萩原朔太郎「石竹と青猫」

花燃えて落ちる
九月にさく心
色のない無花果
生温い夢

The Burning flower
Fall in September
It tears my heart
That un-favorable fig
A lukewarm dream

(前橋ネコフェス_2015)

***

「石竹と青猫」

みどりの石竹の花のかげに ひとつの幻の屍體は眠る

その黒髮は床にながれて

手足は力なく投げだされ 寢臺の上にあふむいてゐる

この密室の幕のかげを

ひそかに音もなくしのんでくる ひとつの青ざめたふしぎの情慾

そはむしかへす麝香になやみ

くるしく はづかしく なまめかしき思ひのかぎりをしる。

ああいま春の夜の灯かげにちかく

うれしくも屍蝋のからだを嗅ぎて弄ぶ。

やさしいくちびるに油をぬりつけ すべすべとした白い肢體をもてあそぶ。

そはひとつのさびしい青猫

君よ 夢魔におびえて このかなしい戲れをとがめたまふな。

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