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私が「春」を感じる写真集3冊。インスピレーションの源となる写真集を手にしてみよう。

写真集を見るが好きだ。フォトグラファーという職業・作家柄、勉強を兼ねて見ることも多いけど、音楽や映画を見るように気晴らしにページをめくることもある。自分の気持ちや表現と共感する作品もあれば、私が撮らないような面白い作品もある。たくさんの写真集から学び、影響を受けていると思う。

近所の大きな図書館には日本・海外の写真集が豊富に揃っていて、名の知れた写真家であればほぼすべての写真集を見ることができる。休日に写真集を見に図書館に足を運ぶこともある。

先日、「季節を感じる写真集って日本人写真家(もしくは日本在住の写真家)らしい作品だな」とふと思った。海外の写真家の写真集は私が見ている限り、「季節」を感じることがあまりない。

やっぱり四季のある日本で写真を撮っているからこその表現なんだろうなと思う。

ということで、そろそろ春の季節がやってくるので、私のお気に入りの「春」を感じる写真集を紹介しようと思う。

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鈴木理策 SAKURA

鈴木理策さんが長年撮り続けてきた桜の写真を纏めた写真集。2015年に東京オペラシティで開催された個展を訪れた際に、桜の写真が展示されていて、とても印象に残った思い出があった。それから、桜の写真集といえばこれ!という1冊になった。

鈴木が使用するのは8×10インチフィルムを使用する大型カメラです。フィルムの大きさとそこに記録できる情報量は比例するため、大判フィルムで撮影された風景は豊かな細部に満ちています。それらは日本国内で手に入る印画紙の最大幅まで引き伸ばされることで、写真家が見ていた光景がそのまま展示室に持ち込まれたかのような印象を与えます。鈴木が「見た」時間と、作品の前に立つ人の「見る」時間が重なる時、実際にその風景を見ているのとも、「写真」を見ていることとも異なる不思議な感覚へと誘われます。

鈴木理作写真展「意識の流れ」

写真展の解説にはこう書いてある。たしかに、あの展示を見たときに、鈴木理策さんが写真を撮る瞬間に同じ場所に立っているような気持ちになったことを覚えています。春とはいえど、少し肌寒さを感じたり、満開の桜が圧巻すぎて、どこに目をやればいいんだろういう気持ちだったり。展示のときと同じようなプリントで見ると臨場感があって良いのですが、写真集もたくさんの桜の景色を見ることができて、心が洗われます。

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川内倫子 うたたね

鯉、雲、カラス、カーテン、おじいちゃん、タイヤ、目玉焼き、蟻、蝶など、ただ日常を撮った写真集。なにげない風景、さもすれば見落としてしまいそうな草花や小さな虫たちに目を向ける。川内倫子のカメラを通すと、ただのグラスがキラキラ光る宝石になり、一匹の蟻がスタイリッシュに変身し、鳩の死骸が恐ろしくて近寄れない空気感を漂わせる。やさしさと隣り合わせに存在する怖さ。生と死を強く感じさせる一冊。

川内倫子オフィシャルサイト

私の写真を見たことがある人は、影響受けているだろうなとすぐ分かると思います。それくらい大好きな写真家・川内倫子さんの初期の写真集(2021年出版)です。

引用にある通り、日常の瞬間を川内さんのカメラの目線で切り取られている写真たち。春らしさを具体的に指すような写真ではないけれど、「うたたね」というタイトルもなんとなく春っぽい。そして、写真もやわかかい空気に包まれて、ふと気が緩みそうな気持ちにさせてくれるのだ。ただ一方で、鳥の死骸など目を閉じたくなるような生々しい写真も含まれていている。春って爽やかに感じる反面、不安な気持ちや「死」を感じることがある。

この写真集を見ていて感じる気持ちは、なんとなく春を過ごしているときと似たもののように感じるのだ。

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大森克己  すべては初めて起こる

2011年の春、仕事場離れて福島へと旅に出てた大森克己がフィルムに収めた桜。1年の中でほんのわずかな特別な期間を作り出すと同時に、その時だけの刹那の美しさを毎年繰り返していく桜の花。その花びらはいつも初めて見る花びらであり、来年も再来年も私たちは新しい桜を眺めるに違いない。すべては初めて起こり、その初めてが連なって歴史が作られいく。不思議な淡いピンクの光を宿した穏やかな桜の風景に写真家のメッセージを込めたシリーズ。作品の美しさがダイレクトに伝わるポートフォリオ状大判写真集。

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こちらの写真集も大森さんの写真展「すべては初めて起こる」(ポーラミュージアムアネックス)で見たのがきっかけで出会った写真集。

東日本大震災の後、大森さんが福島へ向かい、桜を撮影した写真集。どの写真にも淡いピンクの光(丸いボケ)が入っているのが印象的。

引用:GQ JAPAN
引用:GQ JAPAN

このピンクのボケはいったいなんだろう?と思いながら展示を見ていたのだけれど、後に写真集を見て、「これって桜からの視点なのかな?」と私なりに感じた覚えがあります。構図の高さ的に「桜の視点」ではないのだけれど、なんとなく、人の視点というよりは、もともとずっとそこにいた「何か」の視点なのかな?と感じたのだ。その場所で起こる「始まり」や「終わり」をずっと眺めているような視点。

展示だけでは感じられなかったものが、写真集で感じられた1冊だった。

このメディアでは写真展の様子や大森さんの作品の解説が詳しく書かれているので、気になった方はぜひご覧ください。

ちなみに、写真集は限定発売だったため、ソールドアウトしている。もしかすると、写真専門店の本屋さんで見つけたときは、ぜひ手にとってほしい。もしくは、東京都写真美術館内に併設されている図書館には蔵書としてあるので、写真展を見るついでに図書館にも足を運んでみるのも。

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以上、私が春に見たい写真集でした。

「写真集」ってどこに行けば買えるの?という方へ。

日本には写真集専門の本屋さんが実はたくさんある。私が好きな写真集を取り扱う本屋さんを紹介するので、ぜひ足を運んでもらいたい。

いつか、好きな写真集専門店についてのnoteも書きたいな。

あと、写真集ってお値段が結構するんですよね。私も気軽には買うことができないので、図書館を利用しています。

最初に書いたように、東京都立の大きな図書館には日本・海外の写真集がかなり揃っているのでおすすめ。

東京都写真美術館に併設されている図書館には国内外の写真集はもちろん、展覧会カタログ、写真評論・写真史・映像史に関する本など、幅広く揃っているので、とってもおすすめ(もちろん無料)。

また、おすすめなのは東京都恵比寿にある「写真集食堂めぐたま」。

カフェの壁一面には写真集がずらり。お食事をしながらいろいろなジャンルの写真集を見て楽しむことができる。カフェのご飯もとっても美味しい。

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よく、「どうやって写真を勉強しているの?」と聞かれるのだけれど、そう聞く人で写真集を見ている人が少ないのがちょっと寂しくなるときがある。SNSやYoutubeで撮り方のコツを見るのも良いのかもしれないけれど、人が撮った写真をたくさん見るのもとっても勉強になるのだ。日本では素晴らしい写真集を気軽に見れるチャンスはたくさんあるので、ぜひ手に取って見て欲しいと思う。「写真を撮る」インスピレーションがたくさん詰まっているはずだ。

また「夏」になったら、私が「夏」を感じる写真集を紹介したい。

最後まで読んでいただいてありがとうございます。写真展が続けられるようにサポートしていただけるとありがたいです…!