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惣菜の「筑前煮」の美味しさ:別炊きがポイント!

 和食の定番といえば、筑前煮。

 しかし、この和食の定番中の定番惣菜「筑前煮」であっても、あまり売り上げが芳しくないと各スーパーで聞かれます。

 売れなくなった理由の一つに、味つけが濃いからかもしれません。
つまり味が濃いと、飽きてしまうからです。

 しかし和惣菜、中でも煮物が売れるポイントは「甘くて濃い色目」とされており、色目が濃くないと売れません。そして色目が濃くするためには、従来の調理方法だと、味付けもおのずと濃くなるのです。

 例えば、関西の出汁の文化と言われ、和食の料理店でいただく煮物は、優しい色目が多いですが、こと惣菜に関しては言うと、色目が濃いことが大切です。

 とあるスーパーでは、色目を濃くするために粉末の醤油を入れ、色目を濃くしたりしております。それにより、売り上げが1・5倍になったと言われています。

 しかし、単に色目が濃いことはさることながら、売れる商品とは?

 ・一つ一つの素材が持つ美味しさが引き立ち、つゆがしっかり染み込んで  おり、決して味は濃くない。
 ・見た目が重要であり、具材がきれいな形状を保っていること(煮崩れしていないこと)。
これらが鉄則です。

 皆さんがよく見るスーパーの惣菜売り場で、並んでいる筑前煮は、一緒に炊いているように見えます。実は具材ごとに別炊きされております。ご存じない方も多いでしょう。

 別炊きする理由は、具材によって柔らかくなる加熱時間が異なり、煮崩れしやすい素材があることや、煮すぎ防止のためです。また、具材を均等に一つのパックに詰めるためにも別炊きが必要なのです。

 筑前煮の別炊き方法では、各具材に鶏の旨味がしっかりと染み込んでいることが重要です。惣菜は家庭の延長線上として、主婦のパートさんが開発したり、和食の板前さんに依頼する企業もありますが、工場で作る煮物は通常の作り方とは大きく異なります。

 私もレストランや惣菜店での開発を経験していましたが、工場での開発に初めて携わったときは、作り方(別炊き)の違いに驚きました。

 まず出汁をとり、そこに醤油、砂糖と言った筑前煮の味付けの素を作ります。

 それ以外に、椎茸を具材として入れる場合は、椎茸のみを甘味のあるつゆで炊きます。この椎茸には旨味成分がありますので、この炊いたおつゆはしっかりと残します。


椎茸をたきます。これは残ったものは、白和えにも使用します。

 次に椎茸のつゆと先ほどの作った筑前煮の味付けの素をまぜ、そこに鶏を炊きます。鶏は、あまり炊きすぎると、硬くなるので、中心に火が通る程度で火を消します。  その鶏の煮汁、椎茸の旨味の入ったつゆ、筑前煮の素を一緒に混ぜたもので、今度は、根菜類を炊きます。ここでは筍、ゴボウ、こんにゃく,蓮根です。


根菜類をたきます。人参、鶏は別です。

 人参も別炊きに致します。これは鶏の煮汁のみで煮込み、彩りが醤油色にならないようにするためです。


 これを図でいたしますと・・・


筑前煮の工場製造の一例

 出来上がったものが、一つのパックに、パートさん、アルバイトさんが詰めていきます。このように・・・


こんな感じでございます。スーパーの「筑前煮」

パッと見て、別炊きには見えないようにしております。

 いろいろな煮物、筑前煮をあらゆるスーパーのものを試食いたしましたが「これは!」と思えるものは少ないのも実情です。ただ単に、甘くし、濃い色目に仕上げているのが多いかも・・・


 その中で感心したのが、「さいち」の煮物です。「さいち」は秋保温泉にある小さなコンビニほどの坪数のスーパーで、惣菜だけで年間6億をはじき出されます。厨房では、朝2時から、おはぎを作り、日々、パートさん、アルバイトさんが一丸となって惣菜を作っておられます。
なかでも「おはぎ」が有名で、全国各地のバイヤーが「おはぎ」の作り方を習いにおかみさんに頼んで厨房に入って教わります。
 
 私も夜中の2時に厨房内を入らせてもらいました。おはぎもさることながら、注目したのが、惣菜の作り方で煮物でした。まずそれぞれの惣菜は、トヨタ式となっております。つまり一人のパートさんが一つの商品をカットから煮込み、そして売り場に並べるまで、分担することなく、すべて一人に最初から最後まで一人に任せられてます。これにより「My煮物」という想いが生まれ、商品作りに決して妥協することはないのです。
 煮物の調理方法は、あらゆる他の商品で残った旨味のあるつゆを足して、炊かれることから、つゆが一滴も残らないようになさっておられました。
これでロスが極限まで軽減しています。
 当時のおかみさんは「この作り方は、真似ができない」と言われていました。でももしかすると、工場のラインに当てはめることができるのでは、と思い、製造ラインに落とし込み、いたしました。

さて・・・当初は・・・
 
 工場長も、別炊きをなさっていたのですが、出汁からとる工程に関して抵抗があり、面倒だということで嫌がられました。
 しかしその際、一緒に工場に入って、試作を重なることで、納得していただけました。このように一緒に商品を作り上げたことで、より深く信頼関係が築くことができたのではと思っております。これは、外部の人間が工場など、スーパーにとっては肝にもなる工場製造まで入るためには、まず信頼関係が大切だと思っております。

 一般の人には、あまり知られていない裏話を記事媒体で広げることで、より惣菜について興味を持って頂けたらと思っております。そして、それはしいては惣菜に携わっている人々にとって、モチベーションアップにつながるのではと思っているのです。

 「美味しさの舞台裏」というタイトルには、そんな思いが込められています。



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