Human|青い日記帳のTakさん
「毎日noteを更新していてすごいですね」とか、最近は「毎朝Clubehouseやっていてすごいですね」なんて言われるようになりました。
自分的には、続けられること以外はやらないようにしているので、どちらかといえば「続けられる方法を見つける」ことの方を評価してもらいたいなぁなんて思っています。
「継続は力なり」ということわざがあるように、毎日続けることは、権威や地位を持たないものが戦い始める方法としては、もっとも成功率の高いものだと思っています。
noteである程度の読者の方を獲得できたのも、やっぱり毎日noteを書き続けたからですし、おかげさまでお仕事にもつながっています。
19年間、毎日美術に関するブログを書き続けている
僕が「続けること」の力を感じるようになったきっかけは、美術ブログ「青い日記帳」を主宰するtakさん(たけさん)の存在でした。
青い日記帳は、主に美術展の紹介や美術本の新刊の紹介、イベントなどを発信するブログで、2002年11月28日から毎日更新されています。
19年間毎日ですよ。信じられますか?
takさんご自身は、美術ブログはあくまで趣味で、本業を持ちながら始めたものでした。
僕がtakさんに初めてお会いしたのは、2011年末だったと思います。2012年に、フェルメールの《真珠の耳飾りの少女》が来日するのにあわせ『フェルメールへの招待』という本を作ることになりました。その際に「フェルメールにめちゃめちゃ詳しい人」ということで、本の監修をしてくださった國學院大學の小池寿子先生にご紹介いただいたことがきっかけでした。
その本のなかでtakさんに、作品解説をお願いしたわけです。それがtakさんにとっての美術本デビューという記念の本だったこともあって、それ以来ことあることに声をかけていただいたり、僕自身もいろいろなお仕事をお願いして、今でも連絡を取り続けている方です。
今でこそ、ブロガーさんが本を出したり、noteのクリエイターが著作を出したりすることは当たり前になりましたが、それこそ10年前は、まだまだブログのようにwebを活動の拠点にしている方を「素人」と捉える風潮がありました。
とくに雑誌や書籍がメディアとして高次の存在であるとプライドを持っている人にとって(僕も当時はその一人)、takさんのこともどこかで「素人」という目で見ていたというのは、正直なところです。
思い返すとすごいなと思うのは、紹介していただいた小池先生なのですが、そういった業界のなかで作られたヒエラルキーのようなものを取り払って、純粋にtakさんの「フェルメール熱」に、伝える人の才能を見出していたことです。
今でこそ「好きなことだけする」みたいな価値観が根付いていますが、当時はそういうのは、なかなかまだ理解が難しかったように思います(少なくとも僕にとっては)。
takさんは、その当時からすでにインターネットのなかに熱烈なファンがいらして、『フェルメールへの招待』が発売された後に、出版記念会を有志が企画されたりして、オフ会みたいのをまったく知らずに来た僕には、その会にかなりのカルチャーショックを受けたものです。
おかげさまで『フェルメールへの招待』は5刷りまで行って、僕の編集者人生のなかで、もっとも売れた本になっています。
時代を予見したtakさんの感性
『フェルメールへの招待』がきっかけでお会いしたときには、すでに10年間。それから9年間も引き続き毎日ブログを書き続けているのは、継続ということをはるかに超えた、もはや表現の域に達しているように思います。
『フェルメールへの招待』の当時は、まだまだインターネットのなかの有名人だったtakさんも、それからも書き続けることで、その存在を広く知らしめるようになられました。紙媒体への執筆は常連になっていますし、今ではアートの案内人として、インターネットテレビにも出演する著名人になっています。
2015年には初の著書『美術展の手帖』を小学館から上梓すると、その後も『いちばんやさしい美術鑑賞』(ちくま新書、2018年)などの著作を発表する作家にもなり、美術界で影響力をもつ存在になられました。
そんな今でもtakさんの本業がほかにあり、美術についてはあくまで副業というスタンスです。
takさんの活動を長い間見させてもらっていて感じたのは、毎日更新を続けることで、読者の反応を常に感じ続け、ニーズや流行の変化に敏感でいられていること。それが時代が求める視点をいち早く察知する力を磨かれているところなのかな、と思っています。
本の企画を相談すれば、出版界からだけの視点では思い浮かばない発想をいただけたりするんですよ。
たとえばフェルメールの企画を相談したときは、「フェルメールの作品のなかで、部屋に飾りたい作品はどれとか、おもしろい企画じゃないですか?」なんてことを5年くらい前に言われました。
「歴史的絵画を家に飾ることができないのに、何を飾りたいかなんて、妄想も甚だしいなぁ」と思った記憶があるのですが、今となっては多くの海外美術館で、個人使用に限っての作品のフリー画像をダウンロードできるようになって、それをプリントアウトすれば、自宅に名画を気軽に飾ることができる時代になりました。見事に、未来を予見しているわけです。
僕は、そのことに気づくのに3、4年くらいかかってしまうわけですが、それを認識した時にようやく、takさんの本当のすごさを認識して、継続する力のすごさを実感することになるわけです。
継続することでまわりの変化に敏感になる
継続することで得られる力、とは何なのでしょうか。
僕は、時代の変化に気づく力なのではないか、と思っています。
takさんの「青い日記帳」のブログを見ていると、本質的にやっていることは変わりません。美術ファンのために、最新な情報を提供することを、19年間続けていらっしゃいます。
自分の手法が根本的にかわっていかないからこそ、まわり(時代)の変化に気づくことができる。それが続けることの最大のポイントで、力をつけられる理由なのではないかと思います。
だからこそ、新しい企画を考えられるし、引く手数多な存在になるの。
僕はnoteを毎日書き始めて、まだ1年2カ月。takさんの10分の1もできていません。ということは、まだまだ続けることで得られる発見が待ち構えているということでもあります。
20年後、僕は60歳を過ぎています。どんなことを書いているのか。今から楽しみでなりません。
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明日は「Work」。「編集者は24時間仕事をしている」というタイトルで、人生と仕事について書きます。