Web3で、食体験が「おいしい」から「ありがたい」に変わるのか?
熊本県菊池市で肥育農家「山瀬牧場」の山瀬健策さんが、ブロックチェーン技術を活用したトークン型のクラウドファンディングサービス2.0「FiNANCiE(フィナンシェ)」で、「KYUKON WAGYU」というプロジェクトをスタートさせました。
これをうけて、11月4日にTwitterスペースで「KYUKON WAGYU発足記念『熊本発!Web3でアップデートする肥育農家のカタチ』」という鼎談会を開催。山瀬さんをはじめFiNANCiEから前田英樹さん、山瀬さんとともにKYUKON WAGYUプロジェクトを立ち上げた「TOYO JAPAN」の阿部洋介さん、成澤亨太さん、山瀬さんと同じ菊池市で養豚農家を営む武藤勝典さんも参加し、僕はそこで司会進行役を務めました。
1時間ほどでは、FiNANCiEのことやWeb3のこと、さらにそういった技術がどう畜産に影響を与えるのかということを話しました。
今回のnoteでは、イチ参加者として感じたことを書き残しておこうと思います。
KYUKON WAGYUとは何か?
「KYUKON WAGYU」プロジェクトは、熊本県菊池市の和牛の肥育農家である「山瀬牧場」の山瀬健策さんが、競りで買ってきた仔牛を20カ月かけて育て、その過程をプロジェクトメンバーに公開し、いっしょに育てあげた牛を、プロジェクト参加メンバーだけが参加できる食事会で食べる。「せり、育て、いただく」までを一つのプロジェクトにしたクラウドファンディングです。
畜産農家に生まれた山瀬さんは、肉師®としても活躍。目黒の焼肉店「きゅうこん」をプロデュースするほか、畜産現場の実情を伝えるさまざまなワークショップ・イベントを開催する肉の伝道師でもあります。
プロジェクトの発起人は、山瀬さんとともに「きゅうこん」をオープンさせたレストラングループ「TOYO JAPAN」の阿部さんです。立ち上げの経緯は、「きゅうこん」で山瀬さんの牛を使いたいということから始まりました。
しかし、じっさいに山瀬牧場を指定して、焼肉用の肉を買うことはできません。というのも、山瀬牧場は地元のJA(農協)に牛を卸しており、店舗はJAから買うことになりますが、たとえば育て方や格付けによって「和王」や「くまもと黒毛和牛」のようなブランド牛などのように規格化されて販売され、生産者の名前を冠して販売されることはありません。
生産者を指定する方法もないわけではなく、たとえば1頭まるごと購入できれば可能です。しかし、きゅうこんでは1頭まるごと届いても、現状の店舗の仕組みではすべての部位を使いきることができません。そのため、きゅうこんでは、山瀬牧場の牛を限定して購入することを断念したといいます。
しかし、きゅうこんという店では難しかったのですが、阿部さんは「みんなで育てて、みんなで食べるきることができれば、一頭買いも可能になるのではないか」と考え、FiNANCiEを使ったクラウドファンディングで、支援者を募るアイディアが生まれることになります。
肥育農家に新しい選択肢が生まれる
クラウドファンディングと畜産の関係についての山瀬さんの話のなかで、いい取り組みになる可能性があるなと感じたことは、クラウドファンディングなら事前に購入者が決まり、お金が先に入ってくることです。
和牛の評価基準で「A5」や「BMS12」といった格付けを聞いたことがあると思います。これらは、基本的には歩留まりや霜降り(サシ)の入り具合を評価したもので、霜降りの具合によって価値が決まるといえます。
近年ではA5よりも、A4やA3を高く買う人もいますが、基本的には霜降りの方が高く売れるのが一般的です。その市場に向けてとうぜん農家も肥育していくので、霜降りになるように育てていきます(でないと高く買ってもらえない)。
山瀬さん自身も、「黒毛和牛は、特有の霜降りのとろけるような舌触りと香りなど、 世界に誇るべき、完成された芸術品とも言える逸品」と思っていて、A5を目指す飼育をしています。
一方で、山瀬さん自身は霜降りが入りすぎず、赤身とのバランスがいい、塊肉で焼いておいしいような牛や、牛舎ではなく牧草地で育てる放牧牛などのように、赤身主体の海外の牛のような肉にも魅力を感じているといいます。
今回のクラウドファンディングのように、山瀬さん自身の考えのもと育てる牛を応援する人が初めからいるというのは、放牧のような新しい肥育方法のチャレンジすることも可能になると、山瀬さんは大いに期待をしています。
たしかに、山瀬さんの夢に賛同し、山瀬さん自身が考える理想の育て方を、市場の原理とは別にした肉を食べてみたいし、その飼育方法を見守り続けられるのは、スーパーなどで買った肉を食べるのとは、まったく違った感情が生まれるのではないかと、支援者の一人として、とてもワクワクされらるのは事実です。
さらに仔牛を買ってから育てあげて売るまで20カ月。その間、農家の収入はありません。さらにその間に、死んでしまう確率もゼロではなく、多くのリスクを抱えながら飼育をしています。
今回のクラウドファンディングのように、支援者から先に1頭買いに相当する金額を先に得られるのは、安心して飼育ができるというのもメリットではないでしょうか。
FiNANCiEとクラファンの違い
ここからは、FiNANCiEを説明する際に使われる「ブロックチェーン技術を活用したトークン型クラウドファンディングサービス2.0」という頭が痛くなるような言葉の連続を(すみません!)少しずつ説明していきます。
FiNANCiEでは、トークンと呼ばれるファンの「証」であり、コミュニティへの参加権のようなものがあります。
これをプロジェクト主催者「オーナー」(この場合はKYUKON WAGYU)が発行し、プロジェクトを支援したいという人「サポーター」がトークンを購入します。ここまではクラウドファンディングと、それほど大きく変わりません。
「クラウドファンディングサービス2.0」というのは、この後が旧来のクラファンとの違いです。なんと、そのトークンの価格が、プロジェクトの価値によって変動するのです。
たとえば僕も、10,000pt分のトークンでKYUKON WAGYUの支援コース①を支援するため、1万円で10,000pt分のトークンを購入し、支援者の一人になっています。
これまでのクラファンですと、この1万円相当の購入金額に対して、いくらかの返礼品を得て、支援は終了です。その後のプロジェクトが成功しても、失敗しても、返礼品は変わらず、損も得もしません。
一方のFiNANCiEでは、オーナーが発行したトークンの売買ができるので、プロジェクトの価値があがることで、僕がもっているコミュニティへの参加権利が、購入時よりも高く売れる可能性もあるのです。
ここが「2.0」と呼ばれるポイントで、旧来のクラファンでは、応援購入した人のメリットは一定だったのに対して、プロジェクトの成長とともに、サポーターにもメリットが生まれる可能性があるということです。
これによって、サポーターは積極的にコミュニティに参加し、その価値を上げることを目指すことになれば、結果的にオーナーにとってもプロジェクトの価値があがることになり、双方にとってメリットが生まれるというわけです。
未来は、トラストレスの世界になる?!
このプロジェクトの価値が変動するという部分で「ブロックチェーン技術」というのが使われています。「ブロックチェーン」とは情報を記録するデータベースの一種で、取引履歴を暗号技術によって記録し、正確な取引履歴を維持しようとする技術のことです。
ちなみにこのnoteのタイトルに使っている「Web3」とは、これまでのWebとは違う新しい定義のことを意味していて、とくにブロックチェーンによる暗号資産による新しい定義を指すときに使われています。
ブロックチェーンと聞いて「ビットコイン」を思い浮かべる人は、僕よりも良く知っている方です。すばらしい。いわゆるお金(法廷貨幣)は、特定の金融機関(日本なら政府や中央銀行)が価値を信用を保証していることになりますが、ビットコインには、価値を保証する機関はなく、ブロックチェーンの技術を用いて、ネットワーク上の取引を多数の参加者が監視者になって検証、承認するものです。
このあたりは、実際僕も「よくわからない」というのが正直なところなので、詳しく知りたい方は、ぜひ専門書などを買って読んでください笑。
一方で、ざっくりと覚えておきたいのは、ブロックチェーン技術を使ったインターネットの世界では、みんなで監視し合って支える、信用を保証する中央集権的な機関がいない「トラスト(信用)レス」な世界であることです。
中央集権的な機関というのは、どういうことかというと、僕は「プラットフォーマーがいない世界」ということだといわれています。
たとえばTwitterはTwitter社、Instagram(Facebookも)ならMeta社、このnoteであれば株式会社noteがプラットフォーマーになります。
そのなかでフォロワーのようなものを獲得することで個人に影響力が与えられていますが、見方によっては、プラットフォーマーの利益を上げている行為でしかないといえます。
ちょっと難しい話になってきて僕も理解できていないところも多いのですが、プラットフォーマーばかりが肥大していくシステムではなく、人と人とが距離や時間を越えてつながっていくことのインターネットの原始的な可能性を、ブロックチェーン技術を取り戻そうとしているという意見もあります。
KYUKON WAGYUの取り組みとは、少し離れてしまいますが、プラットフォームに奪われたインターネットをユーザーに取り戻そうとする人々の熱意にも、今回の鼎談を通じてしることができたのも、自分にとっては大きな収穫でした。
おわりに
山瀬さんが考える「今届けたい牛肉」というのが、どんな育て方になるのか、それを20カ月間、いっしょになって育てる(じっさいに仔牛に会いにいけたらなおさら感動しそう!)ことができ、そのお肉を目の前にしたら、私たちはいったいどんな気持ちになるのでしょうか?
その食事会は、きっときゅうこんで行われると思うのですが、おそらく「おいしい」という外食したときの感想ではなく、「ありがたい」というような、これまでと違った気持が生まれるのではないかと思っています。
山瀬さんや、今回のトークン型クラウドファンディングの取り組みを進めることは、食べ物を育てる人(生産者)の選択肢を増やすことはもちろん、行き過ぎた美食礼賛の現代社会で、忘れてしまった食への感謝の気持ちを強烈に実感させる、稀有な体験になるのではないかと、個人的には期待しています。
初期サポーター募集は11月29日(1129:いいにくの日)までですよ!