歌舞伎・文楽の解説、という仕事。(4)
座右の銘の通り、のらりくらりと書き進めていますイヤホンガイド解説者という歌舞伎や文楽の解説を提供する仕事について。先日の記事はこちら↓
解説者たちはどのようなタイプがいて、どのように仕事をしているのか。なんとなく感じて頂けたかと思います。今日は、もうちょっと「解説」について掘って書いてみます。
決まりごとを説明する。
これは最も基本的な解説の役割ですが、「決まりごと」を説明します。歌舞伎も文楽もパターン化された表現があって、それが江戸時代にはわかりやすさとなって機能していたと思うのですが、今となっては独特な表現すぎてわかりづらいのです。例えば、「ドンドンドンドン」と等間隔で打ち鳴らされる太鼓の音。これは「水辺が舞台」であることを示す「水音」だとか、あとは有名な「見得」。なんでわざわざいいところで止まって、「附け」と呼ばれる柝の音「バッタリ」とシンクロしながらポーズするのか。これはその瞬間に感情が頂点に達した状態など注目どころを強調するもので、よくカメラの「クローズアップ」の手法と同じだと説明されます。でもこんなこと、わからなかったら、ただの戦隊モノの決めポーズ程度に思ってしまいますよね。(戦隊モノの決めポーズは歌舞伎由来だと言われていますが)。見得が絶頂の瞬間、見どころだからこそ、「大向こう」という「◯◯屋っ」な掛け声がかかる。あの止まってポーズするのがナンなのか、がわかれば、そこから芋づる式に他のこともわかってくることもあるため、決まりごとはなるべく拾って解説します。
また、表現だけではなくて、もっと基本的な決まりごと。例えば、文楽では人形の後ろに3人の人形遣いの姿が見えます。中心にいるのが、人形の頭(かしら)と右手を遣う「主遣い(おもづかい)」。向かって右にいるのが、人形の左手を遣う「左遣い」。主遣いの足元で人形の足を遣うのが「足遣い」。3人が息を合わせて1体の人形を遣うことで、複雑な表現が可能になっています。こうした表現の根幹を作っている決まりごとも解説します。
そもそも、を説明する。
源平合戦後の話を描いた「義経千本桜」。菅原道真の失脚事件をもとに描かれた「菅原伝授手習鑑」など、江戸時代当時の時代劇を「時代物」と呼びますが、こうした演目のベースとなっている歴史書や歴史的事件、どんなものだったかをすぐに詳細に思い出せる観客の方って、実はそんなにいないと思うのです。もちろん義務教育や高等教育の歴史などをしっかり勉強されたり、興味ある方はスラスラと頭の中で思い起こせるでしょう。でも、その歴史的人物の名前はわかるけど、何があったっけ?な方も、私を含めて多いと思います。
江戸時代の人々は、琵琶法師の語る平家物語をきくなど、今の私たちよりもこうした歴史物語が身近にありました。当時の観客は、知っている歴史的逸話がどうアレンジされて芝居になっているのか、という視点を持っていたはず。その中で、オモシロイ!と喝采を浴びた作品が今に残っています。
歌舞伎や文楽は、江戸時代の娯楽だったので、今の大河ドラマのように時代考証という観点がありませんし、史実を忠実に再現するなんてこともしません。だから、そもそも歴史的にどうだったかは、さほど重要ではないのですが、それでも知っている方が江戸時代の観客に近い視点で、より楽しめるはず。ということで、そもそもベースとなっている歴史的事件は、歴史的物語は、という部分を説明します。
カットされた物語を捕捉する。
歌舞伎の上演形態には、「通し」と「見取り(みどり)」があります。「通し」とはそのまま、一つの作品を最初から最後まで通して上演すること。「見取り」は「通し」と違って、特に面白い部分を抜き出して一演目とし、それをいくつもラインナップして上演すること。
今より時間の流れがゆるかった江戸時代、芝居小屋は朝6時くらいから夕方5時くらいまで、長時間ぶっ通しで興行していました。なのでお芝居も、例えば「義経千本桜」なら全五段、「仮名手本忠臣蔵」は全十一段と、フル上演すれば本当に一日がかり。それが、時代が下がって、面白くない場面は置いておいて、面白いところだけ上演する、オイシイとこどりバイキングの「見取り」が生まれました。興行のカタチも昼夜二部制、三部制となり、通し上演は難しくなったので、この「見取り」の上演形式が定着していったのです。
この「見取り」、オイシイとこ取りなのはいいのですが、物語の途中から突然始まるため、もともとの話を知らなければ迷子になります。ですから、解説では、その場面に行き着くまでに何があったのかや、人物関係の捕捉を行います。
おお・・・なんか今日はちゃんと解説の解説っぽい。つらつら書いているので、ちょっと何か違っていたらご指摘ください。お願いいたします。
それでは、本日も最後までお読みくださり、ありがとうございました!
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