「痛み」の評価ほど難しいものはない
こんにちは。
今回は日々の診療で頭を悩ます「痛み」について書きたいと思います。
私たち整形外科医は、日々患者さんの「痛み」と向き合っています。
骨折、打撲、腰椎・膝痛など、整形外科を受診する患者さんの多くが「痛み」という症状を訴えます。
しかしその「痛み」ほど難しい訴えはないのです。
なぜなら、
「痛みは客観評価できない」
からです。
血圧、血液検査、血糖値など数字で表されるものやレントゲンなどの画像検査などは、すべて目に見える客観的なデータとして出てくるので、評価や比較が容易です。
一方で、「痛み」は個人の主観であり、その表現の仕方も多種多様です。
さらにその時の気分など精神状態によっても痛みの感じ方は変わってきます。
患者さんから、「ものすごく痛い」「ちょっと痛い」と言われたとしても、「どのくらい痛いのか」を他人である私達医師が"感じる"ことができないのです。
そのため、痛み止めの処方量がどんどん増えていってしまったり、中には交通事故の被害者として通院する患者さんが、見舞金や慰謝料をできるだけ受け取ろうと、必要以上に痛みを訴え続けるケースがあることも事実です。
では痛みをできるだけ客観的に評価するために何か工夫があるのかというと、VAS・NRS・フェイススケールというものがあります。
想像できる人生最大の痛みを上限として、今感じている痛みがどれくらいか数字やスケールで表現してもらったり、痛みの気持ちの表情として一番近いものを選んでもらったりというやり方で、医学研究の分野でも広く使われている手法です。
しかしこれらも、人生最大の痛みがどの程度かは結局その人個人の感じ方によりますし、その時の気分でも変わってくるので、結局主観的なものとなります。
痛みをどのように推し量るか。
最終的には経験と勘に頼ることになります。
「このくらいの腫れ具合や画像所見からは大体このくらい痛いだろう」という経験則と照らし合わせて、評価していきます。
また患者さんのキャラクターも重要な判断基準になります。
痛みを多少大袈裟にいう傾向のある患者さんなのか、痛みをあまり気にしない患者さんなのか。
そういったことも参考にしながら痛みを評価し、最適な治療(処方薬の選択や量の調整など)をしていきます。
正直に言ってしまえば、患者さんが痛いという限りは薬を出し続けたり増やしたりすれば楽なのですが、痛み止めにも副作用がありますので、出せば出すほど良いというわけではありません。
その塩梅を決めるのが、医師の仕事です。
しかし、もう10年以上医者をやってますが、痛みの評価って本当に難しいなぁとつくづく思いながら日々診療にあたっています。
今日も読んでくださりありがとうございました。