資金調達の裏側とSHEのこれから
今日SHEから3度目の資金調達のリリースを出した。
今日のリリースを見て、資金調達ってなんかキラキラしてしているなーと思った方もいるかもしれないが、実際裏側ではひたすら泥臭く、しんどいことだらけだ。
みんな調達が終わった後の晴れやかな姿しか見せないので、外から見ている人はそんな大変さ微塵も感じないと思うが、きっと過去に資金調達を経験したことがある起業家ならば、みんな首がもげるほど頷いてくれるのではないだろうか。
今日は私が経験した今回の資金調達について、裏側のストーリーを話したいと思う。
こういう話はまあ普通表には出てこないので、個人の経験談ではあるもののプロセスとして共有することで、誰かの何かの役に立てれば嬉しい。
3度目にして初めての資金調達
まず産休を終えて会社に復帰した私は、これからの会社の方向性について色々考えていた。そんな中でSHEのライフコーチングカンパニー構想が浮かびあがり、SHEbeautyやSHEmoneyなどのブランドポートフォリオ展開へ舵きりをすることにした。そこから採用も一気に進め、これからの事業拡大に向けて資金調達をする決意をした。
実際に動き出したのは10月の秋ごろだったかと思う。実は私は今まで資金調達を1人でリードして行った事はなく、知識についてもこのシリーズA・Bラウンドを1人でやり遂げるにはなかなか心もとないものだった。
まず既存投資家のTLMテルマくんとポーラ・オルビスHD岸さんにSHEと親和性のありそうなベンチャーキャピタリストの方々を沢山紹介していただき、軽くプレゼンをするところから始まった。皆さん興味深く聞いてくださりアドバイスも多数いただいて大変勉強になったのだが、検討が進む中で結果として断られる場面も多くあった。おそらく20社ほどお見送りになった気がする。
投資もマッチングなので、どちらかが悪いということでは決してなく、相性やフェーズ、ビジネスモデルやタイミングによるとは思うが、そうと頭がわかっていても、自分が心から信じている会社や事業を否定されたような気持ちになることも少なからずあり、落ち込む日々が続いた。
調達を進める中で、学んでいったこと
ただ、様々な関係者の方々からフィードバックをいただく中で、どんどん事業戦略はブラッシュアップされていった。まず我々に一番溜まっているアセットは何なのかということ。ここが自分たちの中で明確化できたことがこの調達プロセスの1番の収穫なのではと思う。
プレゼン回りを始めた当初は、私たちは数字の実績としてはお陰様で順調に伸びていた部分もあったので、そこの実績を推すようにしていた。ただそれだけだと全然刺さらない。良い事業だよね、伸びてるね、頑張ってね、で終わってしまう。
投資家の方々も"ただ売り上げが伸びている"と言う軸で事業や会社を判断する訳では勿論なく、彼らのポートフォリオの中で、次はどのトレンドや業界にベットするのか、どこに彼らの次の潮流の期待を掛けるのか、そういった観点も少なからず入ってくる。
私たちはどのドメインで・どんなラベリングで投資家から期待をされているのか。そういった投資家サイドの視点はピッチを進める中で新しい学びになった。
また、現在事業が伸びているというなら「その事業成長を牽引する変数は何なのか」、そして「それはその会社にしかないアセットなのか」、という観点も多くのVCの方から頂いた問いだった。
そうやって頂いた問いについて内省を繰り返すうちに、私達が今後最も投資していくべきアセットは「コミュニティの熱狂」だ、という解に最終的に行き着いた。今まで自分達の競合優位性を4つほど上げていたが、どれもドンピシャでしっくり来るものではなかったように思う。自分達が持っているどの変数に投資をすれば非線形に事業が伸びていくのか、そこにフォーカスして考えるきっかけを頂けた事は大きな収穫だった。
私たちは女性たちの人生に寄り添うプラットフォームを作っていきたい。それは令和版のリクルートのようなものかもしれない。ブランドをコアに据え、それぞれのユーザーの人生のタッチポイントで課題解決を行っていく。そうした事業方針を立てたときに、その核となるコミュニティとブランドの熱狂性をどう再現性高く作っていくかというところがキーになると私たちは考えた。
なので、今回頂いた投資資金は主にSHE会員さんの体験を向上するためのテクノロジーに投資し、様々な体験の自動化・最適化・マッチングを図っていきたいと思っている。
今回仲間になって下さった3社との出会い
そうして資金調達を進める中で、今回の3社と幸いにも出会うことができた。
まずANRIは、代表の佐俣アンリさんと面識があり、家族ぐるみでお家に遊びにいかせていただいたり過去の資本政策時には親身に相談に乗っていただいたこともあった。今回D&Iを業界内で先駆けて推進するANRIに参画いただけた事は、我々にとって非常に意義のあることだと感じている。
ただANRIにプレゼンに行った時は、正直自分の力不足によりボコボコにされた記憶しかない。笑 本当に自身の経験や知識の浅さに非常に情けなく反省をしたと同時に、この悔しい気持ちをバネにして私たちに足りないピースをANRIにサポートしていただきたいという気持ちも素直に芽生えた。
GP河野さんは、ブランドやコミュニティなど、資本市場では評価されづらい曖昧なものに対しての理解・造詣も深く、我々の目指す世界に対しての共感も常にしてくださる方だった。「業界の様々な不均衡・格差・分断を是正したい」と言う気持ちが芽生えたのも、この河野さんのとのディスカッションを通じてだった。私が成し遂げたいものは単なる女性のキャリアスクールではなくて、世の中の格差を是正することなんだという自分の内なる声に気づくことができた。
そしてシニアアソシエイトのニーナちゃんはこの調達の影の立役者であり、私が感謝しても仕切れない人物の一人である。彼女は非常に聡明で、ディールの裏側で様々なことをサポートしてくれたのだが、その細やかさ、丁寧さは言わずもがなで、それより何より、ずっと私の事を励ましながら、SHEの事業を信じて走ってくれた。ニーナちゃんの「大丈夫!」に何度背中を押されたかわからない。ニーナちゃんがいなかったら私はこの資金調達を乗り切れていなかったと思う。彼女は、ANRIの中でD&Iを推進するために自ら声をあげ、ANRIの女性起業家投資比率を20%まであげるというポジティブアクションを提案した人物なのだが、いくら理解がある人しかいないと思っても、全員年上の男性しかいないグループでそんな声をあげる事は人並み外れた勇気が必要だ。それを乗り越えて、声をあげて、実際に組織を動かしている彼女をリスペクトしている。SHEが成功する事で、彼女を日本一の女性キャピタリストにすることも私のウィッシュリストの1つに加えられた。
次に博報堂DYVの武田さんはVC回りをするほぼ1番最初にお話をさせていただいたキャピタリストの方であった。非常に物腰の柔らかい方で、私のピッチをうんうんと頷きながら優しく聞いてくださった。そして将来的に義務教育のアップデートを行いたいと思っていることやクリエイティブへの投資などを踏まえて、博報堂DYグループの方々と何か協業ができないかというところを何回もディスカッションをさせていただき、今回の投資に至った。今回の投資の中では実は諸々の関係でファイナンスのデッドラインが1月末に決まっていたので、非常にタイトなスケジュールの中クロージングまでご協力をいただいた。そのことに関しては3社とも感謝しかない。(有賀さん、山下さんもありがとうございました)
金山さんと中馬さんのお写真がとにかく可愛くてほっこり。笑
最後にグローバル・ブレインが運営するKDDI Open Innovation Fund(KOIF)についてだが、担当キャピタリストの金山さん、内田さん、吉尾さんは、皆様3名とも女性の方で、初めにプレゼンをさせて頂いた時も、心の底から事業の意義やこれからの女性に必要なサービスだという点に共感してくださった。実際にSHE銀座にも足を運びその熱狂を体験していただいた。今回の調達で特に骨が折れたのがデューデリジェンス対応だったのだが、財務・経理・資本政策など様々な観点をくまなくチェックして頂き、現時点で課題の洗い出しと対応ができた事には感謝しかない。(特にDD対応は吉尾さん本当にお世話になりました)
2021年度はコーポレート部門管理体制をさらに整えていくという大きなテーマも見出せた。
この資金調達を進めるに当たって、やはりずっと伴走をしてくれたのはポーラ・オルビスHDの岸さんであり、TLMのテルマくんだった。ピッチ資料やプレゼンの仕方に何度もフィードバックをくれたり、投資家紹介、契約書のレビューなど。並行して実は資本政策周りで整理しなければいけないことがこの資金調達以外にも色々あったので、その伴走も行っていただいた。
資金調達はお金を集めることだと思われがちだが、私はどちらかというと仲間を集めることだと思っている。SHE株式会社の未来に期待し、SHEの掲げるビジョンが実現することを信じてくれている仲間が増えること。それが1番の価値だと思っている。
そしてその仲間たちそれぞれが持っている強みを活かして、その実現確度を最大限上げていく、これが資金調達をやる本質的な意味なのだと思う。
調達資金はSHEメイトさんの為に使っていきたい
今回調達した資金は、コミュニティ体験熱狂度を上げるためのテクノロジーに投資していくと前項で述べたが、平たく言うと全て調達した資金は会員の方々、つまりSHEメイトさんのために使っていきたいと思っている。
今まで累計30,000人以上の受講生、そして現会員だけでも2500名近くの会員を抱えているSHEだが、正直まだまだ私の理想のレベルには達していない部分も多々あるのが現状だ。
やりたいことや改善したい事、新しく挑戦したい事は山のようにあるが、日々人も時間もリソースが限られている中で、優先順位をつけ今やるべきことにフォーカスをするという意思決定を取り続けなければいけない。
そうした中で会員の方からたまに頂く声として、
・「シーライクスに入ったけど思ったようなキャリアチェンジができていない」
・「Twitterやslackで見るSHEメイトさんがキラキラしていて自分と比べてしまう」
・「勉強はしてるけど日々忙しさで忙殺されて焦燥感に駆られている、自分に自信をなくしている」
というようなお声をいただくことがある。
そのたびに胸が締め付けられて本当に情けなく自分の力不足が申し訳ない気持ちになってくる。
Twitter等SNSで多数のSHEメイトさんが「人生が変わった」「キャリアチェンジした」「本当にSHEに入ってよかった」と素敵なコメントをくれているのも事実だし、それは非常に喜ばしく誇らしいことだが、その裏でまだまだ救えていないSHEメイトさんがいることを決して忘れてはいけないと常々思っている。
ただそういった方々に対して、"全て人力で"モチベーションをあげに行ったりケアをしたりすることには限界があるということも見えている。そんな中で私たちが恒久的に対応していかなければいけないと思うのは、どう全ての人々が置いていかれずに、全ての人々の理想の体験や人生をサポートできる"仕組み"を作るかということだと思う。
それがコミュニティ体験への投資であり、テクノロジーへの投資に繋がってくる。
技術を使ってどんな体験を提供していくかという具体方針に関しては伏せておくが、すべての施策は今のSHEメイトの方々、そして未来のSHEメイトの方々の幸せに通ずるものにしていくつもりだ。
だから、自分は取り残されているとか、自分はシーライクスで期待した満足度を得られていないと思う方々にも積極的に意見を聞き、改善のヒントを得ていきたい。なので来期からはユーザインタビューの機会を積極的に設け、全社で顧客の課題についてのリテラシーを高めていくような動きができればと思う。
私は沢山SHEメイトさんから勇気や希望を与えてもらっている。そんな皆様に恩返しがしたい。声なき声に押しつぶされずに、前を向いて是非声をあげて欲しい。
時間はかかるかもしれない。すぐには対応できないかもしれない。でも確実に皆さんの声は私たちに届いています。
最後に
今回資金調達を経る中で、COOの五島の存在にとても助けられた。資金調達の知識がまだ不足している私を沢山補ってくれ、資料の作成やプレゼンにも毎回同行してくれて(あー今のピッチうまくいかなかった...)と落ち込んでいる時も「大丈夫、次に活かそう」とそっと励ましてくれた。
私は創業当初から彼に助けられっぱなしなのだが、彼はシャイであまり人前に出る事は好きではないので今年は私が強制的に彼をいろんな登壇やメディアの場に引っ張っていって彼の良さを世の中に広めていこうと思う。
なのでみんなまずは彼のTwitterフォローから始めてください。
五島だけでなく、今回の調達には様々な人のサポートが裏側にある。弁護士の東海さん、税理士の竹本さんがこちらの無理難題にも全て爆速で応えてくださったから。SHEで働くみんなが私が調達回りをしている中でも着実に事業を伸ばし続けてくれたから。今日がある。今回の資金調達は、私一人でなく、チームだからできたのだ。だから今日を迎えられた事がとても嬉しい。
私は天才でもカリスマでもなく、本当にただの普通の30歳の女性であるという事が以前はコンプレックスだったけれども、今はそんな自分も悪くないなと思っている。
何かずば抜けて光るものがあるわけではきっとないけれども、同じ目線で様々な課題を抱えている女性たちの想いに寄り添える事、等身大の自分だからできる事が多くあると感じている。
前述した通り"私個人"は極めて普通の人間なのだが、"私の目指す世界やビジョン"はとても大きくて意義のあるものだと信じている。
今回いただいた資金は、私や会社への期待であり、希望であり、未来への切符だと思うので、それを最大限に活かして目指すビジョンの実現に寄与していきたい。
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