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Rock|T-レックス《電気の武者》
マーク・ボランというロック・アイドルをご存じだろうか。
The Whoが「I hope I die before I get old(歳をとる前に死んでしまいたい)」と歌った時代をそのまま体現するように、ジミ・ヘンドリックス(享年27)、ブライアン・ジョーンズ(享年27)、ジム・モリソン(享年27)、ジャニス・ジョプリン(享年27)といった多くのロック・スターが20代で亡くなっている(ピート・タウンゼットもロジャー・ダルトリ―もまだ健在だが)。
マーク・ボランもまた、自ら「30歳になる前に血まみれになって死ぬ」と予言したように、30歳の誕生日を2週間後に控えた1977年9月16日に、愛人のグロリア・ジョーンズが運転する車の助手席に乗車中に事故に遭い亡くなった。
1971年にリリースされた《電気の武者》は、デヴィッド・ボウイとともにグラム・ロックの旗手といわれるボランがフロントにたつバンドの6枚目、T-レックスに改名後としては2枚目の作品で、グラム・ロックの最初の全英チャートで1位を獲得したアルバムである(ちなみにデヴィッドの全英1位は、73年の《アラジン・セイン》になる)。
(《ジギー・スターダスト》は全英5位どまり)
預言者であり魔術師であり近代を否定する存在
同じグラム・ロックの牽引者と言われるマーク・ボランとデヴィッドのアルバムを聴き比べてもらえると、音楽的な共通点を多く見つけることはできない。
パーカッションを多用して、西洋音楽のすり足のような水平に動くリズムではなく、黒人音楽などを消化して、飛び跳ねるように縦方向のリズムを使っていて、メロディ自体もデヴィッドのように洗練されたものではないし、プリミティブな印象を与える。そこに、ストリングスやブラスが重なり、ゴージャスな要素も見えてくる。
ビジュアルも、チリチリのソバージュヘアで、どぎついメイク、きらびやかな衣装で、セクシャルというよりは、預言者や魔術師といった社会の外側にいる反近代的な存在に映る。自らバイセクシャル宣言をしたデヴィッドとはかなり対局にあるように感じる。
《ゲット・イット・オン》は、T-レックスの音楽性がひとつの様式美にまで到達した楽曲だ。バンドで、T-レックスっぽいのやろうぜ!ってなったら、キーはEで、低音のギターリフと、小気味よいカッティングをまぜて、ブギのリズムで、ってすぐにセッションができる。それくらい、ザ・T-レックスといえるビック・ヒット・ソングだ。
ブラスの合わせ方、ストリングスののせ方は、デカダンで、まるで画家クリムトのような退廃的なイメージがある。
《コズミック・ダンサー》は、一転してマーク・ボランの弾き語りスタイルの美しいバラードだ。
アコースティックギターと、手数の多いスネアがパーカッシブに進んでいく。低音のストリングスから徐々に浮遊していくとうなメロディーにかわっていく部分はドラマティックとして言いようがない。
そして、アルバムの最後の曲《リップ・オフ》。この曲は、T-レックスのなかでも、僕が一番好きな曲。ギターとブラスとストリングスがユニゾンでリフを繰り返す。この分厚い音の塊が迫ってくるような狂乱な感じでがたまらなくかっこいい。そしてマーク・ボランのヴォーカルがどんどん乱れてまわりが真っ白くなっていくような、そんな場面が想像できる。
アイドルとしてのマーク・ボラン
T-レックスは、バンド自体は、スタジオミュージシャンが集まって最高の演奏をするけど、マーク・ボラン自体の演奏は、はっきり言ってテクニカルではない。ギターソロもたまに弾くけど、メロディーとニュアンス重視。ミュージシャンから見えれば、「あんなの誰でも弾ける」と言えるだろう。
しかし、テクニックを超えたマーク・ボランという人間の存在感は、「あんなの」と笑う人たちの比ではない。それを人はスターだったり、アイドルと人は呼び崇め、そして同様にプロパーな存在が陰でののしる。
マーク・ボランは、デヴィッドと同じように、セルフプロデュース能力に優れているといえばそうだし、1971年といえば、レッド・ツェッペリンといったハードロックバンド、技巧派バンドが新しいジャンルとして広がったなかで、その逆張りともいえる、演奏スタイルを狙って支持されたのも、市場の原理としては理解できる。
ビートルズという巨大なロックマーケットの次にどう表現者は頭を使ったのかというポスト・ビートルズ、ポスト消費ロックの一つの回答のようにも見える。むしろもっと大きな、エルヴィス・プレスリーによって誕生したロックン・ロールというアイドル産業の原点回帰であることも、おそらく指摘できるだろう。
これは、T-レックスだけでなく、グラム・ロックの最盛期といえる1972年のライヴ映像だ。映像に映る失神しそうな目で踊る人たちを見ていると、エルヴィス・プレスリーのコンサートの映像を思い返さざるを得ない。
そういえば、マーク・ボランが事故死する1カ月前に、ルーツ・オブ・ロックンローラーのエルヴィス・プレスリーが処方薬の大量摂取が原因で亡くなっている。享年44。寝室のバスルームで倒れていたのを発見された。
奇妙な巡り合わせは、マーク・ボランという存在をさらにミステリアスにしている。
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【明日の予告】
明日のnoteのテーマは、自分自身の生き方や、それに影響を与えた出来事、これから生きるうえで考えることなどをまとめる「Life」です。「ニューノーマル」について、自分なりに考えてみようと思います。
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