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【えりた書店】

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元書店員で、雑食系活字中毒者のえりたが「おもしろい!」「好きだ!」と思った本をジャンル問わずにご紹介。売れ筋の本も、ひっそり輝く本もステキポイントをずっしり掴んで書いていきます。…
一か月で10本の書評を放り込みます。記事単体では300円ですから、マガジンの方が絶対にお得。また、…
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2023年6月の記事一覧

「書く」という日常―くどうれいん『虎のたましい人魚の涙』

私は、だいたい仕事机か、ベッドの上で本を読みます。ですが、ときどき「ここじゃない!」と、違う場所で読むことを促す本があります。今回の読んだ、くどうれいんさんの『虎のたましい人魚の涙』もそんな本のひとつでした。 ■『虎のたましい人魚の涙』 □くどうれいん著 □講談社 □2022年9月 □1400円+tax たしかコチラは浅生鴨さんがご自分の書店での過ごし方を紹介するInstagramの動画で手に取っていらっしゃった本です。 くどうれいんさんは、短歌、俳句、小説、エッセイ

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数字、数字と言う勿かれ―村上靖彦『客観性の落とし穴』

「数字で示してもらえますか」 「それって個人の感想ですよね」 強い口調でこう言われると、思わず口をつぐんでしまいます。 「数字」を根拠にしている側が絶対的な「正義」で、そうではないところで言葉を発する人は「無知」であるかのような、どこか嘲りや侮りを含んだ言葉たち。 自分に対して言われたものでなくても、それを耳にするだけで、思うよりもずっと大きめの衝撃を身に受け、時間が止まったような感覚にさえ陥ってしまいます。 でも、それらの言葉に違和感を覚えたことはありませんか? 超

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読み手の世界を変える歌―上坂あゆ美・岡本真帆『歌集副読本』

国語の講師をしていたとき、短歌や俳句が苦手でした。 【猪突猛進なゴリラ】、この言葉が私の性格をいちばん的確に表しています。そして、文章への対し方も性格のそのまま、コトバを額面通りに受け取り、一直線に理解していくスタイルなのです。 なので、短歌や俳句などの短詩形の文学は、そんな私にとっては「情報の少ない詩形」でしかなかったのでした。 描かれた情景をそのまま呑み込んで「そっかぁ」って思う。 だから、どう説明していいか分からなくて、何を解説すればいいかをうまく整理できなくて

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わたしの輪郭をたどる旅―上坂あゆ美『老人ホームで死ぬほどモテたい』

書籍を購入するきっかけって、いろいろあります。 新刊が出るたびに読んでる作家さんだから。話題作だから。Twitterで見かけたから。あの人がおすすめしていたから。 でも、買ったあとのわくわく感がいちばん大きいのは「書店で見かけたから」かなと思うんです。 佇まいや、手に持った感触。 カバーの彩りや、タイトルの醸す空気感。 書店をふらふらさまよいながら、ふと目に入った書籍を手に取り、理由なんて分かんないけど、「これだ!」って思って、本を買う。それが与えてくれる高揚感は掛け替

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■深慮遠謀が跳梁跋扈する―平山優『徳川家康と武田勝頼』

大河ドラマ『どうする家康』、ご覧になってますか? 6月は長篠の合戦があったと思いきや、築山殿の事件にねこまっしぐら! で、まじそれどうする?となっていますね。 そんな殿潤さまに襲い掛かる困難の連打が、実際はどのようなものだったのかについて、みっちり調べ上げ、考え尽くし、分かりやすく書かれた本が出ました! それがコチラです。 ■『徳川家康と武田勝頼』について ■平山優 著 ■幻冬舎新書 ■2023年5月 ■980円+tax 『どうする家康』で時代考証を担当されている、

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【読書note/人文】『親切人間論』

今日ご紹介するのは、水野しず著『親切人間論』(講談社刊)です。 本書は、水野しずさんのnote「水野しずのおしゃべりダイダロス」(2019年11月~2021年12月)の一部を再構成し、新たな書きおろしを加えたものです。 こちらは、 ・有料noteが動かなくて途方に暮れている人 ・「紙の本」という物体が大好きな人 ・ダイエットやかたづけなどで迷子になってる人 におすすめです。 もちろん、人によって刺さるところはかなり異なると思いますが、私にとってはこれらの考えごとにズーム

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■文学フリマで買った本②

先月、初めて「文学フリマ東京」へ一般客として参戦いたしました。そのとき、軍資金が尽きる勢いでお買い物をして、ほくほくしながら帰宅したのです。 ですが、その後、締切地獄やら検定地獄やらにぬまぬまとハマり、なかなか本を読める状態に至れませんでした。そして、ここ二日ほどようやく事態が収まり、「読書するぞ♪」な心構えで本を読めるようになったのです。 あの後も、気がつくと本を買っていたので、さほど読み進められたわけではありませんが(滝汗)、それでも何冊か読み終わり、とてもとても豊か

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■「私は、生まれる前から女性なの。」―西村宏堂『正々堂々』

ちょっとだけかなしい思い出から。 私は三姉妹の長女です。 うちの末っ子さんは 幼い頃に大きな病気をしたこともあり それはそれはかわいがられて育ちました。 毎日のように 「かわいいねぇ」と言われている妹。 歳が離れた長女であり、 しっかり者であることを求められた私は そんな妹が羨ましくて仕方なかったのです。 でも、ある日。 幼かった私は意を決して母に尋ねました。 「えりちゃんもかわいい?」って。 そしたら。 ちょっとした沈黙のあと 「えりは…まぁ愛嬌はあるよね」 苦笑い

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【読書note/文芸】『常識のない喫茶店』

接客業をやっていると、いろいろなお客様に出合います。それはほんとに、良くも悪くも十人十色で。離れてしまえば、ネタになる思い出ですが、現在進行形だったころは、マジでしんどくて。バックヤードで何度泣いたことか。 理不尽に怒鳴りつけられたり、コミックだからといって超バカにされたり、無理難題おしつけられたり。 もちろん、自分がミスをして平身低頭で謝ったこともありますし、私の所為じゃないのに、なぜか私が謝る羽目に陥り、めちゃくちゃ怒鳴られたことも。ふと振り返れば、私のやらかしをもの

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