心の中に温室を建てる
昔から温室が好きだった。散歩中に見かけるビニールハウスにもときめきを感じる。最近新しく気がついた温室の魅力は、中に入ることだけでなく外から見ることだった。
一緒に来た友人は春の陽の中で眠っている。眠気を感じなかった私は新宿御苑の大温室を50mほど先から眺めた。宇宙船の展望台のような、円を描くガラス窓の奥では、所狭しと熱帯の植物がひしめき合っている。鉄骨に張り付くガラス一枚隔てた先には、そこでしか生きられないものたちの小さな世界がある。
春夏秋冬変わらない、少しだけ蒸して重たい空気が詰まった温室。外の環境に適さない植物が大切に育まれ、そこを訪れる人間に時間や場所の感覚を持たない小宇宙を感じさせる。わざわざ手をかけ生かされる色とりどりの花や変わった形の葉。人が作った皮膜の中で呼吸する熱帯の遠い植物たちに呼応して、なにかを大切に扱うということについて考えさせられる。
人間はずっと安全な温室のような内の世界に籠るわけにはいかない。きっと籠もり続けたいわけでもない。でも大人になればなるほどなのか、インターネットのように繋がりやすさが向上したからなのか、それぞれの個人のため温室のような場所が消えていっている気もする。
私たちはもう少し自分の中の柔らかい部分や見失いやすい部分をガラスの箱の中に入れ、外の世界と違う時間や空間で大切に育ててもいいのかもしれない。あなたの心に温室を。そしてそこに入れたいものが思い浮かぶならば、それを慈しめますように。
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