建築と親しむ:フィン・ユール自邸(レプリカ)
高山にある株式会社キタニジャパンが自社敷地内に建てたフィン・ユール自邸のレプリカを紹介します。
レプリカといえども、デンマークの本家を管理している建築家の監修のもと、可能な限り初期の素材や色の状態に近づけるように造ったとのことで、とても見応えのある建物でした。
元の住宅は、フィン・ユールが30歳前に設計したということもあり、「熟練の」というよりは若さと実験味があふれるディテールが積み重なっています。
そのため、間取りや寸法等に多少疑問を感じる点もありますが、とても気持ちの良い住宅だと思います。
外壁はブロック積みの上にしっくいを塗っていますが、これは家の素材等で税金が変わるという当時のデンマーク流課税への対策らしいです。
白く塗ってしまえば何で造ったかばれないという、嘘か本当かわからない話でした。
玄関から入ると正面にアトリウム的なスペースがあります。
なるべく外部を内部に取り込みたいという気持ちが強かったようで、内部にも植栽スペースが設けられています。
正面の階段を登るとダイニングです。
リビングです。
この家は殆どの部屋が天井高3mで揃えられていますが、この空間のみ勾配天井で一番低いところで2.4mです。
身長差というのがあるのかと思いますが、個人的にはもう少し低いところから勾配が始まるほうが好みです。
この1部屋だけで47平米ありますが、その他の部屋が比較的コンパクトなのでメイド用の部屋を入れても160平米程度に収まっています。
ダイニングは天井と壁で3色使っています。
ダイニング奥のカウンターは窓からのコールドドラフト対策の暖房がカウンター下に入っていて、対流で迎え撃つために壁から離して設置されています。
ゲストルームには小さめながら収納式のベッドが備え付けられています。
寝室への廊下部分はウォークスルークローゼットになっています。
靴から衣類まで、一通りのものが収納されていたようです。
このベンチはバスルームの前にあり、シャワー後の休憩のために設けられていたようです。
寝室に置いてあるベッドはアメリカの家具メーカーが制作した希少なフィン・ユールデザインのベッドフレームのレプリカで、下がっている照明も当時使われていたルイス・ポールセンのものと同じタイプとのこと。
図面上倉庫となっている部屋ですが、弟子用の仕事部屋としても検討していたらしい図面があったようで、そちらをベースに造ったとのことです。
図面を書く場所として考えると手書きの時代ならではの窓の位置ですが、日本の一般的な設計事務所の作業スペースとは比べ物にならない良い環境ですね。
机の脚にスチールを使って軽さを出しています。
キッチンの壁は他の部屋の白よりも若干青みの強い白になっています。この部屋のみ実際に使うために日本のコンセントプレートが使われていました。家具の扉は角を落としたアウトセットタイプで丁番が複雑になっています。
バスルームはシャワーメインということでコンパクトです。
道路側の窓には日本風の引戸が目隠しとして付けられています。
回転式引手が付いてますが、日本のもののように完全にフラットになるものではなく少し可愛らしい雰囲気です。
建具の枠にもちょっとした工夫があります。
一方から見た際には枠の奥行きが見えにくいように、他方から見た際には逆に奥行きもフレームの一部として見えるように、枠見込み(フローリングとの取合を見ていただくとわかりやすいです)が斜めに切られています。
床の切り替えは敷居を設けずに突き付けになっていますが、木口同士の突き付けはよほど慎重に施工しないとささくれなどが出やすいので、裸足で歩くような家だと避けたい納まりです。
日本の戸袋のような引戸がついていますが、引手が両側についていて、特に右前かどうかは気にしていなかったようです。
雨戸は開き式で、閉じた時と開けた時両方で鍵が使えるような寸法で設計されています。やや縦長で大きいために先端は垂れてしまっています。
とにかく角を丸めることに執心していたようで、たたきのレンガも角を落としています。
西側ファサードです。
軒の出がなく、気温変動も雨も地震も少ないデンマークの建物なので、そのまま日本に建てるには最適とはいえない形状ですが、可能な限り見えないところや多少不具合が出やすいところまで再現しています。
デンマークの本家の方は警備も厳しく限られたところしか歩けない上に撮影も禁止なようですが、こちらは撮影はもちろん、全て歩けて、触れて、座ったりもできますので存分に楽しむことができます。
開場日等は
https://finn-juhl-house-takayama.org/
にて確認できますので、東京からだとかなり遠いですが興味のある方は行く価値があると思います。
また、高山の三町伝統的建造物群保存地区の近くにある「吉島家住宅」もおすすめです。
※訪れたのが2016年のため諸々変更になっている可能性があります。
・お知らせ
自宅の設計経緯をまとめた記事も書いてます。
いつか家を持とうと考えてる人、リフォームを考えている人に何かしらのヒントになるかと思います。