ブレンドコーヒー
水曜の朝は、金曜の朝かと勘違いするほどの倦怠感がある。去年までは木曜がそんな感じだった。水曜に前倒しになるほどに私の体力は落ちているのだろうか。
月火金金金……。
近頃はそんな感覚で平日を過ごしている。
そこで私は水曜を休日に変えてみることにした。
月火日木金……と。
というわけで、今日は休みだ。
なぜだか休日となると水曜なのにシャキっと早起きが出来た。特に楽しみにする予定は無いのに不思議とわくわくしてしまう。
子供たちが学校へ行く頃には朝の家事全てが終わっていた。これは本当に水曜の私の身体? と疑うほどにスピーディで軽やかな身のこなしだった。
特にこれからの予定は無い。暇だな。今日一日何をして過ごそうか……。
そういえばここ二日間、インスタントコーヒーを飲もうとして諦めて、イヤな気持ちになっていた。
一昨日の私はどうかしていた。
あろうことかインスタントコーヒーの瓶の中へドリップコーヒーの粉を補充してしまったのだ。
気付いた時には手遅れだった。
インスタントコーヒーの粒とドリップコーヒーの粉はシャッフルせずとも簡単に瓶の中で混ざり合ってしまった。私は取り返しのつかない失敗にギリギリと歯を食いしばり、その瓶を放置した。
出勤前の朝は手軽なインスタントコーヒーがあると有難い。しかしドリップ用の粉が混ざっていてはどうにもならない。強行突破でお湯を注いだとして、ドリップ用の粉が異物となり私の喉を攻撃してくるのは想像できる。私はインスタントコーヒーを諦めるしかなかったのだ。
しかしチャンスの日が来た。今日は休日で予定もない。ならば地道にやってみるか、 粒と粉の選別を……。
そんな途方もない事を考えた途端、そんなのやってられるか! と、もう一人の私が反発してきた。
確かにそうだ。
粒と粉の選別なんて日が暮れてしまう。
そんな地道な作業は私に向かないし、そんなことをするための休日じゃない。
じゃあどうする? あきらめて全部捨てる?
……でも、捨てるだなんてもったいないし。
未練が断ち切れずに私は、しばらく粒と粉とが混ざり合った瓶の中を見ていた。めちゃくちゃになった茶色の粒と粉だけど、コーヒーの香りだけは心地よくそこにある。
以前にも似たようなことがあった。
コンディショナーの入れ物にシャンプーを間違えて補充してしまった時のことだ。
私の気持ちはコンディショナーなのに泡立ちが止められず洗髪のゴールが見えなくなった、あの時の絶望感に似ている。
しかしあれらは液体だった。
コーヒーの粒と粉は、これから液体に変わろうとする固体だ。つまり粒と粉が求めるゴールは、行き方は違えど同じなのだ。
二種類のコーヒーのうち、インスタント側がドリップ側へと歩み寄りドリップ法が成功したならば、二つは一つの液体として融合できるはず。つまりニュータイプのブレンドコーヒーが召喚できるというわけだ。
とにかくカフェインとクロロゲン酸が摂れれば良しと考えて、とても暇だから実験してみよう。
もしかしたら新たなブレンドの世界が楽しめるのかもしれないし、成功したなら更に嬉しい水曜となるだろう。
月火日木金……。
ああ、最高だな。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?