ジャケツイバラ(誕生花ss)

 楽園で女を唆した蛇は賢かった。賢かったから、賢くあるべき二人の人間が、いつまでも知恵を身につけずにいることが我慢ならなかった。彼らは少なくとも、恥ずかしいという概念を知るべきだ。そう思った。
 食べるだけで知恵をつけられる果実なんてうってつけのものが、なぜ楽園の中に生えているのか、それは蛇にも分からなかった。ただ、全てを造った神とやらは、あまり賢くないのかな、と思っただけだった。そんな良いものは早く色んな生き物に分け与えてやるべきなのに、変な話だ。
 人間たちは楽園を追われ、蛇も慌てて逃げ出した。しかしそのとき、こっそり、知恵の実をいくつか隠し持っていた。神はそれを見逃した。うっかり見逃したのか、故意に見逃したのかは、今となっては誰にも判らない。が、どちらにせよ蛇としては好都合だった。
 そういうわけで、この世界には、知恵を持った動物たちが沢山いる。本来なら唆した蛇と唆された人間だけが持っていた筈の知恵が、ばらまかれた果実によって満遍なく行き渡ったのだ。ほぼ全ての動物たちが独自の言語体系を持ち、道具を使って生活に役立て、文字を発明して文明を発展させていった。
 だから、終わりも早かった。
 全ての動物たちがそれぞれの信条に沿って巨大な文明を築き上げた結果、本来ならもっと遅く起こった筈の大気汚染、海洋汚染が瞬く間に地球を襲った。それに伴う食糧難、異常気象、天変地異は物凄く、人間を含めて全ての動物がもがき苦しんだ。
 賢い蛇は、ここに来て初めて、神が知恵の実を何者にも禁じていた訳を悟った。そして、自分だけがなぜ、元から知恵を持たされていたのかも。
 賢い蛇は神のもとへ参じ、自らの知恵を正しく行使しなかったことを懺悔した。神はそれを赦し、もう何度目になるかと思いながら、時を巻き戻した。
 次の世界が一体どうなるのか、それは神さえも知らない。


 花言葉「賢者」。また、花が蛇のように絡み合うところから着想しました。

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てい
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