イキシア(誕生花ss)
いつも友人の輪から一歩引いて、控えめに微笑む君のことが好きだった。ぼくの告白にもただ頬を赤らめて俯いて、もじもじしてしまった君がますます好きになった。
だから今、ぼくの写真で四方の壁が埋め尽くされ、置かれたスマホからぼくの音声が延々と流され続ける彼女の部屋に案内されて、気が狂いそうになっている。
「ねえ、なんでそんな顔してるの?」
「ちょ、ちょっと用事思い出しちゃって」
慌ててドアノブに掛けた手を捻られて、ぼくは苦痛に呻いた。彼女はポケットから取り出した鍵を、部屋の内側の鍵穴に差し込み、回した。カチリと音が鳴る。閉じ込められた。
「……え、ねえ、……帰してくれない?」
顔が引きつっている自信がある。彼女のスマホから、いつ録ったのやら、ぼくの、絶対に人に聞かせられない音声までもが流れてきて、冷や汗が垂れてくる。
「な、なあ……」
「ねえ、私って、凄く粘着質なの。知ってた?」
にこにこと笑いながら、彼女はぼくの顔を覗き込む。まだ握られている手首が、ぎりぎりと痛む。細い腕なのに、振り解けない。思わず蹴り上げようとした脚までも、簡単に振り払われて、逆に床に寝転がされてしまった。
「痛っ……」
「女の子に暴力振るっちゃだめだよ」
伏せたぼくの身体に乗っかって、彼女はふふふと笑う。
「ずっと好きだった。ねえ見て。あの写真は、入学式の日の君。あれは登校初日に遅刻しかけて焦ってる君。可愛いよね」
「にゅ、入学式……?」
ぼくが彼女を好きになったのは、二年になって同じクラスになってからだ。
「そう。もう、ずっと好きだったんだから。同じクラスになったから、君好みの女の子を演じてみたの」
うっとりと話す彼女は、耳元でそっと囁く。
「やっと捕まえたんだもの。もう絶対に、放さないよ」
花言葉「君を放さない」「秘めた恋」
いいなと思ったら応援しよう!
![てい](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/36311583/profile_d01780cd3db6e5e46d2080ea090c1463.jpeg?width=600&crop=1:1,smart)