【小説】夢とゆめと涙。
喉の奥の変な閉塞感と、
それに繋がる鼻のすんすんと言う変な呼吸。
枕元も濡れているし夢に泣かされたのかな。
たまにあったけどまさか今日かい、久しぶり。
上京してきて学生寮に入り1週間が経過。
4年後には母校となる場所で本日。
盛大な式典が開かれるのだ。
そんな中、数多いる主役と言えど
私にとっての主役は特に私と言えるわけで。
何故にそんなメインキャラが
目を腫らさにゃならんのですかと。
無情にも答えない枕。
あんたシミ付くくらい染み込んでるんだから
夢の正体くらい知ってるんじゃないのかい。
私の稚拙なメイク術でなんとかなるもんだろうか。
馬鹿なこと言ってないで一先ずは
準備をすることにした。
寮から大学まで5分。開会まではあと2時間半。
慣れない革靴に靴擦れを心配しつつ到着。
門の前にはでかでかと大学名と始業式の文字が。
あと写真を順番待ちしている保護者とその学生。
私の両親は都合がつかず、
「あとから写真送って😭
彼氏候補も見ておくのよ!最初が肝心!😤」
などと連絡が来ていた。先ずは友達だよお母さん。
保護者、新入生、新入生、保護者、教授?、
用務員??、新入生、新入生、新入生。
人の波をかきわけかきわけ、とりあえず
会場に向かった。整備の人もいるし
ここでいいんだよね?
安い作りの若干錆び付いてギシギシ言う
パイプ椅子に座り、着慣れないスーツに
ぎこちなさを覚えながら開会までは残り3分。
周囲の人と話して友だちを作るというのは
きっとこういう時にやるんだろうなと思いつつ。
既に隣と、その隣の人同士は同郷のお仲間らしく
付け入る隙を与えなかった。しかも私は端の席。
反対側には人もいない。
座り直す度に音を立てる椅子に
無意味に恥ずかしくなっていると、
照明がぱっと消えアナウンスが始まった。
「静かにして下さい。」
始めから静かですこっちは。
すいませんでしたうるさくする相手作れなくて。
「それでは○○年度、□□大学の…
「…ということが本学の理念でありまして、
本日から在学される…
なんんんがい…。え、どこの大学もこうなのかな。
もう周りもひそひそ話しだしてるじゃん。
すごい暇。頭に入ってこないし。
あぁー…暇…。
頭といえばそういえば、
今朝の夢はどんなのだったんだろう。
どうせすることもないし考えてみよう。
泣きそうな夢…。
崖から落ちたとか?
いやあれは足がとんっとなって目が覚めるはず。
じゃあ誰かに怒られたとか?
泣くんだけどなんかピンと来ない。
何時間もかけて積んだ石を蹴り飛ばされたとか?
賽の河原には生憎行ったことがない。
んー…。そもそも前にこんな感じで泣いたのって
いつだったっけ…。
高校…?いや、もっと前か。
中学の卒業式の次の日には物凄く…
あれ、なんか合ってる気がする。なんだ?なんk
「一同、起立!」
ガシャガシャガシャ!と椅子の音。
あー今良いとこだったのに。でもあの時は…。
え、でもなんで今日急に…?
結局わかりそうでわからないまま
その場を出ることになった。
今日はこれで解散らしい。
後は友達を作ろうが学内を散策しようが
映えようが#今日から○○生を付けようが勝手だ。
特にすることも無いし帰ろうかと思ったが
前の女子集団がすごく邪魔。なんか
かっこいい男子がいるとか。
どうでもいいので脇に逸れて
横を通り過ぎようとした所で。
涙の正体が、その中心に立っていた。
お互い厭という程見た顔だったのに、
見なくなったら見なくなったで寂しかった。
優しくて、手も大きくて、なんか安心するあいつ。
小学校の頃に
わたしのゆめは△△くんのおよめさんです!
とか馬鹿みたいに発表して。高校で離れて。泣いて。
それ以来少女漫画とか恋愛モノの映画とか。
奇跡的な出会いとか有り得ないと思っていたから
避けていたけど。
目線が合った所で私も有り得ない存在になった。
久しぶり、と声を掛けて左手を引っ張って。
学外の人の少ない所まで出て。
穏やかに笑う見覚えのある顔の目は、
何故か少し腫れていた。お前も?
夢と、ゆめと。
涙の終着地点はどちらも同じだったみたいだ。
こいつなら平仮名の方もきっと何とかしてくれる。
「確かに最初が肝心だったよ。」
ツーショットの写真を添付して、
その日の夜は母に送った。
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