Surrendering
”なにもない。ただその流れに身を任せてふわふわと漂っている。意志を持たず、また何からの支配も受けない。ただ満たされた状態。たとえ傷ついたとしてもそのうち回復する。たとえ老いたとしてもそのうち若返る。”
…フフッ。これが僕の説明。なんで存在してるんですか、だって?うーん、ずっと浮いてるんですよね、こうやって。というか浮いてるって表現も僕の感覚からするとおかしくて。固定されていたことがないので。むしろそんなことを考えるほうが違和感なんですよねえ。時間も世界も絶え間なく一定の速さで動いてるというのに、止まれるニンゲンってやつ逆にすごくないですか。あの、申し遅れました、クラゲっていうんですけど、僕の名前。あ、知ってました?へへへ。きれいですか?ありがとうございます。あなたもお美しいですよ。いやいや。あなたさまには違った美しさがあります。ほら、終わりがあるじゃないですか。ちょっと羨ましいんですよね。僕なんていつ生まれたかも覚えてないですし、いまのところ死ぬこともないですからね。環境がヤバくなれば、その場で転生しますから。キャラ変みたいなもんです。あ、そうなんですよ、記憶もないんです。だから、変化というものも知らない。あなたと話す一連の出来事が終われば、この記憶も、消えます。…あ、その顔素敵ですね。うん?…さみしさ、っていうんですか?へえ…その感覚はわからないけれど。移り変わるのは、きっと美しいんだろうなあ。とっても。変化がないことが当たり前だから、よくわからないけどね。あなたの顔はそう言ってたよ。それはなに?指につけているもの。指輪っていうんだ…そんなものはないかなあ。だってなくても生きられるじゃん。何も持ってないんだね、って?いや、このせかい全部僕のものだよ。必要なものはすべてあるもの。不満?…満足も最初からなにもないからよくわからないけど。え?ニンゲンは持ってないんですか?いいなあ、てことは満足を味わえるんだね。そうか…次この感覚がなくなったらニンゲンになってないかな、僕のおそらく初めての不満…これもきっとすぐ忘れるんだろうなあ……。