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惣菜の「おにぎり」の美味しさのコツ、それは8握り。

食の米、それはおにぎり

「美味しさの基準は、年齢や地域によって異なります。しかし、一生のうちで一番何を食べたかという観点で考えると、その基準は頻度に基づきます。日本人の場合、生まれてから死ぬまでずっと飽きずに食べ続けているもの、それが米なのです」

これは、オリジン東秀の創業者、故安沢会長の言葉です。
確かに米は日本の食文化に浸透しており、中食においても重要な要素であり、売り上げのファクターとなります。
中食で米飯の構成比が高ければ売り上げが伸びると言っても過言ではありません。量り売りのサラダが売れても、一回の買い上げ量は少なく、売り上げに大きく貢献しません。同時に、米に合うおかずの開発が売れる商品を生み出します。

中食の総売上の三割はコンビニであり、その主力商品はおにぎりです。おにぎりはショーケースの三割を占めます。そこで、今回は、おにぎりに注目したいと思います。おにぎりを考察することは、中食の今後についての考察につながるからです。

米の現況について
家庭における米の年間消費量は年々減少の一途をたどっています。
平成六年を境に急激に減少しました。
平成5年までは一世帯あたりの年間購入量は横ばいでしたが、平均購入額は上昇していました。きっかけは平成5年の大凶作です。翌年には米不足となり、購入額は上がったものの、年間消費量は十四キロ減少しました。
米の品質は変わらず求められましたが、消費量は減少しました。
その後豊作が続いたにもかかわらず、消費量・購入額の下落は止まりませんでした。
平成十三年には家庭での年間消費量が100キロを割りました。
そして今、令和4年度には、50.9キロまで減少しています。その為、昨今、「コメ離れ」と言われるようになりました。

消費者にとって洗米・浸漬・炊くといった行為までが「手間」と捉えられ始めました。無洗米が消費者に支持され、日本人の六割は購入経験があります。夕食の調理そのものも、三十代の半数以上が面倒と捉えています(大阪ガスエネルギー研究所による)。

では本当に「米離れ」、つまり人々の米への飽きが始まったのでしょうか?確かに家庭における消費量は減少していますが、別の視点から見ると一概には断定できません。外食・中食などの米使用は増加傾向にあります。そしておにぎりは、過去10年から見ると、家計調査では、令和5年には、おにぎりその他が1.4倍となっております。

コンビニの出店数が急激に増えた1990年代後半から、米飯消費量も連動して増加しました。中食の米は既に加工済み商品であり、これにより加工済み米飯が一般消費者に普及しました。結果として、この普及は「米を炊く行為」そのものが手間であるという認識を浸透させました。

主食の選択肢の広がり、パンの普及も「米離れ」を加速させたと言われています。しかし家庭と中食の米消費量を対比させると、それには疑問が残ります。提供方法によっては消費者、つまり日本人はまだまだ米を求めていると考えるのが妥当です。結論としては、顧客のニーズはより多様化しているものの、米には市場と需要が存在しています。

コンビニのおにぎり、そしてセブンーイレブン

前述したように、コンビニは今や中食の流れを担っています。その中で、コンビニのリーダーであるセブンーイレブンの存在は大きいです。
セブンーイレブンのおにぎりの歴史
歴史を振り返ると、開発は昭和51年に始まりました。
二年後の昭和53年に手巻きおにぎりの販売を開始し、ローソンのおにぎり発売はその後でした。同58年には人気商品の「手巻きおにぎりシーチキン」の販売が始まり、翌年にはパラシュート型手巻きおにぎりを販売。
平成8年に人気商品赤飯おむすびを発売し、同13年に高価格おにぎり「こだわりおむすび」を販売。同15年には「おにぎり革命」を発売。セブン・イレブンは令和6年で開発から50年を迎えました。

当初、おにぎり発売にあたって反対の声もありましたが、今やセブンーイレブンで一番の売上を誇るのがおにぎりです。
年間22億個(セブンーイレブン・ホームページ参照)販売しております。日本人の一人当たり年金約22個、セブンーイレブンで購入していることになります。
おにぎりの幅が約4センチとして並べると8万4800キロ。地球二周以上という量です。セブンーイレブンはおにぎりを通して、日本のコンビニ業界を牽引しています。

おにぎりは主に昼食需要の商品です。昼食の優先順位は、省時間提供と価格です。セブンーイレブンの価格設定と、それに対抗するおにぎり専門店の価格構成を考察する必要があります。

セブンーイレブンは2000年12月25日におにぎりの店頭価格を10~20円引き下げました。平均値下げ率は8.5%です。この引き下げにより、他社コンビニも低価格競争に突入しました。
価格が下がると利益も下がります。
例えば関西における弁当のプライスラインは400円前後が主流でした。これは藤本食品が低価格弁当を販売したことで、スーパーの弁当価格が一斉に下がり、結果的に関東より100円下がりました。
藤本食品は徹底した仕入れと自社生産で利益を生み出しましたが、他のスーパーは無計画に低価格に走り、販売数は増加したものの、粗利は厳しい結果となりました。

このように戦略的システムがなければ、最終的に自らの首を絞める結果となります。セブンーイレブンの低価格路線は、生産拠点の集約と生産・物流のコスト圧縮によって実現されました。
その結果、販売額で10%、販売数で20%の成長を遂げました。
他のコンビニは、このようなシステムがなく、価格値下げを行った結果、品質の低下を招き、改廃が頻繁になり、開発費用が嵩む結果となりました。
本来は価格の上げ下げではなく、商品の適正価格を把握することが重要です。下げすぎると消費者の不安を煽ることにもなりかねません。
市場の動向を見据えて価格を設定することが賢明です。

その後、セブンーイレブンは2001年に200円の高価格おにぎりを販売しました。
これは高齢化における食のあり方に対応した価格設定です。
年齢が進むにつれ、量より味にシフトする傾向があります。
また、コンビニという業態そのものが成熟期に移行しています。
2001年以降、総店舗数は増加率が2~3%で推移していますが、コンビニの業態は5万店で飽和状態と言われたのですが、現在、約5万7000店舗となっています(2024年度)。

同時に2001年という時期は、路面店惣菜が、おにぎりを販売した時期でもあります。2001年6月、オリジン弁当は100g120円のおにぎりを180g150円にしました。これが1店舗当たり30個売れる超人気商品となりました(日経ビジネス参照)。
当時、世の中が低価格路線に突き進んでいた時期に、早朝から手で握られた温かいおにぎりを並べ、コンビニの冷たいおにぎりとの差別化を図りました。

この頃、一坪あたり月300万円を誇るおにぎり専門店「おにぎり権米衛」なども出現しました。これらの競合出現により、コンビニのおにぎりの在り方が改めて問われることとなりました。現在、セブンーイレブンは高価格帯のおにぎりを販売することで次代の客層をつかみ、価格においても圧倒的な主導権を持っています。

コンビニに対抗するおにぎり専門店「おむすび権米衛」
比較のために、コンビニと対抗するおにぎり専門店を見学し試食してみました。
今回は「しゃれむすび」「越後北の庄」「越後屋甚兵衛」「ほんのりや」「おにぎり権米衛」の五社です。
まずプライスラインを見ましたが、いずれも150円までに集中しています。これはコンビニの平均価格120円を意識した価格です。
「おにぎり権米衛」は下限価格が100円で、そこから10円刻みで価格が上乗せされており、わかりやすいです。
他のおにぎり店は下限価格が130円で、「おにぎり権米衛」はお手頃感があります。

顧客は売場に立った時、陳列しているおにぎりの価格をまず見渡し、瞬時に高いか安いかを判断します。おにぎり価格は一つ一つ検証するのが重要ですが、売場全体を一望した時の印象も大切です。

価格の幅も考慮する必要があります。
150円以内の価格が並んでいても、200円以上の価格が一つあるだけで高値感が出てしまう危険性があります。
今回検証したおにぎり専門店は160円以上の高価格おにぎりも多く、店内調理ということでコンビニとは一線を画しています。
これまでは160円の価格でも消費者は躊躇なく購入しましたが、今後は個々のブランドをいかにアピールできるかにかかっています。

そして今、米が高騰していることも、おにぎりがどのように価格が推移するのか、興味深い事柄です。

購入頻度・組み合わせによる新しい需要
おにぎりの購買頻度は高く、おにぎりは今や生活の一部となりつつあります。
データでは、4割以上の人が週に一度は購入しています。
これは22年度より増加しております(惣菜白書)。利用時間で見ると、最も多いのが昼食利用です。                                        

 おにぎりは単体でも購入されますが、同時に他の商品売上も押し上げます。昼食のトータル価格は500円までというのが一般消費者の見解です。
おにぎりの平均価格120円を二個購入しても、ドリンクを追加購入できます。おにぎり購入で最も多い組み合わせはお茶ですが、女性はサラダと、おかずと合わせるのは男性です。
朝からサラダ・おかずを陳列している惣菜店では組み合わせ購入が可能です。

おにぎりの問題点
これまでおにぎりのメリットを述べましたが、どの業態にもデメリットはあります。
おにぎり業態の問題点は、ハードルが低く、他業態の参入が容易であることです。
坪数が不要なため初期投資が少なく、厨房機器も他の業態より簡素です。では、どのようにしてハードルを高くするか?

答えは多方面にわたって独自のやり方を構築することです。価格、こだわり、ボリューム、提供方法、教育などの差別化が必要です。
「おむすび権米衛」はコンビニに対抗するため、店内調理で提供しました。コンビニおにぎりの弱点は冷たい状態での陳列です。
冷たいおにぎりはデンプンがベータ化し、凝固します。アルファ化した米は甘く美味しいです。路面店惣菜のおにぎりは温かく提供されるため美味しいので売れます。

1時間で握れるのは110個から150個
おにぎり専門店には「手握り」と「型押し」があります。
「おむすび権米衛」は「手握り」です。
「型押し」では1時間で110個から130個、「手握り」は熟練者なら150個は握れますが、初心者には難しいです。
「型押し」は初心者対策ですが、均一な圧が食感として不自然に感じます。母親が作ったおにぎりは表面がしっかりし、中身はふわっとしていました。これが美味しさの秘訣です。

「おむすび権米衛」は握る回数を8回ほどに抑え、ふんわり仕上がるようにすることで美味しさと人時生産性を高めています
さらにおにぎりをまず一口に入れた時、中の具材に到達するかどうかも検証されています。

コンビニおにぎりも日々進化しており、手で握ったような圧のかけ方を機械で再現する段階にきています。
おにぎりの商品特性、つまり「手握り」を外してはならないのです。「おむすび権米衛」のように、競合他社の参入があっても、「手握り」は手放してはなりません。

社員教育の難しさ
「おにぎりを作る」という単調な作業に対する従業員のモチベーションをどう保つかが課題です。
「おにぎり権米衛」は田植えから体験させ、企業理念を浸透させています。これが店内のモチベーション維持につながります。
会議においても、営業の方も参加し、そこで意見交換をすることで、より商品に対する想いが一人一人の社員にいきわたるようになさっています。
これが奏して、今ではアメリカ、フランスで非常に人気を高めております。

原料の高騰から

おにぎりは日々進化し、消費者のニーズも変化しています。
コンビニは大きな過渡期にあり、主力商品であるおにぎりの差別化が求められています。対抗するおにぎり専門店は「手握り」であることが重要です。米にこだわり、鮮度を保つことも重要です。
組み合わせ商品の検証や時間毎の販売方法の変化も求められます。
さらに原料である米がこれほどまでに価格が上昇しているなか、商品をつくり上げていくには、本当にこの原料がおにぎりに合うのかと言った検証も必要です。

例えば、おにぎりに合う海苔を既にセブンーイレブンでは手掛けられています。つまり、口に入れた瞬間に食べやすい海苔は、有明産でなくても良いのでは?と言ったことです。実際、海苔を変更されています。
さらにこの米の高騰から、おにぎりにふさわしい、ブレンド米や、混ぜご飯なども開発していく必要があるともいえます。



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