お役御免
とあるアーティストの音楽を聴いているだろう少女。ここはジム、音楽はデフォルトでかかっているが、それを遮るようにイヤホンを耳にはめ込んでいる。きっと前を見据え、目線は全く動かない。身体の重心も全くブレずひたすら足だけを動かして。軋むほどのスピードでトレッドミルの足場は回る。まわりの風景がなにも目に入らないとみえる。横でストレッチをしているおじさんも、その迫力に少々たじろいでいるようだ。
ついていないテレビのなかをぼんやり見つめていた「わたし」は、その反射する暗黒な世界のなかになにかを見出していた。なにも見えないということだけを見ていた。意識は完全に音楽とそのピッチにのみ向けられ、ほかの感覚は完全に振り切ることでゼロになっていた。そこから発せられる光はまわりのものを全て包み込み、本当の「わたし」は周囲のそれと一体化していった。
涙が汗とともに全てを洗い流す。ひとは生まれ変わっていく。塩と海と土と、自然に戻っていく。揺らがない景色と安定しない感情が交差して。
どうも〜