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Event|みんながおいしく、残さず食べるって、じつはすごいんです

京急線の青物横丁駅から歩いて5分ほどにある、品川区立障害児者総合支援施設の1階には、就労継続支援B型の障がいがある方たちが働くカフェ「みんなのテーブル」があります。

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就労継続支援B型とは、障害者総合支援法による指定障害福祉サービスで、通常の職場では、働くことが困難な障がいのある方に対し、働く機会を提供するというものです。

このカフェを利用して、障がいのある方とそのご家族、さらには周辺地域の方が集まるランチ会が、2月14日のバレンタインデーに開かれました。

このランチ会は、2019年12月12日に続いて2回め(前回の記事は、下記にリンクしてあります)。フランス料理のコースを、障がいのある方も、そうでない方も、全員が同じ会場のテーブルについて食事をする。「みんなのテーブル」という、カフェの名前らしいイベントです。

今回のコースを作るのは、前回に引き続き「The Burn」(青山一丁目)のエグゼクティブ・シェフ、米澤文雄さん。そして、バレンタインデーであるにもかかわらず表参道のパティスリー「UN GRAIN(アン グラン)」のシェフパティシエ、昆布智成さんが参加。米澤さんが料理を、昆布さんがデザートをそれぞれ担当しました。

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グルメが見たらうらやむ、1日限りのスペシャルコース

この日のメニューは「春の訪れ」をテーマにした、前菜、スープ、メインの肉料理、デザートの3品です。

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マッシュルームのカルパッチョ パルミジャーノのソースと共に

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菊芋とトリュフのポタージュ

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牛ホホ肉の赤ワイン煮込み ジャガイモのピュレ

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 昆布パティシエによるスペシャルデザート

2月14日に、このスペシャルコース。特別なイベントであることを度外視しても、レストランファンやグルメな食通なら、「食べたかったー」という料理が並んでいますよね。

障がいがある方にもおいしいお料理、しかも普段はなかなか食べる機会がない、フランス料理を食べてもらいたい。そして、障がいがある方のご家族にも、一緒に食事を楽しんでもらいたいということが、このランチ会の大きな目的になっています。

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というのも、障がいがある方のご家族にとって、「家族そろっての外食」をするには、さまざまなハードルがあるからです。

障がいの度合いにもよりますが、たとえば急に席を立ったり声を上げたり、隣のテーブルの人に触れてしまったり。また、食事自体にも、たべやすいように料理をカットしたり、嚥下食を別に注文したりする必要がある方もいます。

実際には、食事場所に行くことも、もしかしたらさまざまなハードルがあるかもしれません。

そのため、前回のクリスマス・ランチ会の時の感想でも、障がいがある方が喜んでくれていたとともに、ご家族の方々が一緒に食事ができて楽しかったという声が多数上がっていたといいます。

このランチ会のシェフ側のオーガナイザーでもある米澤さんは、7歳年下の弟さんが障がいを持って生まれました。そのため、小学校からお母さまと一緒に弟さんの見舞いで病院に通っていたといいます。

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家族のサポートの大変さをよく知っています。また、家族そろって食事をすることの難しさも知っています。なので、こういった取り組みには、本当に大切だと思っています」と、米澤さんは、料理人としてかかわる理由を話してくれました。

昆布さんも、「障がいのある方とそのご家族は、外に食べに行きたくても、なかなか行けなくて、その方々にレストランの楽しさを体験してもらいたいんです、という米澤さんの考えに賛同して、二つ返事で引き受けました」と、パティスリーが一年で一番忙しい日のイベントの依頼も、すぐに返事をしたといいます。

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せっかく食べていただくなら」と、世界中の良質なカカオを知る「カカオハンター」小方真弓さんのチョコレートや、表参道にある紅茶専門店「ウーフ」のスペシャルアールグレー(紅茶)などのピカイチの食材をこの日のデザートに使ってるのは、特別な、この日だけのものを食べてもらいたいから、だそうです。

そうした2人の思いが伝わり、すべての料理を参加したすべての人が残すことなく食べ切りました。

この「すべての人が残さず食べる」というのは、じつはこのランチ会では、通常のレストランに比べちょっと大変なことです。障がいのある方の障がいの程度による食べるスピードに差があったり、好き嫌いが強くあったり、ご家族もサポートをしながら食べる必要もあります。

さらに提供される料理は、手が不自由な方には、あらかじめカットして提供したり、誤食によるリスクがある方には、細かく食材を刻んで提供するなど、「みんなのテーブル」を運営する愛成会のスタッフのみなさんのプロの知識も、プロの料理にしっかり反映されています。

こういった共創によって「全員完食」が達成されるのです。

レストラン全体で取り組みをサポートする

会の最後には、バレンタインデーということもあり、日頃「みんなのテーブル」でカフェスタッフとして働いている今村有花さんから、手作りのクッキーと手紙が手渡されました。そこには、こんなメッセージが書かれていました。

BURNの皆さま
いつも来てくれてありがとうございます。🌷←お花です。
いつも私に優しくしてくれて本当にありがとうございます。🌷←お花です。
フレンチも作ってくれてありがとうございます。
これからもよろしくお願いいたします。
みんなのテーブルより

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一生懸命書かれたメッセージは、米澤さんがエグゼクティブ・シェフを務めるThe Burnに向けてになっています。「みんなのテーブル」で火〜木に出しているオリジナルカレーを米澤さんが監修しているのですが、このカレーの仕込みをThe Burnのスタッフが交代で休みを利用して調理補助に入っています。

カフェスタッフとして調理も担当する愛成会の小川由香里さんは、「就労継続支援B型の2人が、みんなのテーブルに働いていますが、米澤さんやThe Burnの皆さんのおかげで、2人ができることがどんどん増えてきています」といいます。

この日もThe Burnからは、前回のクリスマスランチでもキッチンに入っていた駒ヶ嶺侑太さんがサポート。普段のキッチンを離れて、貴重な体験になったのではないでしょうか。

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このイベントだけでなく、日々のサポートをお店全体で現実的に行なっているのも、本当に素晴らしいことだと思います。

食のプロ、サポートのプロがいっしょにつくる「おいしさ」

ランチ会の参加者は40名以上。前回よりも参加希望者が増えたといいます。

参加者は、障がいのある方とそのご家族のほかに、「旧東海道品川宿周辺まちづくり協議会」や「しながわ観光協会」、近隣にある品川寺など地域の方々もいらっしゃいました。

みんなのテーブル」は、運営する側だけでなく、こうしたカフェを利用する地元の方々や取り組み自体をサポートする人たちの存在も必要です。

障がいのある方が、社会の一員として働くこと自体がひじょうに困難ななか、そのうえ客業やサービス業を行うというのは、たくさんのサポートが必要になると思います。しかし、それもおいしさを通じて生まれる思いやりや敬意の心が、可能にするのではないかと思います。

おいしい料理は、新しい社会を作る。この日のバレンタインのランチ会は、そんな希望を感じさせるひと時でした。

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写真は、米澤さんのお母様と7歳下の弟のたっちゃん(達也さん)。「しっかりした息子、兄の姿が見せられたかな」と米澤さん。何いってるんすか、だれにもできないすごい息子、兄ですよ!

みんなのテーブル(品川区立障害児者総合支援施設内)
住所:品川区南品川3ー7ー7 品川区立障害児者総合支援施設1階
営業時間:10:00〜15:30 (月〜金) ※カレーの提供は火〜木、11時から


米澤文雄 Fumio Yonezawa
高校卒業後、恵比寿イタリアンレストランで4年間修業。2002年に単身でNYへ渡り、三ツ星レストラン「Jean-Georges」本店で日本人初のスー・シェフに抜擢。帰国後は日本国内の名店で総料理長を務める。「Jean-Georges」の日本進出を機に、レストランのシェフ・ド・キュイジーヌ(料理長)に就任。2018年夏、THE BURN料理長就任。

主な受賞歴
2013年 アメリカ大使館「Taste of America」日本大会優勝
2015年 RED U-35 大会ゴールドエッグ受賞
昆布智成 Tomonari Kombu
1981年 福井県で230年の歴史を持つ和菓子店「昆布屋孫兵衛」の長男として生まれる
2004年 日本大学商学部卒業
2006年 東京製菓専門学校卒業
同年 東京に拠点を置きオーボン・ヴュータンにてフランス菓子の基礎を習得。その後 「ピエール・エルメ サロン・ド・テ」入社
2011年 メープルスイーツコンテスト入賞の経歴を持つ
2012年 渡仏し、南仏のパティスリー「リエデレ」でMOF(国家最優秀職人章)に師事しガトー・グラッセや地方菓子を学ぶ。その後、パリでは二つ星レストラン「ラトリエ ・ド・ジョエル・ロブション」でデセールを担当
2015年 アン グラン スーシェフ パティシエとして入社
2019年 4月よりシェフ パティシエに就任

※プロフィールは、各店の公式HPを参照しています

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