。価格は1万5000円。僕は、その時はまっていたノンアルのペアリングをチョイス。ルアさんは、アルコールだったので、両方のプレゼンを体験することができました。
三角関係
秋の季節
包まれた烏賊
石垣
(この色彩感覚、最高!)
金の卵の中のスープ
ノンアルはお茶とカクテルのペアリングでした
大切なアレ
(スペシャリテ、フォワグラのどら焼き)
大きな魚
(大きな魚=マンボウ)
土
ごちそう飯
(すき焼きのタレ丼へのオマージュ)
雪の山
分かれたタルトタタン
(温冷の差が抜群に良かったデザート)
若手のポップアップレストランはリアルなクラファン
料理は、おいしいかったです。マンボウとか初めて食べたし、タルトタタンの温冷の使い方とか好きでした。前菜の「石垣」の器の色味がオイルに反射して液体の表面がキラキラ青く光る感じも、美しかった。
音楽も、その8月に起きた京アニの事件に心を痛めたメンバーが、京アニゆかりのアニメソングを流し続けるとかも、1万5000円取るレストランではありえない演出ですが楽しめました。
料理の全体の感想としては、僕自身の食の経験の範囲の内と外の味のバランスを行き来するような味と表現すればいいのかな。40代のおじさんが、20代が聞いている音楽を聴いて、その音のルーツを感じながらも、聞いたことのない音色効果やノイズに面白みを感じるような感覚です。
料理やドリンクとのペアリング、サービスについても、まだ洗練できそうな部分はあるのだけど、それを乗り越えていくほどの彼らなりの新しいこと(調理法や食材)への挑戦、自分たちが感じていることへの表現欲求のようなもので満ち溢れていて。そんなとき、僕自身の中に当たり前にあった「レストランでの心の作法」のようなものとは明らか違う、心の動きをしていることに気づいたのです。
それは、本当にレストラン・エクスペリエンスとして初めてのことで、三ツ星レストランで感じる「楽しませてもらった」という喜びや、居酒屋などで「楽しんだ」のとままったく質の違う「心を開く心地よさ」がありました。
それは、僕がけっして普段心を開いていないということではなく(笑)、心の開き方、開く量、開く部分が違うというのか、自分のキャリアや経験に由来しない、誰かを受け入れようとする心というか。
それは、確実にWest Endの未完成さと未来への伸びしろを感じたからであって、この3人がこの先どうなっていくのかな、という未来像を思い描けたり、20歳も歳が違っても今日よりも明日の自分を信じて挑戦するような生き方に共感して、勇気をもらったことによる心の動きだったんです。
一方で、3人には3人なりの未来設計があるのだからそこを尊重していくようなアドバイスをしたいな、というおじさんのおせっかい心(一般にはこれをマウンティングというが)を伝えたいというコミュニケーション欲求も生まれて、「レストランに来て、まだ未知なる感情が生まれるのか」という、僕自身の発見もありました。
これってリアル版のクラウドファンディングだったんだなぁって今思います。
僕たちには、潜在的に人を応援したい(ファンになりたい)という衝動があって、応援する人の夢が支援をすることで、夢が達成した歓びと、それを多くの人と共有する快感を享受したい生き物なのです。売れないアイドルがスターへの階段を駆け上がるサクセストリーに感情移入してしまうあの感覚です。これはレストランを含めたエンターテインメントとすごく相性がいいのは、さまざまなファンビジネス(古くはスター誕生、高校野球~ドラフト、最近ではAKB48とか)が実証しています。
もちろんこれには、圧倒的に努力する過程がなければ感情移入できないわけで、West Endのメンバーの、料理への想いの強さも必要不可欠です。
レストランの同伴者の大切さ
また、一緒に食事をしたルアさんとは、初めての食事だったんですが、ルアさんの料理人になるきっかけだったり、僕自身が当時、前職の「料理王国」を離れたばっかりだったこともあり、やろうとしていることのビジョンを話させてもらったり。星付きレストランで完全な料理をしっかり食べてやろうというスタンスでもなく、居酒屋で話に夢中になるのではなく、West Endのメンバーを尊重しながら、2人の世界で話ができたのもすごく貴重な経験だった。
じつは、その時にHINODEのメイン装置である「投げ銭」についても話になって、「渋谷の小料理屋の店主をやっていたときに、投げ銭で営業していたことがあって、けっきょくは、値段を載せたお品書きを出していたときと同じくらいのお金を入れてくれていたよ」というルアさんの経験談が、その後のHINODEに生きていたりもします。
West Endをどなたと一緒に行こうか、結構迷ったんですよね。腕まくりして若手料理人の料理を食べに行くぞと料理批評をしに行くわけではないので、いっしょにレストランを楽しめる人がいいな、と。
そういう点でも、ルアさんをお誘いしてよかったなという経験が、「誰と料理を食べるか」によるレストラン・エクスペリエンスの価値の拡張がキーワードになり、「投げ銭」という装置を使って「レストランへの評価を今一度考え直したいという人たちの集まり」であるHINODEにつながっていくわけです。
West Endは、僕が行った9月のあと、10月にも開催されましたが、現在は3人の個人活動を重視して休止中とのこと。パワーアップして帰ってくるはずのWest Endを楽しみにしています。
シェアキッチンも増えてきて、今後もこうした「応援するレストラン」が、来年もどんどん増えてくると思います。みなさんも、応援したい料理人を見つけて、その料理人たちの料理を食べてみて、ぜひ心の動きの変化を体験してみてください!