蒜山のがま細工を通して
(今回はゆうじさんの文章です)
圧倒される程の量のかご。
2021年5月15日〜17日の3日間、蒜山耕藝の食卓「くど」にて『日本のカゴと蒜山のカゴ』展を開催しました。
国立にお店を構えるカゴアミドリさんが出張展示を行ってくださったのです。
一つ一つ手にとって編まれたかごの細部を見ていると、植物と人の営みが時間と共に編み込まれているようで胸の奥がぎゅーっと掴まれるような感覚を覚えます。
さて、僕にとっても今回の目玉は蒜山がま細工。
簡単に言うと、蒜山の湿地に自生する「ヒメガマ」という植物を、さらに山に自生するシナノキの樹皮から取り出した繊維を手で撚った紐で編んだもの。実は600年にも渡る歴史を持つものであり、その製造には手間と時間が恐ろしくかかることは言う間でもありません。
ただ、この素晴らしいがま細工も他の伝統工芸品と同様にその未来は険しい状況です。
現在は素晴らしい作り手の方たちのおかげで保っていますが、後継者不足は言うまでもありません。
文化的価値の高さと希少性だけでなく日用道具としても優れているがま細工は魅力に溢れているけれど、今のところ本気でやりたいと名乗り出る人は現れていないそうです。
もう一つの問題は、素材となる「ヒメガマ」が育たなくなっているということ。
湿地に自生しているヒメガマの生息地がどんどん狭くなっていき、収穫がほとんどできなくなっているとのことです。
その原因は何だろうか?
気候が変わったことが頭に浮かぶけど、気候は変動するものであり600年の間の気候はずっと一緒ではないので最近の気候の変化が一番の原因とは考えにくいでしょう。
この数十年で川の水量や流れ、生き物環境が大きく変わったように山の植生も変わっています。松枯れやナラ枯れはわかりやすい例だし、草花の類は目立たないけど以前とは違った植生になっている可能性が高い。
無論、ヒメガマが自生する湿地も然りです。
湿地を取り巻く生態系や湧き出る水や流れ込む水の量や質がどう変化しているのか。
周辺に影響を及ぼしそうな人工物がいつできたか。
気になることはたくさんあります。
後継者についてはもしかしたら手を上げる人が現れるかもしれないけど、素材となるヒメガマは消えてしまう可能性があります。
この自然環境の変化(恐らく良くない方向への)は人間の開発や暮らしが深く関与し、がま細工だけに関係する事象ではありません。
すべての人に関係する共通の問題として認識できるものです。
自然破壊や気候変動を表す数字や指標はいくつもありますが、それよりもがま細工を通して見えることの方が問題意識を呼び起こすきっかけになるかもしれません。
ヒメガマを蒜山の自然環境の健全性を表すバローメーターとしてするのは少し強引だけど、蒜山がま細工のいちファンとして、自然環境の悪化を憂う一住人として、何十年も先もがま細工が作り続けられてほしいです。
それは文化的にも環境的にも豊かさを持っていると言えるからです。
今回のイベントを開催にするにあたり、
カゴアミドリの伊藤さんからは種を蒔くような展示になったらと伺っていました。
まさかの緊急事態宣言の発令となりましたが、開催する意義を改めて考えその必要性を強くしたし、多くのお客様もいろんな思いを持ってきてくださったと思います。
たくさんの種は蒔かれていると信じています。
上に書いたようにがま細工を取り巻く環境な厳しいかもしれません。
伝統文化の保存というアプローチだけでなく、環境問題として多くの人とこのことを共有し、今までとは違う流れに生まれたら嬉しいです。僕自身もここから学び、何ができるのか考えたいと思います。
今回蒔かれた種がいつどこで発芽するのか、どんな姿になるのかを楽しみにしています。
高谷裕治