ローコンテクスト言語文化を身につける Part-1
グローバルコミュニケーションはローコンテクストです。様々な価値観やバックグラウンドを持った人たちが相手になるからです。ノーコンテクストを覚悟しておいても良いくらいです。日本特有の最も大事なポイントをあえて言葉にしないハイコンテクスト・コミュニケーションは、共通理解の土台があるからこそ可能なことであって、グローバルな場では使えません。これが前回のおさらいです。 ローコンテクスト・コミュニケーションを身につけることは、グローバル・コミュニケーションの大事な要素なのです 。
ちなみに私は、日本のハイコンテクスト・コミュニケーションが、欧米などのローコンテクストから劣ると言っているわけではありません。欧米人の間ではむしろ、ハイコンテクスト・コミュニケーションを、日本の文化の大切な部分だとして身につけようと努力している人も多くいます。
ここからは二回に分けて、ローコンテクスト・コミュニケーションをマスターするための大切なポイントで、前回取り上げなかったものを見ていきます。是非とも意識して訓練しましょう。もちろん英語で訓練することがベストですが、ローコンテクスト・コミュニケーションは日本語でだってできます。
ローコンテクストコミュニケーションができるようになってくると、あなたは「日本人離れ」しているように周りから見られるでしょう。それを一つの目標とすればいいと思います。「2.3. 英語をマスターすることは異なる考え方を身につけること」で指摘した通りです。その大切な要素の一つが語順です。
語順
昨日のニュースを例にあげましょう。同じニュースをNHKニュースとアメリカのNational Public Radioが、それぞれの冒頭でどう伝えているでしょうか。両方ともニュースキャスターが読む原稿です。
違いを分析してみましょう。
1. 術語動詞の位置が、日本語では文の最後の「明らかにしました」であるのに対し、英語では主語の直後で文の最初の方の ”is expected to sign” となっています。日本語は最後まで聞かないと、何が起こったのかがわかりませんね。英語では冒頭ですぐにわかります。
2. しかも、日本語では、状況を説明する修飾節が最初にあり、主語そのものが文の中ほどに位置しています。
この2点から、日本人が英語で話すときに気をつけなければいけないことが見えてきます。それは、1) 主語を最初に明確にし、2) 術語動詞を早めに言い、3) 細かい説明は後からいくらでも付け加えて良い、ということです。
「そんなことは、中学校の英語で習ったから分かりきっている」と思ったあなた、では、NHKの原稿を読んで、即座に英語にしてみてください。日本語で考えて英語で話すと、以下のようなパターンに陥りがちです。
入試ではこれで正解です。しかし実際にはこれは「聞いていてイライラする」あるいは「集中して聞かないと、何を言いたいのかわからない」英語なのです。そして、このような話し方をする日本人はかなり多いのです。英語がかなり流暢な人でもです。NPRの文と比べてみてください。
美しい英語のような語順を意識をすることで、日本語のコミュニケーションもわかりやすくなり、あなたの評価は確実に上がるはずです。英語の訓練と同時に、日本語でも語順を意識してみましょう。上記のNHKニュースを日本語でも英語の語順で説明するとどうなるでしょうか?トライしてみてください。
ちなみに、修飾節や理由から先に話すパターンは、シンガポール人の特に若い人たちの間で頻繁に聞かれます。例えばNPRのニュースを彼ら風に言うと以下のようになります。
私は英語ネイティブのシンガポール人に対しても、このような話し方で仕事の説明をする人に対しては、英語コミュニケーションのコーチングもしています。
次に、日本語の語順のために理解しづらい極端な例として、特許の請求項の書き方を比べてみましょう。
途中まで読んで「筆記用具」の特許だということがわかりますが、まだ先があり、最後まで読んで初めて製造方法の特許だということがわかります。結局もう一度最初から読まなければ理解できませんね。下手をすれば、何度も繰り返して読んで理解出来る特許請求項は非常に多いのです。これを英語にするとどうなるでしょうか。
“A method of making” から始まりますから製造方法の特許であることがわかります。それを知って読むと、”a writing instrument” を製造することであることがわかり、その “writing instrument” にはどういう特徴があり、その製造方法のどこに特徴があるのかがわかります。一度読んだだけで理解できます。
個人の責任
さて、上記ニュースに戻ると、もう一つの大きな違いがあります。日本語では主語がアメリカ国防総省という組織であるのに対し、英語では Defense Secretary Jim Mattisと明確に国防長官になっていることです。日本では、組織を人格のあるものとして認識する傾向にあります。だから組織全体で責任を負い、個人の責任が不明確になる。これに対しアメリカでは、個人の責任は常に求められますから長官が主語になるのです。ただ、日本では名の知られていない国防長官の個人名で伝えるより国防総省として表現した方がわかりやすいだろう、というNHKの配慮もあるでしょう。しかし、長官名が日本で知名度が低いのもそれらメディアが名前を挙げないことに起因しています。個人を明確にするのは、何もアメリカ特有のことではありません。これも英語でグローバルな場でのコミュニケーションでは普通の感覚です。これについても私たち日本人は、感覚を磨く必要があります。日本の会社や組織では、誰が責任を持っているのかが明確でない、と批判される原因がここにあります。
次の写真を見ると、日本の文化との違いがわかるでしょう。海水浴場などでの「遊泳禁止」の看板です。よく英語で”No Swimming”と併記されます。問題は「誰が」禁止しているのかが不明なことです。看板を立てた人(例えば行政)が「禁止」していると考えるのが妥当でしょう。しかしその禁止を無視して泳いで事故にあったらどうなるでしょうか。行政の責任が問われることもしばしばありますね。「看板に気づかなかった。看板の場所が悪い。だから事故になった。」という点で裁判で争われるわけです。行政が管理の責任を持っているのか、それとも泳ぐ人個人の責任なのかどうか、と言う点において、行政担当者も曖昧なんだと思います。英語圏では”Swim at your own risk”です。つまりこれは命令形で「(泳ぎたいのなら)自分の責任で泳げ」と言っているのです。
長くなりますので、今回はここまでです。ローコンテクスト言語文化にとって大切の項目の残りは次回Part-2にします。
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