GoogleがBardを発表 ところで“Bard”って一体どんな意味の言葉? どんな背景がある?
先日、GoogleがBardというAIサービスを発表しました。
Bardを「バード」と読むことは、何となくわかるかと思いますが、発音が似た単語のBird(鳥)とこれを勘違いしている人も中には見受けられます。この記事では、Bardという単語の意味とその歴史について紹介します。
Bardという英単語は、カタカナで発音を書き写すならば「バード」となり、まるでbirdと同じ発音であるかのように思ってしまいますが、曖昧母音で発音するbirdよりもbardの方が口を大きく広げる発音をします。また、bardは「吟遊詩人」といった意味の単語で、birdとは全く別の単語です。
英語圏で最大の辞書である、OEDこと『オックスフォード英語辞典』(Oxford English Dictionary)によれば、この単語はもともとケルト系の言語から借用されたものです。初めこの単語は昔ケルト人の宮廷で仕えた吟遊詩人を指していたようですが、やがて、「抒情詩人」・「叙事詩人」、あるいは「詩人」一般を指すようになったということのようです。
加えて、“the Bard of Avon”「エイヴォンの詩人」(あるいは単に“the Bard”)という表現がときどき使われることがあります。これは、詩人で劇作家のウィリアム・シェイクスピア(William Shakespeare, 1564–1616)のことを指す言葉で、シェイクスピアの英語版Wikipediaの記事を見ると、冒頭にそのことが書かれているほどです。これは、シェイクスピアがイングランド中部のストラトフォード・アポン・エイヴォン(Stratford-upon-Avon)で生まれ、死後埋葬されたことにちなみます。ですから、GoogleがBardを発表したと聞いて、英語圏の少なからぬ人々はシェイクスピアのことを想起したのではないでしょうか。実際、Twitterで“Google Bard Shakespeare”と検索すると、少なくとも20件のツイートでこのことに言及がなされています。
シェイクスピアは、同じく劇作家のベン・ジョンソンによって、「少ないラテン語の知識とそれよりもさらに少ないギリシア語の知識」(“small Latin and less Greek”)しか持っていなかった(1623年出版のシェイクスピアのファースト・フォリオに寄せられた文より)と言われました。この言葉にも垣間見えるように、シェイクスピアは同世代のいわゆる「大学才人」と呼ばれた作家たちとは異なって、オックスフォード大学・ケンブリッジ大学などでは学んでおらず、彼らに比べると古典の教養については不足していたかもしれません。しかしながら、シェイクスピアは2万語以上もの単語を作品で用いており、そのうち1700語はシェイクスピアが初出であるなどと言われています(cf. ‘Shakespeare’s Words’, Shakespeare birthplace trust)。また、今日でも使われる表現にシェイクスピアの影響は少なからずあるとされます。そのような文学史上の重要人物であるシェイクスピアを意識して、名付けたのかもしれません。
さて、最後にシェイクスピアがbardという語を使った箇所の引用と坪内逍遥による日本語訳で、この記事を締めることとします。