Art|クレラー=ミュラー美術館
オランダの中央部にあるデ・ホーヘ・フェルウェ国立公園の一角に、クレラー=ミュラー美術館はあります。設立は1938年。貿易事業で財を成したアントン・クレラーの夫人のヘレネー・ミュラーが購入したコレクションをもとにした美術館です。
ヘレネー・ミュラーは、オランダの美術批評家H.P.ブレンマーの師事を受けながら、1905年頃から、当時の前衛的な美術運動である表現主義の作家の作品のコレクションを始めます。
とくに顕著なのはゴッホ作品のコレクションの量です。1908年に最初にゴッホの作品を購入すると、1920年代ころには、油彩画90点、デッサン110点を収集します。オランダのアムステルダムにゴッホ家が旧蔵していた作品を展示する「ファン・ゴッホ美術館」がありますが、それに次ぐゴッホコレクションといえます。
《夜のカフェテラス》や《アルルの跳ね橋》、《星月夜の糸杉のある道》などの、ゴッホのハイライトといえる作品を所蔵しています。
オプティミズムが未来を作る
ヘレネー・ミュラーとH.P.ブレンマーの共同コレクションという意味合いもある作品群を見ていくと、ゴッホだけでなく、新印象主義の画家、スーラやシニャック、ピカソにモンドリアンなど、”当時の”現代画家の作品を自分たちの眼で購入していったのは、もちろん巨大な財力があったのはもちろんですが、すばらしい審美眼と先見性を持っていた2人なのだろうなと、感心させられます。
とくにこの時代は「美しさとは何か?」ということが問い直された時代。たった30年前には印象派が批判されていたような時代に、表現主義を推し進めていく画家たちを積極的に認めていこうという姿勢は、さまざまな伝統のなかで硬直化しがちな分野で見習うべきもののような気がします。
この時代、印象派、新印象主義、表現主義、キュビスム、未来派とさまざまな美術運動が生まれた時代です。こうした活気あふれる状況に、ヘレーネはオプティミズム(楽天主義)を掻き立てられ、自らもその流れのなかにいることを意識しながら、美術の将来を信じて絵画の”理想”を追い求めていきました。
多様な様式の向こうにあるオプティミズム。インターネットによってコミュニティーが多様化していく現代にあって、ヘレーネのような楽天主義がさまざまな文化を先に進めていくのかもしれませんね。
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