テクノ新譜試聴メモ:2022-12
例年12月は各レーベルのベスト的なリリースが多く、新譜は少なめ。
WHT MOTH - Zagara [Eram]
イタリアのEram Recordsのコンピに寄せたWHT MOTHの新曲がカッコ良かった。ノイズを生かした、ロウな質感の陰鬱で内省的なグルーヴ。裏拍から入る前のめりなシーケンスの組みかたも良く、ブレイクで効果的に弾けている。
Maxime Dangles & Voiski - Composite [Skryptöm]
フランスのSkryptömレーベルの15周年を祝う企画は、EP3枚に渡って、モダン・テクノ界隈を代表する15組のアーティストが各々他のアーティストとコラボするという試み。どれも普段の作風とは少しズレた感じの化学反応が起きていて、聴きごたえがある。ピックアップしたMaxime DanglesとVoiskiのようなパッドの美しい深くて重いテクノもあるし、音の幅が広いから、誰かしらどこか引っかかるのでは。Part1から3が同時リリースされました。
PWCCA - Affected System [Modularz]
マドリードの硬派なトラックメーカーPWCCAによるハードミニマル現在地。Modularzは若手に広く門戸を開きながらも、キュレーションにあたってのDeveloperのテクノ美学が首尾一貫していて信頼できますね。
◆
というわけで、2022年も毎月のテクノ新譜の動向を追ってきて、今年は特に新しい若手アーティストとの出会いの多かった一年でした。馴染みのレーベルから全然知らない人が出てきて、過去のリリースを遡ったら、そんないい曲作ってたの!? みたいなケースがわりとあった。
メジャーなレーベルの新譜はBPMが速くなりすぎて、142とかも全然あって、もうこうなると20年前の曲がそのまま使えるというので、再発やリワーク的な旧作の再評価が目立つ年でもありました。デジタル時代に光が当たっていない名曲はまだまだあるはずなので、この傾向はしばらく続く気がしています。2023年、早々にDJ Shufflemasterさんの"EXP"がTresorから再発されるというニュースもありますし。
自分の好みで言うと、もう速さはそんなに求めていなくて、126から134くらいの間でもタイトなハードミニマルのグルーヴが作れるのを知っているし、実際、硬派寄りのモダン・テクノレーベルの多くはBPMの高速化に必ずしも同調的ではないようです。レトロスペクティプな価値観に捉われることなく、自由な発想のもと実験を試みる楽しさが未だある。00年代のハードテクノブームのときは、ある種の右倣えでサウンド的に飽和してしまったようなところがありましたが、今回はまだその心配はなさそう。
また、別の記事「2022年に聴いていた音楽」のなかでも触れましたが、ダンスミュージックの聴きかたとしてフロア向けとリスニング向けを特に区別することのない、どちらともとれる良作が際立っていました。それらの多くが、長く続いた事実上のロックダウンの渦中で生まれた作品であったり、あるいは近年の戦争の影響下、クリエイティブへの切実さから生まれた作品であったりして、都市の民族音楽、テクノの同時代性について改めて思いを致すきっかけになりました。
◆
2022年に取り上げたトラックのうち、全73曲をSpotifyのプレイリストにまとめました。例年通り、新年はまた新しいプレイリストで再開します。R-9の「テクノ新譜試聴メモ」マガジン、引き続きよろしくお願いします。