ギンバイカ(誕生花ss)
念願叶って、愛しい彼女と、とうとうこの日を迎えられた。白い花嫁衣装に身を包み、微笑む彼女の手を取って、用意された道を歩く。会場に座る家族や友人たちの温かい拍手と笑顔に迎えられ、今日という日が二人にとって記念すべき日となることを予感する。
式が進み、二人でそれぞれの卓を回っていく。肩を叩かれ、口笛を吹かれ、祝福の言葉を投げかけられる。その最中、ふと耳元で、女が囁いた。
「リエちゃんのこと泣かせたら、絶対に許さないから」
声のトーンが、冗談めかしたものではなかった。
思わず振り返ると、そこにはリエの友人の女性がにこにこと笑っていた。今のは、こいつが言ったのか?
しかし確証が持てないまま時間は過ぎ、式の進行もあって、暫くするとそんなことは、すっかり忘れてしまった。やがて無事に全ての行程が終わり、お互いの友人だけを招待した二次会が始まった。気の置けない友人たちと楽しく話しているときに、元々そんなに酒に強くないリエが、隣で泣き出してしまった。
「わ、私なんかが、こんな幸せになって……良いはずないよお……」
「ちょっとリエ、何泣いてるの……」
慌てて涙を拭いてやるが、なかなか収まらない。おれは仕方なく、隣のコンビニにティッシュを買いに出た、ところを後ろから衝撃を受けた。
「え、何……」
遅れて、鋭い痛みが背中に走る。力が抜けて、そのまま地面に倒れてしまった。痛む箇所に震える手を伸ばすと、何やらぬるぬるした液体が付いた。目の前に持ってきた掌は、真っ赤に染まっている。
カツンという靴音が、おれの顔の前で止まる。恐る恐る目を上げると、式場にいた女だった。
「絶対許さないって言ったでしょ」
そんな理不尽な。
それが、おれの最後の思考だった。
花言葉「愛のささやき」。
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