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Rock|ザ・フー《フーズ・ネクスト》

日曜のテーマRockの第回7目。既存の価値観を破壊するRockという表現方法がもつ本来の役割を、今一度理解することで、文化はどう作られていくのかを考えていきたいと思っています。

今週は、前回紹介しましたザ・ローリング・ストーンズ、そしてビートルズとともに英国三大バンドの1つとされるザ・フーです。

フーのアルバムのベストは何か、と考えると、ロックオペラ的な大作《トミー》や、衝撃のデビュー作《マイ・ジェネレーション》など、いろいろあって迷うんですが、ギタリストで、バンドの中心人物ピート・タウンゼットのシンセサイザーで始まる「ババ・オライリィ」が入ってる《フーズ・ネクスト》なんだよなぁと、あらためて実感。今回は、このアルバムを紹介します!

ブルース色を感じさせない稀有なバンド

英国バンドといわれながら、ビートルズやストーンズに比べて日本での知名度が低くて、ジョン・レノン、ポール・マッカートニー、ミック・ジャガーといった有名ミュージシャンと比べて、フーのメンバーの名前は1人も知らないっていう方が多いではないでしょうか。

ロジャー・ダルトリー  Roger Daltrey(ヴォーカル)
ピート・タウンゼント  Pete Townshend(ギター)
ジョン・エントウィッスル  John Entwistle(ベース)
キース・ムーン  Keith Moon(ドラムス)

ほら誰もしらないでしょ(笑)。ザ・フーは、現在も活動をしているのですが、ジョンとキースは、すでに他界しており、ロジャーとピートでライヴを続けています。

The Who ザ・フーは、1964年にデビューしました。デビューの年で比べると、ビートルズが1962年、ストーンズが1963年なので、ちょうど3兄弟のような関係にあります。

上の2人の兄貴たちはどっぷりとアメリカの黒人音楽に浸かっていたのに対し、末っ子のフーは、初期こそコテコテのシカゴブルース(日本でいえば、地方民謡みたいな)をやっていたりしたそうですが、パワーポップとか、ビートロックというようなテイストが見える、いわゆるモッズバンドとしてデビューしました。

とくにメインのソングライターであるピート・タウンゼットのギター(とくにスタジオアルバムでは)には、ブルースの影がほとんど見られず、同時代のギタリストのなかではかなり異色の存在であることは、強調しておきたい。

ロック=黒人音楽への勘違いオマージュ(これは、研究してみたいテーマだな)だったイギリスにおいて、ブルースの影をもたい、ポップバンド・フーの到達点が《フーズ・ネクスト》(1971年7月リリース、6枚目のスタジオアルバム)なのです。

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ちょっとどうでもいいんですが、このアルバムの1曲目「ババ・オライリィ」めっちゃ好きなんで、聞いてください!

最初の近未来っぽいシンセサイザーの音(これは、プログラミングじゃなくて、ピートの手弾きです)。

21小節目にピアノの白球が、バーンと入って、そのあとに、キースのドラムが入り、ロジャーの熱っぽいヴォーカル。ワンコーラスまわったところで、ピートのジャーンという伸びのよりコードとジョンのベースが入ってくる。なんとも恍惚な展開に、クラクラする。

歌詞もいいんですよね。

平原に出て 俺は自分の食いぶちのために戦う
生きていくために全力をそそぐんだ
自分が正しいって証明するために戦う必要はない
許してもらおうなんて思っていないから

泣くなよ そんな目で見ないでくれ
10代は不毛時代さ
サリー、俺の手をとって 国を横切って南に旅しよう
火を消して
俺の肩越しに後ろを見るんじゃない
それがエクソダス(脱出)なんだ
幸せは近い
うんと年をとってしまう前に 一緒に行こうぜ

10代は不毛時代
こんなのただの、10代の不毛地帯さ
10代は不毛時代
ああ、ああ
10代に実りはないんだ すべてが無駄なのさ!
翻訳:Akiyama Sisters INC. E 《フーズ・ネクスト》ブックレットより

意味のないこととか、不毛なこととか、そういうことではなく、新しい地平へ脱出しようという、強烈なメッセージは、40歳を過ぎたって胸を打ちます。ライブ映像もいいので、貼っておきます。

そして、「ババ・オライリィ」に並び、フーのライブ定番がアルバムの最後の曲「無常の世界」です。

何もものも持たないギター弾きが、人間世界を見つめながら「新しい社会に敬意を表し 新たな革命に挨拶し 変わりゆく世の中を見てにんまりするんだ」といいながら、「これまでとちっとも変わらない」という。こういうスタイルがカッコいい。

もともと、ロックが禁止された世界の若者たちの物語「ライフハウス」というSFロックオペラアルバム用に作られた曲で(結局完成せず)、時代が変わっても、社会という人間が作ったシステムに抗う人たちを描くというテーマが通奏低音としてあるこのアルバムは、高度化に最適化されたと思い込んでいた社会のもろさを目の当たりにする僕たちの心に響くものがあるように思う。

フーの思い出、ギタースマッシュ

ちなみに、ザ・フーの来日公演は、英国三大バンドのなかではもっとも遅く。2004年7月24日。「ロック・オデッセイ」(横浜国際総合競技場)という、1回で終わってしまった都市型ロックフェスに出演するために来日していた。

ピートといえばギタースマッシュという破壊行為をステージ上ですることで知られるのですが、この日の最後に、ピートはギターを破壊するんです。

これ、初期の曲なんですが、めちゃくちゃカッコいい。ドラムのキース・ムーンは、ハイハットを標準装備してないとか、書くべきことはあるんですが、省略します(笑)。

これが、じつはピートにとって最後のギタースマッシュだといわれています。これを生でみて、とても興奮したことを覚えています。ピートはこのとき59歳。ロジャーもぶんぶんマイクを回して全開。ジョンもまだ健在です。

ドラマーは、ザック・スターキー、ビートルズのリンゴ・スターの息子で、フーのドラマー、故キース・ムーンにドラムの手ほどきをうけたという英才がつとめています。

今回は、フーの好きなことばかり書いてしまいました。まぁいいか。

もう1つ歴史的名演を。


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江六前一郎|Ichiro Erokumae|Food HEROes代表
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