日常をふわりと彩る音楽を胸に、書く仕事と出会った彼女が選ぶ、私の一冊とテーマソング
「書く人」に人生のなかで出会った印象深い小説と、物語に合わせたテーマソングを選んでもらう「私の一冊とテーマソング」。
第2回では、ウェディングプランナーなど様々な仕事を経て、現在はフリーランスのライターとして活動する、徳山チカさんにお話を伺いました。
チカさんは音楽やラジオなど、好きなものへの想いを言葉にしてSNSで発信しながら、忙しい日々を乗りこえる糧にされている姿が印象的です。
そんなチカさんに、書く仕事に出会ったきっかけから、日常をちょっとだけ豊かにしてくれる本と音楽のつながりまで、たっぷりと語っていただきました!
人と深く関わることを軸にして出会ったライターの仕事
——最初に経歴と、今のお仕事についてお聞きしてもよろしいですか?
徳山チカ(以下チカ):
私は新卒でウェディングプランナーの仕事を始めて、その後も営業など、様々な仕事を経験しました。また、プランナーも営業も人や家族の人生に深く関わるところを軸に選んだ仕事だったので、楽しく働くことができていました。
ただ、コロナを含めて様々な出来事があって、家族や自分に何があっても、どんな場所でもお仕事がしたいなと思ったんです。
それで、私は書くことも言葉も好きだったので、どんな場所にいても役に立てるライターを始めました。
——やはり「書くこと」もウェディングプランナーと同様に、人と深く関わる仕事を軸にして選ばれたのですか?
チカ:
そうですね。ただ、最初はそもそも取材ライターの存在を知らなくて。副業を調べているときに「Webライター」を見つけて、自分に向いてそうだなと思ったのがきっかけでした。
でも、今、取材をメインにしたいと思っているのは、人に深く関わりたいからというのが大きいです。
——今も大切な軸になっているんですね。チカさんの書く文章を読んでいると、好きなものや好きな人たちへの想いがとても身近なものと繋がっているように感じます。言葉にするとき、意識されていることはありますか?
チカ:
正直、あまりなくて(笑)。でも、良いと思ったら素直に良いと、そのまま言葉に出すようにしています。
あとは、押しつけたり、人を傷つけたりはしないこと。私は好きなものが多いほうで、感動して愛情があふれるタイプだし、比較的、気持ちを言葉にするのも得意だと思っています。
でも、それが反対側の誰かを傷つけることや、好きの押し売りになるのはいちばん嫌なので。そのバランスを上手に取れるように、ちょっと一歩引いて自分の言葉を見て、誰かが嫌な気持ちにならないかは常に考えています。
——言葉を通した配慮がすばらしいです。好きなものへの想いを「自分ごと」にしながら言葉にしているのと、関係があるのでしょうか?
チカ:
好きの押し売りをしないって私が好きなアーティストが発信していることでもあるので、書くことへの影響はあるかもしれない。
10代のときは感動したことを無邪気に発信するだけだったけれど、アーティストや周りの方々の言葉、価値観を吸収していくうちに、好きで人を傷つけちゃダメだなって思うようになりました。
「ジャケ買い」して好きになったシリーズ小説
——「Epilogue→」では、小説が興味の矢印の出発点になっています。本に出会ったきっかけや印象深い思い出はありますか?
チカ:
印象深いのは常に本が家にあったこと。今もそうだし、子どものころは母親がいつも図書館に連れていってくれました。
あと今、思いだしたのが、小学校の国語の教科書に載っていた『ずーっとずっとだいすきだよ』っていう絵本。
小さな男の子がいっしょに暮らしているワンちゃんに毎日大好きだよって伝えるんですけど、ある日、ワンちゃんが死んでしまう。ただ、男の子は毎日大好きだよって伝えていたから、そのときの行動が悲しみを少しだけ和らげてくれる。
そんなお話で、いまだに思い出すぐらい…素直に大好きって伝えることの大切さは、さっきの価値観につながる部分かもしれないですね。
——記憶に残る絵本だったんですね…。ちなみに、小説はいつごろから読まれはじめましたか?
チカ:
小説にハマったのが中学生くらいのとき。習い事の行き帰りに大きな本屋に寄って、小説のコーナーで「ジャケ買い」するのが習慣でした。それで、帰りのバスに乗っている間、ずっと読んでいた。
——ジャケ買いだったんですか…!
チカ:
ジャケ買いです!タイトルでびびっときたやつを選んでいました。他には平積みしている本の装丁、背表紙のデザインも参考にしつつ、かわいさ、オシャレさを気にして買ってましたね。
——そのころ読んだ小説で印象に残っている本はありますか?
チカ:
当時は、石田衣良さんが好きで『池袋ウエストゲートパーク』は世代ではないけどめっちゃハマってました。
長めのシリーズなんですけど、次々と続きが出て終わらないのが嬉しくて…多分『池袋ウエストゲートパーク』の世界と石田衣良さんの文章にハマったんだと思います。ドラマより先に小説で好きになったので。
——非日常な世界観がある作品ですよね。他に小説を読んで、興味が広がったことは今までありましたか?
チカ:
新しく興味が広がった経験はあまりなかったんですけど、別々の作品に登場するこの2人は仲良くなるだろうなとか考えることはあります(笑)。
あとは登場人物のセリフに勇気づけられたり、すでにあった自分の気持ちと作品を勝手に繋げるみたいな意味で、興味が広がった経験はたくさんありましたね。
仕事人生のなかで2度パワーをくれた
——今回、選んでいただいた小説のタイトルを教えてください。
チカ:
私が選んだのは『本日はお日柄もよく』です。
——自分も大好きな作品です…!この本を選んだ理由を教えていただいてもよろしいですか?
チカ:
お話としては、初恋の相手でもある幼馴染の結婚式で披露されたスピーチに魅了されて、ただのOLだった主人公がスピーチライターになる道を歩いていく。
そのなかで恋愛だったり、選挙のことだったり、家族の問題もあったりする。でも、様々な場面で言葉がパワーを持って物語が進んでいくので、単なるお仕事小説でも、恋愛小説でもない魅力的な作品です。
そして、この小説を選んだ理由は、私の仕事人生の中で2度パワーをくれた小説だと思っているから。
1度目はこの小説を初めて読んだウェディングプランナー時代。毎週のように見ているご祝儀袋のデザインとめでたいタイトルは、ジャケ買いする女からすると読まない理由がない表紙じゃないですか(笑)。
当時、ウェディングプランナーの世界に惚れこんでいたので、もう吸い寄せられるように出会いました。読んでみると、言葉の力で人生に寄り添っていくところや、自分が置かれている大変だけど楽しい世界にもフィットして、主人公のこと葉ちゃんみたいにまっすぐがんばりたいと思わされた。
2回目は取材ライターという仕事に出会ったとき。スピーチライターの仕事に出会ったこと葉ちゃんと、取材ライターに出会った自分が全く一緒だったんです。
ライターの仕事をしながら読んでいると、共感できる部分も多くあって、前向きなパワーをもらえる小説です。
——それこそ身近な仕事を扱った作品だと思います。ウェディングプランナーの仕事をしていたときと、ライターの仕事を始めてから、物語を読んだときの感じ方は変わりましたか?
チカ:
それが、変わってはいなくて。取材ライターに必要なことについて知ることはできたけど、感じ方自体は変わっていない。同じように感動して、同じように泣いて、同じようにパワーをもらっています。
——立場が変わっても感じ方は変わらなかったんですね…!また、印象的な言葉がたくさん出てくる小説ですが、特に記憶に残ってるシーンはありますか?
チカ:
登場人物が落ち込んだときに周りにいる人がかける言葉で、こと葉ちゃんが涙を流すシーンがあるじゃないですか。何度読んでも、その場面で私も同じように涙を流しそうになるんです。
それまで普段どおりだったのに、言葉に共感して、こと葉ちゃんと同じぐらい泣きそうになる。私が感受性豊かだとはいえ、そんな体験を何回もできる小説ってあんまりないと思っていて(笑)。
——「共感」でいうと、こと葉ちゃんとチカさんは仕事の変化も含めて似ているところが多いと感じました。読んでいるとき、自身と重ねあわせて考えることはありましたか?
チカ:
私の作品への入りこみ方って、重ねあわせるというよりはこと葉ちゃんを知ってる友達みたいな感覚なんです。
私も同じ立場だから、こと葉ちゃんの気持ちもすごくわかるよって。そういう意味では性格が似てるのかなとは思いました。言葉に惚れこんで、魅了されて、実際に行動しちゃうところとか(笑)。
小説の要約と思うくらい歌詞がぴったりと重なる
——今回は『本日は、お日柄もよく』に繋がるテーマソングもつけていただきました。どんな曲を選ばれましたか?
チカ:
スピッツの『初恋クレイジー』を選びました。
——スピッツ大好きなので、嬉しいです(笑)。たくさんあるスピッツの曲のなかでも『初恋クレイジー』をテーマソングに選んだのはなぜですか?
チカ:
もう「これしかない!」と思ったんです。
だって、歌詞がもはや小説の要約じゃないですか(笑)。
最近、noteにも『初恋クレイジー』のことを書いたんですけど、まさに、こと葉ちゃんがスピーチライターになってワクワクする気持ちと重なって。あとは、物語でこと葉ちゃんの恋も描かれているので、そのピュアでまっすぐなところも歌詞にぴったりだと思いました。
——歌詞と小説のストーリーで重なる部分が大きかった?
チカ:
登場人物の気持ちと一緒みたいな…特に冒頭の歌詞が天才的だと思っていて(笑)。好きなものと出会ったときに誰もが感じる気持ちで、みんな共感できるんじゃないかな。
——小説と音楽、全く別のジャンルだと思うんですけど、繋がりや共通点を感じる部分はありますか?
チカ:
たくさんあると思うんですけど、やっぱり自分の気持ちを代弁してくれたり、嫌なことも素敵な感じにして助けてくれることが多いです。
それこそちょっとした良いことも嫌なことも、本だったら素敵な言葉でドラマチックに書いてくれるし、音楽だったら素敵なメロディでオシャレにしてくれる。
日常をちょっと良い風に変えてくれるところが共通点かなと思います。
言葉に疲れたとき、この本を読んでみてほしい
——紹介していただいた一冊、どんな人に読んでもらいたいですか?
チカ:
やっぱり言葉が怖かったり、言葉に疲れてしまった人に読んでほしいなと思っています。最近、言葉で傷ついてる人がすごく多いと思うんですけど、言葉は誰かを助けてくれるものだと私は思っていますし、この本を読んで言葉って良いものなんだなってじんわり思ってほしいです。
——小説でも言葉がもつ強さと怖さが描かれていましたね。最後に、この小説を通してどんな新しい興味に出会ってほしいですか?
チカ:
言葉が刃になってしまうからこそ、口に出すのをやめてしまう。でも、会話って生きていたら絶対に必要じゃないですか。だから、誰かに何かを伝えるとき、ちょっとだけ言葉選びに興味を持ってほしいなって。少しでも言葉を大事に扱おうとみんなが思ったら、ちょっとでも世界が平和になりそうだなと思っています。
でも、言葉選びに興味が持てますよってオススメしたいなと思うと同時に、最初に言った「押しつけ」にはしたくなくて…。だから、どうしたら優しく通じるか、どうやったら誰も悲しまないかは考えていたいです。
そんな見えない誰かを思いやる優しさも、この本から教えてもらった気持ちの一つなのかなと思っています。
——最後に大切な想いを聞けて良かったです…。本日はありがとうございました!
〈取材・文=ばやし(@kwhrbys_sk)〉
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【徳山チカさん セレクト小説&テーマソング】