魚津の「埋没林博物館」で、水底に眠る巨大切り株に息を吞む
とある取材で、富山県にやってきました。海上に幻影のような風景が浮かぶ「蜃気楼」で有名な、魚津という町です。
天気はどんよりとした曇り。こんな日に蜃気楼が見られることはないのだけど、ここには「埋没林博物館」なる不思議な博物館があります。
埋没林って知ってますか? 河川の堆積や火山の噴火で森ごと地中に埋まり、朽ちることなくそのまま保存された森のことだそうです。森ごと地中に……。なんでしょう、このファンタジー感は。
魚津では100年ほど前、海岸工事で広大な埋没林が発見されました。国の天然記念物として一部が保存され、まだごろごろ埋まっている敷地ごと博物館になっています。
暗闇から徐々に浮かび上がる切り株
メイン展示ともいえる「水中展示館」は、一見、大きな倉庫のような建物でした。
入り口の前に立つと、自動ドアが開きました。ドアの先に広がるのは、ひとりですたすた入るのはちょっとためらうような、がらんとした暗闇です。
足を踏み入れるとまず手すりがあり、眼下に水面が広がっています。巨大な実験施設のような水槽です。しかし、暗すぎて水の中がよく見えません。
目を凝らしていたら、水槽の照明が端から一つずつ灯り始めました。なにこのエモい演出!
水中には、想像をはるかに超える大きさの、異形ともいえる木の切り株が3つ、沈んでいました。中央の切り株は直径10メートルを超えています。
おどろおどろしくも荘厳な根の迫力に息を吞み、じっと目を凝らしていると、根っこが自分の意思で動き始めるんじゃないか、という気さえしてきます。
なんでそんな気がするんだろう? 木の根っこは地中で生きていたときだって動いていなかったはずなのに。
わかりました。根っこの下からときどき気泡が立ち上ってくるのです。それが、「生きもの」感をいや増している。
なんで気泡? そもそもなんで根っこを水中に沈めてあるの? 埋没林が海岸から出てきたってことはこの水槽の水は海水?? 疑問がぷつぷつと湧きだしてきます。
結論から言うと、この切り株はもともと、立っていた木の根っこ部分が地下の伏流水に浸かっていたがために、この姿のまま残ったのでした。冷たく澄んだ地下水の中では、木を分解する微生物の活動も抑えられます。逆に、土に埋まったり、空中に出ていた幹の部分は、ふつうに分解されてなくなってしまったのです。
そしてこの水槽展示は、根っこが出てきたときにそのまま四方を囲うように透明の壁を作り、そこに伏流水を汲み上げて満たしたものなんだそうです。なんて型破りな展示方法!
しかも、掘りだした時の地面はそのままで、底は覆っていないので、地下から自然に供給される水もあるという。根っこの下からまっすぐ水面に向かって上ってくる気泡は湧き出た水に由来するものかもしれません。
えええ~、なんですかこれ。すごくない? なんでこんな貴重な展示ががらっがらなのか。
博物館とは別件の取材で、地元で育ち、暮らしている方々とお話しをする機会があったのですが、みんな生まれたときからこの水中展示が身近にあるので、「なんか小学生のときに観に来たなあ。おっきなプールに木の根っこが浸かってたな」ぐらいの認識のようで。
「すごい展示ですよね!! わたし、もう一回じっくり見てから帰ります」と言っても、「はあそうですか」ぐらいの薄い(笑)反応でした。
逆さ富士ならぬ、逆さ埋没林
水槽は地上階から見下ろすこともできるし、地下に降りて、地中(水中)視点から根っこを見ることもできます。冷たい地下水で満たされた水槽の温度は20度。外は30度超えですが、ここはひんやり肌寒い。
地下に降りると、また幻想的な光景が広がります。まるで逆さ富士のように、下から見上げる水面に根っこが逆さに浮かんでいるのです。
ここから小説とか映画とか生まれそうな光景なんですけど。と思ったら、ありました、絵画の大作が(「命守(みこともり)」吉田沙織)。著作権を侵害しそうなので写真はアップしませんが、すばらしい絵でした。
絵画や写真のようなスナップショットだけじゃなくて、時間の経過も存在する「物語」ができそうな気もする。
ゆりかごを抱いたまま埋まった大木
このほか、至近距離で見ることができる(直に触われる根っこも多い)展示室と、発掘現場を再現した展示室と、総合情報が集まったスペースにハイビジョン映像を放映するホールもあって、ゆうに2時間はいられます。
ハイビジョン映像がまた、すばらしいんです。この埋没林が地上で生きていた当時の姿かもしれない、川の上流にある今の巨大スギ(洞杉)の生きざまも見せてくれます。こういうミニ番組って昔は退屈だったけど、いまの映像ってテンポがよくて、情報も絞られてて、解像度が高くていいですよね。
魚津埋没林博物館、いいですよ。車を使わなくても公共交通機関だけで行けるのもいい。富山駅から魚津駅まではローカルな電車、魚津駅から博物館までローカルなバスと乗り継ぎますが、どちらもわりと本数があって便利です。なんなら魚津駅から歩けないこともないくらい。
気になる、木に成るスイーツ
館内を歩き回って疲れたら、エントランスのカフェ「キニナル」でフルーツ主体のスイーツを。このためだけにわざわざ行っても損はないぐらいの、目にも舌にもおいしい「映える」スイーツです。
まだオープンして数年。コロナ禍の直前には行列ができるほどの人気だったそう。まだ海外からの観光客が日本の津々浦々までは行き着いていない今が、並ばず買えるチャンスかも。
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