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日記:都合のいいパラレルワールド

あの時OKしてたら、今頃この会場には来てなかったかもな。

先日友人に誘われた婚活パーティーに参加している時に、ふとそんなことを思った。


彼氏いない歴がだいぶ長い私にも、忘れられない恋の思い出がある。

この記事で紹介するのは私が恋をした話ではなく、「恋をされた」時の話だ。


***

群馬の田舎の中学に通っていたころ、私は勉強が得意で、いつも学年でトップ3に入っていた。

なぜそこまで成績がよかったかというと、友達がいなかったからだ。

中学2年の半ば、私は部活内で人間関係のトラブルに遭い、そこからしばらく孤立していた。

だから朝の自由時間も休み時間も話す相手がいなくて、問題集を解くくらいしかやることがなかった。

そして気がついたら学年のトップクラスにいたのである。


中学3年になるとき、クラス替えをして、「カトウ」という男子生徒と席が隣になった。

彼と同じクラスになったのは初めてだけど、私たちはお互いのことを知っていた。

勉強上のライバル同士だったからだ。

彼は何度も学年1位をとるくらい優秀で、私はかなり彼のことを意識していた。


それはさておき、温和な性格のカトウとはすぐに仲良くなった。

勉強のことも相談しあえるし、お互い音楽が好きだったからしょっちゅう話をしたし、まさに気が置けない友人という感じ。

私が嫌いな先生の悪口を言うと、彼が「まあまあ」とよくなだめてくれたのを覚えている。


一方、そのころ私は別のクラスの男子生徒に片思いをし始めた。

彼とは塾が一緒で中1からの知り合いだったのだけど、合唱コンクールで彼のピアノを弾いている姿を見た瞬間、好きになってしまったのだ。

剣道の大会で毎回優勝するようなザ・体育会系人間なのに、こんな素敵なピアノを弾いちゃうなんてーーーまんまとそのギャップにやられてしまった。


しかし、この恋はあっけなく終わる。

なんと私が彼のことを好きになった合唱コンクールの日、彼は別の女の子に告白して、見事カップルになっていたのだ。

この話を掃除の時間中に聞いた私は思わず号泣。

掃除を終えて席に戻った後も、ずっとすすり泣いていた。


すると隣の席に座っていたカトウが、「どうしたの」と聞いてきた。

カトウのことは友人として信頼していたし、泣いている理由を言ってもよかったのだけど、男友達だからかなんとなく言いづらかった。

だから「いや、ちょっとね」とだけ返した。

家に帰っても気持ちは晴れず、「カトウに相談したらすっきりするかな…」と思い、ガラケーのメールで相談しようと考えた。が、やめた。

そしてその後、「あの時カトウに相談しなくてよかった」と思うことになる。


***

中学を卒業し、私は県内の女子校へ、カトウは男子校へ行くこととなった。

私は人間関係でこじれていたこともあり、好きではない中学を卒業できることに喜びを感じていた。

だから、卒業式の日も泣きもしなかった。

カトウを含む何人か私と口を聞いてくれた友人たちとも、いつもの感じで笑顔で別れた。


時は経ち、高校を卒業し東京の大学に進学することになったある日のこと。

上京先のアパートで寝転がっていたら、1通のメールが届いた。

送り主はカトウ。

「久しぶり!覚えてる?急に連絡してごめん!
えりはどこの大学に行くか決まった?」

うわ〜、懐かしいな。でもなんで私に連絡してきたんだろう?

高校時代は一度も連絡を取り合わなかったのに。

そう思ったけど、カトウに対してまだ信頼感を持っていた私は、すぐにメールを立ち上げ返信をした。

すると少し間があいて、彼からこんな返事が返ってきた。

「そうか、東京に行くのか。
俺、北海道の大学に行くんだよね。
その前に、言っておきたいことがあってさ。

実は、中学の頃からずっとえりのことが好きでした。
高校にいる時も忘れられませんでした。
俺が北海道に行ったら遠距離になっちゃうけど、よかったら付き合ってくれませんか?」

え、という言葉以外出てこなかった。

まさか、まさかまさか、あんな泥沼時代の私に好意を持ってくれていたなんて…。

なんでかわからないけど、涙が出た。


でも、私の中で返事は即決していた。

中学時代が今でも嫌いで、当時のクラスメイトとはあまり関わりたくないと思っていること。

中学時代には別に好きな人がいたこと。

恋愛感情を持てない人と付き合うことに、罪悪感を感じてしまうこと。

東京の大学に行って、新しいスタートを切りたいと思っていること。

それらを考慮して、私は彼の告白をあっさり断ってしまった。

彼からは「わかった。じゃあお互い元気でいようね」というような返事が来て、このやり取りは終了した。

それから私たちは一度も連絡を取っていない。


***

その後東京で夢のキャンパスライフを送ったが、恋愛は散々だった。

3年間1人の人だけに片思いをしていた私は、だんだん「何の理由もなくプレゼントを送ってしまう重い女」となり、その人にだいぶお金を使ってしまった。

この恋はもちろん実らず、苦い思い出と反省だけが残った。

大学卒業後は女性が多い職場にいたので男性と出会う機会があまりなかったし、そもそも「恋愛より仕事じゃ!」というスタンスでいたので、恋愛する気になっていなかった。


しかしその後コロナ禍となり、徐々に人恋しい気持ちになってきた。

これまでにないほど「恋人が欲しい」と思うようになったのである。

そして友人から誘われた婚活パーティーに参加し、そこで1人とデートにこぎつけたものの、あまりうまくいかず…このブログを書くに至っている。


恋愛をしたいのになかなかうまくいかない今、気づいたら考えてしまっていることがある。

カトウからの告白にOKしてたら、今頃私の人生は違ったのかな、と。


真面目な彼のことだから、遠距離であってもマメに連絡をくれただろう。

またどこかのタイミングで関東に帰ってくるとか、私が北海道に行くとかってこともあったかもしれない。

そして私も彼のことを尊敬していたから、もしかしたら今の年齢まで付き合っていたかもしれない。

はたまたすでに結婚していたりして……?


…って、こんなの都合がよすぎる。

自分で断っておきながら、今の恋愛がうまくいかないからって彼の告白を思い出すなんて、本当に都合がよすぎる。

それでも自分勝手な私は、OKをした後のパラレルワールドをどうしても想像してしまう。

告白から10年経つのに、いまだにあの時の選択を後悔しているのかもしれない。


***

カトウのメールアドレスは、ガラケーから乗り換えた今のスマホには入っていない。電話番号もわからない。

でもいつでも彼のことを思い出し、反省と感謝をすることはできる。

もう一生会うことはないかもしれないけど、私の知らない世界でのびのびやってくれているといいな。

私は私で、甘酸っぱい思い出と痛みとともに生きていくから。

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