【映画】侍タイムスリッパー、ほか
9月から10月にかけて劇場で観た映画の感想文です。
エイリアン:ロムルス
9月7日、公開2日目の『エイリアン』シリーズ新作を立川シネマシティの極上爆音上映で観てきました。1作目と2作目しか見たことがなくて、特にシリーズを好んで追いかけているわけでは全然ないのですが、今回は監督が『ドント・ブリーズ』のフェデ・アルバレスさんということでトレイラーの時点から興味を持っていました。
まあ~怖いですよこれは。言ってもエイリアンだから、みんなお馴染みのあのデザインであのギミックだし、出たら待ってましたっとばかりに大喝采と思うじゃないですか。普通に超怖いですね。血が出るみたいな意味での怖さは思ったほどではなくて、それよりも単純にジャンプスケア満載、精神的に嫌なシチュエーション満載、そしてクライマックスにはサプライズのようにして見たことない新しいデザインとギミックもあって、現代的にアップデートされた最新お化け屋敷に仕上がっていたのでした。
ストーリー的にも単話完結、なんのバックグラウンド知識も要らないスペース密室ホラー。でありながら、今回ともに鑑賞した友人によれば、シリーズからのマニアックなネタを満遍なく拾って違和感なく接合しているとのことで、総じて高評価というのも納得です。笑ってしまうのは『ドント・ブリーズ』のごとき息を潜めるシーンがしっかりあって、これだけ上手に仕上げながら尚且つ監督のカラーまでも薄められていないところです。
美術の面で、SFガジェット的にも目を見張るデザインが散りばめられていて、特に現実の科学技術の進化の方向性とは乖離した、エイリアン1のメカがそのまま進化していたら、というレトロフューチャーのifを大いに楽しむことができます。
わたしはそもそもお化け屋敷もジャンプスケアも苦手なんだけど、それでも本作は、ついつい顔を覆った指の隙間から見たくなってしまう魅力にあふれていた。最後の「あれ」の造形は本当に怖くて、結局未知のものとの遭遇が一番怖いんだなと納得しましたね。
侍タイムスリッパー
10月1日、噂の『侍タイムスリッパー』を地元のシネコンで観ました。びっくりした! とんでもなくおもしろい映画です。
侍が現代にタイムスリップする…というありふれたお話をこんなにおもしろくできるというのがまさに映画の魔法で、虚実が同じレイヤーで入り混じった「モノづくり賛歌」系映画としても、たいへん巧妙に仕上がった作品になっていました。主人公の高坂さんを演じた山口馬木也さんをはじめ、役者さんの演技が皆素晴らしく、邦画にありがちな何か大げさな演出をしなくとも自然と主役が立っていて、時空を超えてやってきた本物の侍にしか見えないのです。
私財を投じた自主製作映画として本作を完成させた安田淳一監督の八面六臂の活躍ぶりもさることながら、出演した俳優さんたちと熱心なファンとが和気あいあいとムーブメントを大きくしていく様子が微笑ましく、心底応援したくなってくるのも『カメラを止めるな!』のときと同じ。
安田さんの「未来映画社」とともに、沙倉ゆうのさんや冨家ノリマサさんのYouTubeチャンネルにも撮影中の舞台裏や対談コンテンツが既にたくさんあって、わたしもすっかりファンになってしまいました。
本作の素晴らしさの大部分はネタバレのところにこそあって、まだ詳しく書くわけにはいかない。なので、本気で魅力を伝えようとすると延々と細かいシーンやセリフを書き連ねていくことになりそうです。
にしても、つくづく感心するのはこの映画が描いていない、ばっさり切った枝葉の部分についてですね。まず、主人公を邪魔する嫌なキャラが誰も出てこない。主人公も過去から来たことを殊更に説明しないし、なんか周りも警察沙汰になったり報道で取りざたされるみたいなこともなく、「なんかおかしな人」として自然に受け入れてくれる。やさしい世界! なぜって、きっとそうしたほうが映画がおもしろくなると確信しているんですね。かように、セオリーをバッサバッサと切り捨ててダイナミックに繋げている脚本の妙というのが間違いなくある。
そしてまた、手に汗握る殺陣のカッコよさというのがある。どの場面とは言わないまでも、あんなに息をのむことさえ躊躇する客席の静寂というのはこれまで映画館で味わったことがなかったし、続く刀捌きの重み、押し合いの圧力。だからこそ、あの結末にはひとたび唖然となりました。見せかたが上手いですよね。
『サムタイ』がこれから更にどこまで伸びるか楽しみだし、わたしもまた観に行きたい。安田監督の過去作、『拳銃と目玉焼』と『ごはん』の2作もぜひ観てみたくなりました。
シビル・ウォー
10月12日、公開2週目の『シビル・ウォー』を立川シネマシティの極上音響上映で観てきました。わたしは『エクス・マキナ』や『アナイアレイション』に代表されるアレックス・ガーランド監督の美的感覚と予言者めいたドライな倫理観のファンで、本作も楽しみにしており、そして期待に違わぬ出来でした。
はじめ、アメリカを二分する党派性の違いをリアルに描いた作品だと思っていたので、こうしたセンシティブなテーマをセンシティブな時期に映画化したのはすごいなと思っていたのですが、ある意味でこれは広報のミスリードでしたね。本作の大統領はアメリカ建国の理念から外れたファシストの悪党として描かれていて、シンプルに大半の国民の共通の敵なのです。まあ、民主党支持者にしてみれば、これはトランプそのもののようにも見えるのがおもしろいところ。
しかし本作の主題は実はそういったポリティカルなところにはなく、それよりも、戦場カメラマンを志す主人公が「最前線」のなかで経験する人間的成長、あるいは心が壊れていくさま、そしてまたカメラマンとしての魂の継承の過程であって、言ってみれば純然たるロード・ムービーであるのでした。しかもそれが、きちんと最初に立てたフリに対するオチのなかで行われ、美しく悪夢のような映像のなかで展開してゆくさまというのが、実にガーランド監督の作風であるように感じました。
特に美しかった画面は、狙撃兵に対して伏せて息を潜めているときにフォーカスが草花に寄るさま、炎に包まれる森の中で火の粉が蛍のように舞うさま、そして何と言っても主人公が○○で満たされた穴を這うところを俯瞰で撮っていくカットです。こういった悪夢のようなシチュエーションを、とんでもなく美しく描くことにかけてはこの監督に全幅の信頼を寄せている。
本作はまた音の存在感がすごくて、その意味でも劇場(しかも立川シネマシティの誇る「極音」)で観る意義は大いにありました。次の瞬間にまったく想定外のところから死が迫る戦場のリアル、残酷なまでに乾いた銃声、そしてクライマックスの戦闘シーンは、戦場カメラマンの捨て鉢な行動に主観視点での説得力を持たせるもので、とても良かったです。