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Rock|ジョン・スペンサー・ブルース・エクスプロージョン《オレンジ》
14歳でギターを持ってしまった僕にとって、ギターが鳴っているバンドに憧れるのは当然なことだった。
ジョン・スペンサー・ブルース・エクスプロージョン(JSBX)を知ったのは多分、1998年リリースの《アクメ》のときだったと思う。ツインギターとドラムの3ピースバンドとして現れたニューヨークのガレージバンドは、当時日本でブレイクしていたミッシェル・ガン・エレファントのような肌触りと、それよりも知的な印象、そしてなにより、ブルージーなリフとフレージングで一気に僕を虜にした。
そこから、遡るように聴き進めてたどり着いたのがJSBXの3枚目のアルバム《オレンジ》だった。
The Jon Spencer Blues Explosion《Orange》1994年
2本のギターとドラムだけのロックン・ロール
バンドは、フロントマンでバンド名に名前が入ったリズムギターのジョン・スペンサーとリードギターのジュダ・バウワー、ドラムスのラッセル・シミンズの3人。
すこし聞いてもらうとわかるだが、低音を強調して通常のバンドにおけるベースのような低音リフ(リフレインの略で、決まった短いフレーズの繰り返し)を弾いているのがジョンで、その上にテレキャスターらしいハリのある音色でブルージーなフレーズを弾き倒すのがジュダ。ジュダの方が、あっとうてきにギターが上手い(指が良く動くので、フレット移動の幅が広く音階の幅が広い)。
スネアの手数がやたらと多い小刻みなドラムを叩くのラッセルだ。
まずはオープニングナンバーの「ベルボトム」を聴いてもらいたい。
ジュダのブルージーなギターによる緊張感あるオープニング。いま聴いてもカッコいい。
ベルボトムをはくと踊りたくなるという、歌詞の内容としてはどうでもいいけど、最初のストリングスの使い方は終末感がある。
3曲目のダングも ジュダのテレキャスターならではなエッジの利いたリフが印象的。ジョンのハープとブーストギターが対照的に混とんな世界を演出している。途中には、ヒュンヒュンという音のテルミンという電子楽器が登場する。
そして、10曲目のブルース・X・マン と 次のフル・グロウンに続く。フル・グロウンになる瞬間、ラッセルの変則ドラムに変わるところ好きでよく聞いていたなぁ。ぜひこれは音源を入手して続けて聴いてもらいたい。
身体性をもった創作物をいくつ作れるか
1990年代の日本のロックは、たとえばビジュアル系のバンドだったり、オルタナっぽいバンドがあった一方で、先に出たミッシェル・ガン・エレファントやギターウルフ、ブランキ―・ジェット・シティといったシンプルで身体性を駆使したバンドがたくさんいた。ちょうどこのころからフジロックなどの音楽フェスが盛り上がってきたころでもある。
JSBXもそうした文脈で、かなり日本でも人気があった。最近でも2013年と2015年のサマーソニックに来日している。非常に息の長いバンドである。
僕自身が、JSBXに学んでいることといえば、やっぱり自分が作りだした衝動的なものを身体性をもって表現することの快感なんだと思う。身体性とは、もしかしたらクラフトと同じような意味かもしれない。
多重録音で作られた音楽の良さもあるが、「いっせーのせ」でマイク1本で録音した一期一会の音の方に憧れるし、自分もそういうものを作りたい。やっぱり、自分が手を動かして作ったものを、誰かに体験してもらいたいというのは、本の編集者としても引き継がれる美意識のようなもので、明らかにJSBXなどのロックン・ロールバンドがから学んだものだと思う。
フランスのテレビに出演したときの映像があったので、こちらも紹介する。
スタジオアルバムとは違い、本当に3人だけで演奏しているのだが、極限まで音が削られて、まるで無駄のないアスリートのような音とでもいおうか。神がかった演奏で、スタジオが騒然としているのも映っている。
決して超絶技巧のバンドではないし、譜面に起こせばなんてことなないことをやっているのだけど、実際に3人が演奏することで、唯一無二のベースレス3ピースバンドになる。それがRockなのだ。
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