労働基準関係法令違反に係る公表事案

https://www.mhlw.go.jp/content/001150620.pdf

この文書は、厚生労働省労働基準局監督課が公表した「労働基準関係法令違反に係る公表事案」(令和6年1月1日~令和6年12月31日公表分)の情報を基に、主要な違反テーマ、重要な事実、およびそれらの背景にある課題をまとめたものです。各都道府県労働局が公表した内容を集約し、違反内容を分析することで、労働環境の改善に資することを目的としています。

🟨労働安全衛生法違反の多発:

墜落・転落防止措置の不備: 高さのある場所での作業における手すりや安全帯の使用義務違反。
機械の安全対策の不備: 機械の可動部分に対する安全装置の未設置や、運転中の機械の清掃・調整作業など。
無資格者による業務: フォークリフトやクレーンなど、特定の資格が必要な業務に無資格者を従事させる違反。

  • 多くの違反事例が、労働安全衛生法に関連しています。特に、建設業や製造業において、墜落防止措置、機械の安全措置、資格のない労働者の作業従事など、労働者の安全を脅かす違反が目立ちます。

  • 例: 「高さ約2メートルの作業床で作業させる際、墜落防止措置を講じなかった」(秋田労働局)、「無資格者にフォークリフトを運転させた」(青森労働局)、「機械の清掃を行う際、機械の運転を停止しなかった」(静岡労働局)

  • これらの違反は、重大な労働災害につながる可能性があり、事業者の安全意識の欠如や、安全対策の不徹底が原因と考えられます。

  • 「型枠支保工を組立図により、組立てていなかったもの」(北海道労働局)などの建設現場での違反は、構造的な問題であり、企業の安全管理体制に問題があることを示唆しています。

🟥賃金未払い問題:

  • 最低賃金法違反や労働基準法第24条(賃金支払いの原則)違反も多数見られます。労働者への賃金未払いは、生活を直接脅かす深刻な問題であり、労働者保護の観点から看過できません。

  • 例: 「労働者2名に、1か月分の定期賃金約43万円を支払わなかった」(北海道労働局)、「労働者1名に対し、1か月部の賃金約30万円を、支払わなかった」(茨城労働局)、「労働者12名に、約7か月間の定期賃金合計約2,400万円を支払わなかった」(神奈川労働局)

  • 特に中小企業や零細企業において、資金繰りの問題や労務管理の甘さから、賃金未払いが起こりやすいと考えられます。

🟦時間外労働・休日労働に関する違反:

  • 労働基準法第32条(労働時間)や第36条(時間外・休日労働)違反も散見されます。36協定の不備や、協定時間を超える違法な時間外労働は、労働者の健康を害するだけでなく、過労死にもつながりかねません。

  • 例: 「36協定の延長時間を超える違法な時間外労働を行わせた」(北海道労働局)、「有効な36協定締結・届出を行うことなく、労働者8名に違法な時間外労働を行わせた」(北海道労働局)、「36協定の延長時間を超えて、また、1か月について100時間以上かつ2から3か月平均で80時間を超えて違法な時間外労働を行わせた」(東京労働局)

  • 「自動車運転者に対し違法な時間外労働を行わせたもの」(愛知労働局)のように、特定の職種で過重労働が常態化している可能性も示唆されています。

🟫労働災害報告義務違反:

  • 労働安全衛生法第100条違反として、労働者死傷病報告書の遅滞や虚偽記載が多数報告されています。これは、事業者が労働災害を隠蔽しようとする意図があることを示唆しており、再発防止策の策定を妨げるだけでなく、労働者保護の観点からも問題です。

  • 例: 「4日以上の休業を要する労働災害が発生したのに、遅滞なく労働者死傷病報告を提出しなかったもの」(北海道労働局)、「虚偽の内容の労働者死傷病報告を所轄労働基準監督署長に提出したもの」(青森労働局)

  • 虚偽の内容を記載した事例については、事業者が意図的に隠蔽しようとした可能性が示唆され、厳正な対応が求められます。

🟩その他:

  • 「労働基準監督官の尋問に虚偽の陳述を行ったもの」(北海道労働局)のように、労働基準監督署の調査を妨害しようとする悪質な事例も見られます。

  • 労働者派遣法違反(例: 「ホッパーの内部に埋没することにより労働者に危険を及ぼすおそれがある場所で派遣労働者に作業を行わせたもの」北海道労働局)や、就業規則の周知義務違反(例:「就業規則を常時作業場の見やすい場所へ掲示する等の方法により周知していなかったもの」神奈川労働局)など、労働者の権利を侵害する違反も存在します。

  • 「解雇理由証明書の交付を請求されたにもかかわらず交付しなかったもの」のように、労働者の権利を尊重しない事業者も存在します。


主な違反法令:

  • 労働基準法(第24条, 第32条, 第36条, 第37条, 第39条, 第101条, 第106条, 第120条)

  • 労働安全衛生法(第11条, 第14条, 第20条, 第21条, 第22条, 第30条, 第31条, 第33条, 第45条, 第59条, 第61条, 第65条, 第100条, 第120条)

  • 最低賃金法(第4条)

  • 労働者派遣法(第45条)

  • 各規則・命令(労働安全衛生規則, クレーン等安全規則, 有機溶剤中毒予防規則, 粉じん障害防止規則, 酸素欠乏症等防止規則, 特定化学物質障害予防規則など)


分析:

このリストから、以下の点が明らかになります。

  • 業種による偏り: 建設業、製造業、運送業など、労働災害リスクの高い業種で違反事例が多い傾向にあります。

  • 地域差: 北海道、関東地方、中部地方を中心に、違反事例が多い地域が見られます。これは、地域ごとの産業構造や労働環境、監督体制の違いに起因する可能性があります。

  • 違反内容の複合性: 複数の法律や規則に違反している事例も見られます。たとえば、安全管理体制の不備と賃金未払いを同時に行っている事業者も存在します。

  • 中小企業の課題: 中小規模の事業所における違反事例が多い傾向があります。これは、人員不足や資金不足、専門知識の欠如などが影響していると考えられます。

  • 管理体制の欠如: 労働災害の隠蔽や調査妨害など、企業のコンプライアンス意識の低さが問題視される事例もあります。

いいなと思ったら応援しよう!

Yuki
Thank you for your support. We are the world.