【rural 2019】3泊4日テクノ山籠もり・前編
かつて石野卓球さんがテクノという音楽を「都市の民族音楽」と説明したように、テクノ、ないしエレクトロニック・ダンスミュージックは、本質的に大小さまざまな意味での"都市性"を内包しているように思う。電力供給ネットワークが世界各地の人口過密地帯を覆い、それでも人々の肉体から滲み出るようにして生まれた根源的なダンスへの欲求。われわれは都市生活の窮屈な日常から逃れるように、夜な夜なクラブへ行き、DJのプレイする大音量の音楽を浴びて心を無にして踊り、そして朝には再び日常に帰っていく。
そんなテクノから、都市性を敢えて引っぺがす試みこそが『rural』(ルーラル)。文字通りの人里離れた山奥で、4日間…69時間ものあいだ音を止めずに連続でテクノを聞いて踊り続けるという、知る人ぞ知る音楽フェスです。
以前の記事(わたしはruralへ行く|R-9|note)で予告した通り、2019年9月20日から23日にかけて、11年目を迎える「rural 2019」に参加してきました。場所は長野県、野沢温泉村のスタカ湖キャンプ場。初めてのruralにして初めてのガチ野外キャンプ3連泊、しかも朝も昼も寝ているときも24時間テクノ漬けというエクストリームな環境で過ごしてきました。
テクノ千日回峰行…とは言わないまでも、噂に違わぬ強烈な非日常体験でしたので、いつもながら備忘録形式でレポートにまとめておこうと思います。写真や動画を交えた長い記事になりそうなので、4日間の行程を前後編の記事に分けるつもりです。
◆ ◆ ◆
DAY 1:標高1,300m、極寒のダンス
9月20日金曜日、11時に集合。友人のフミアキさんが出してくれる車で、現地まではおおよそ300km超の道のり。ruralの参加のハードルの高さのひとつがまず遠いことで、キャンプ装備を考えると基本的に車でないと参加できないというのがある…(一応、有料のフェス専用長距離バスは出ている)。
別の車で向かった友人たちと落ち合って、共に現地に着いたのがちょうど日が暮れるころ。イベントは18時オープン、21時スタートということで、入場待機の車列の時点で既に森の奥の木々のあわいから、サウンドチェックの轟音が聞こえてくる。およそこんな山奥で鳴っているような音じゃない。
それにしても…寒い! 麓の温泉街から、つづら折りの細い山道を延々登ってきて標高1,300mのスタカ湖キャンプ場。気温を見ると8℃と出ている。息は白く、それなりの防寒装備をしてきたつもりが、まったく足りなかったのでは…とこの時点で悟る。頼みの綱は、前日にふと思いついてコンビニで買い足した貼るカイロの存在だ。心強い。
幸いにして、携帯の電波は入った。QRコード式の電子チケットが役に立たなかった場合に備えて、紙に印刷したものを控えていたけど、必要なかった。どうもdocomo、au系列は入ってソフトバンク系は壊滅だったらしい。インターネットが大好きなオタクにとって、電波が入らない事態に備えることは、それこそ山籠もり修行の覚悟だった。よかったね。
リストバンドを引き換え、案内されたテントがこちら。すごくない!? タープ付きのめちゃリッチなテントで上がってしまった。それもそのはず、今回われわれは数少ないグランピングチケットを入手することができて、それなりの追加費用がかかるとはいえ、基本的なキャンプ設備についてはまさしく上げ膳据え膳だったのです。このテントに男4人で3泊する。
湖を挟んだ向こう岸のレイク・ステージの照明も美しい。今年のruralの会場は、大きく分けてメインフロアにあたる森の中のフォレスト・ステージ、サブフロアにあたる湖畔のレイク・ステージ、そしてその周りに散在する複数のキャンプサイトとフード・バーエリアからなる。もともと管理の行き届いたキャンプ施設とはいえ、夜間は真っ暗で、それぞれのエリアの移動には手元の明かりが必要になる。わたしの場合は事前に用意したPanasonicのLEDネックライトが役に立った。これがないとトイレにも行けない。
キャンプ慣れしている仲間の設営したタープに合流して乾杯。火が…暖かい…。さっそく沸いたお湯でウマーメシを食べたんだけど、超おいしい。ウマーメシがこんなにおいしく感じたことない。
そうこうしているうちにアクトが始まったのでさっそくフロアへ。真っ暗な森を抜けると、こんな感じでライブペインティングのブースに出迎えられる。ほかにもアクセサリーなどを売るいくつかのテントが並び、その先にだだっ広い芝生のメインフロアがある。
積みあがったVOID acousticsの凶悪なサウンドシステムから、標高1,300m気温8℃の野外とは思えない音が出ている。内臓に響くキックの低音はクラブのそれそのものであるにも関わらず、それが遠く空気を伝って森や山へ反響しているのが分かる。これが三日三晩続くんだ…改めて狂気を感じる。
天気はあいにくの曇り。予報では、台風の直撃こそ免れそうなものの、この日程の間中ずっと曇りか雨で、唯一この初日だけが晴れの可能性がありそうだっただけに、つくづく残念。せっかく山に行くのだったら、満天の星空の下で踊ってみたかった。こればかりは運任せだから仕方ないね。
さっそくフードエリアでインドカレーを食べたりなんかして、夜半過ぎまで踊って、疲れてテントに戻ると…あまりにも寒い! 寝れない! 体を動かしているときならまだしも、じっとしていると、途端に芯から冷えてくる寒さだ。腰にカイロを貼り、用意した最強の厚着で二枚重ねの寝袋にくるまっていても、ガタガタ震えてしまうくらい寒かった。ここへきてruralの真の過酷さを思い知る。
横になり、寝ているのか死にかけているのかわからないまま、深夜3時~4時、遠くにメインフロアの残響を聞きながら寝袋にくるまっていると、突如耳元で爆音がするので飛び起きた。何かと思えば、湖を挟んだ向かいのレイク・ステージのサウンドチェックが始まったようなのだ。こちらのほうがテントサイトに近く、音を遮るものがないので、まじでテントの中にいても深夜4時でもめちゃくちゃでかい音が鳴る。やばい。24時間テクノ漬けってまさにこういうことで、これは本当に好きな人でないと耐えられない環境かもしれない。わたしは一応、この日から寝るときだけは耳栓をして寝た。
DAY 2:霧のなか
翌朝! 8時に目が覚めると、なんだかんだ寝れたらしく多少は頭がすっきりしている。テントを出て、ひんやりした朝の空気が気持ちいい。炊事場で顔を洗って湖の全景を眺めると、こんな感じ。
いやあ…この時刻この風景のなか、この音量のテクノが鳴ってるのやっぱ冷静になってみると普通じゃないよね。最高すぎる。芝生のフロアには、明らかに夜を明かしたと思われる缶ビール片手にフラフラ歩いている兄ちゃんや、座禅やヨガに興じている外国人(ruralはそもそも客の2~3割が外国人というフェスだ)、それに顔を洗ったばかりの寝起きのわたしが混在しており、朝8時から完全なカオスが現出していた。
天候は相変わらずの曇り。時折このようにして、向こうの山から霧が立ち上り湖を完全に覆ってしまうなど、環境が目まぐるしく変わる。
ひとまずこの日の日中は、いったんシャトルバスで山を下りて、麓の野沢温泉街でお風呂に入ってくることにした。キャンプ場にもコインシャワーがあるけど、昨晩あれだけ体冷やして、温泉あるなら行きたいじゃないですか。
再び山道を35分ほどバスに揺られ、標高600m地点の野沢温泉村にたどり着いた。地元バス会社によるrural専用の無料往復シャトルバスは、日中は90分に1本程度の頻度で出ていて、これがある意味イベント期間中の参加者の生命線になっている。ピーク時は行きも帰りも速攻で満席になるので、利用するときは早めに停留所に控えて待機していないといけないため、緊張感がある(イベント終盤にはバスの増便、整理券制の導入を含め、運営さんによって臨時の対策が取られたみたい)。
さて、野沢温泉村は由緒ある温泉街だけあって、公衆浴場の13の「外湯」を含めた日帰り入浴施設がいくつかあるんだけど、外湯には洗い場がないので、汗を流したいわれわれとしては選択肢が限られてくる。今回はそのうちバス停留所にほど近い「ふるさとの湯」へ行ってみることにしました。
前夜の凍えるほどの寒さに比べて、とにかくこの温泉のありがたさといったら! 生命力がみるみる回復するのを感じた。『MOTHER』シリーズの温泉みたいだ。コンビニで多少の買い出しを済ませ(主に使い捨てカイロの補充)、次のシャトルバスで再び山に戻る。
テント、明るいところで見るとこんな感じ。立派すぎるよね。突っ張り棒を中心とした、いわゆるベルテントという形状のもので、中では立って着替えたりできるなど広さには相当ゆとりがある。テントサイトを見渡すと、グランピングテントは5張ほどしかなく、チケットは本当に早いもの勝ちだったんだなと分かる(販売開始から速攻で売り切れたらしい)。
写真右の緑のポットは、お借りした大木製作所のアルポットで、アルコールランプの要領でアウトドアでも手軽にお湯が沸かせるというグッズ。一度に沸かせる湯量や必要な時間は限られるものの、火起こしの手間を考えると本当に便利。カップフードやレトルト、フリーズドライ製品の充実度からすれば、実際、お湯さえ確保できればアウトドアでの食事はどうにでもなるんだな。アルコール燃料は薬局などで買えるそうで、非常時の備えとして一台持っていてもいいかもしれない、アルポット。
日が暮れて、再びメインフロアのフォレスト・ステージへ戻る。この夜良かったアクトはBlack Merlinのライブセットで、激遅の4つ打ちが精神の内側に向かっていくテンションにハマってめちゃくちゃ心地よかった。正直よく知らないアーティストだっただけに、正しくruralのキュレーションが機能していると感じる。
テクノの恍惚について。これはまたいずれ別の記事で書こうと思っているんだけど、テクノという音楽で得られる恍惚は、実は一般のEDMみたいなダンスミュージックのフェスで連想されるノリとはまったく違うものです。誤解されていると感じる。あれは一体感を志向するもので、それはそれで魂の解放であって楽しいんだけど、テクノの場合はこう…踊りながら、自分自身だけの世界にひとりで潜っていく感じなのだ。周りは関係ない。
だから、曲のなかにわかりやすい「ここで盛り上がってね」みたいなポイントもないし、DJは3時間とかの長い持ち時間のなかでゆるやかな波を作っていく。おのおの、その波に乗っかるようにして揺られていくなかで、音楽と暗闇とお酒に酩酊しつつ、自我を希薄化させていく気持ちよさなのです。
酔い覚ましにひとりで湖畔を散歩してみれば、濃い霧の向こうにぼんやりと鏡写しの明かりが揺らめいている。フロアの低音がここまでもはっきりと聞こえ、延々と反復するビートに時間感覚を失いそうになる。異次元だ…。
夕飯は、仲間が振舞ってくれたビリヤニ(インド風炊き込みご飯)。
フロアの後方に椅子を持って行って、ぼーっとしながらひたすら音楽に揺られる。完全に涅槃だ。Djrumはドラムンベースから何から縦横無尽にビートを行き来する鬼才で、いつまでも聞いていられるDJだった。
この日は前夜のほどの寒さもなく(それでも10℃前後だったと思うけど)、早めにテントに横になって朝までぐっすり眠れた。
(後編へつづく)
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