第4回(2024.10.21)授業へのフィードバックから

前回の第3回では、信号検出理論(Signal Detection Theory; SDT)を勉強しましたが、実は積み残しがありました。反応バイアスβの話はしたのですが、感度d'の話はしていませんでした。第4回は前回の続きで、信号検出理論のもう一つの柱となる概念である感度について勉強し、信号検出理論の応用であるReceiver Operating Characteristic (ROC) の紹介、そして産業上の応用として品質管理などでみられるビジランスタスクのパフォーマンスを反応バイアスと感度でどのように捉えられるかをお話ししました。

今回もたくさんフィードバックをいただいたので、いくつか紹介してみたいと多います。

  • 長い時間見続けると検査のパフォーマンスが下がるためにはどうすればいいという話題から、感度とバイアス各々におけるビジランスの減衰の原因や解決策を学ぶことができ、合理的に解釈ができるようになった。

  • ビジランスの減衰は感度が原因であると思ったから、バイアスの理由もしれてなるほどなと感じた。

信号検出理論を学んでから、その観点からビジランスタスクを考えるという授業の構成にしてみました。単にビジランスタスクだけ考えると「休憩すればいいじゃん」に落ち着いてしまうのですが、反応バイアスと感度という二つの視点からさまざまな方策に結びつけて理解してもらえればよかったと思います。

  • 工場の不良品を見つけるビジランスタスクの説明で、主観確率が下がるとバイアスが上がり、探知しにくくなるとの説明がありましたが、通常は主観確率が下がってきた場合、見逃しているのではないかと不安になってバイアスが下がるような気がするのですがどうなのでしょうか?

「見逃しているのでは?」という疑問を持つということは、実際のP(S)はもっと高いはずだ、と考えているということですね。すなわち、主観確率(P(S)について自分はこう思っているという理解)は高く維持されているということです。

  • ROCは、図で一見してわかるという点で、デバイスの感度の比較に非常に便利で、様々な分野で活躍していそうだと感じた。

信号検出理論を理解すると、Receiver Opetating Characteristic 図が描けるようになります。工学ばかりでなく他の分野、例えば医学分野でも利用されていますので、覚えておくと役に立つのではないでしょうか。

  • 授業の最初で復習してくれたこともあって信号の話についてより理論的に理解出来た。途中少し聞き逃してしまったこともあり特に感度の話がなかなかまだ掴めなかったので、次回もし復習して頂けるならそこで理解したい。

  • 前回は バイアスの意味があまりわからなかったけど 今回で分かりやすくなった

  • 前回学習したバイアスに加えて、今回は感度についての学習をしました。感度はバイアスのように私たち自身で簡単に変えることができず、ROCなどに活用されていると学びました。 ROCのところはまだ少しわかりにくかったので、次回また復習していただけると嬉しいです。

前回は、そもそも信号検出理論を理解していないと授業の中身が全く理解できないので少し念入りに復習しましたが、毎回それをやっていると授業時間の 1/3 くらいが復讐で使われてしまいます。講義中に理解するよう努力することと、自分でも講義資料や他のリソース(教科書やインターネット上の記事)などで復習するようにしましょう

  • 信号検出を感度とバイアスで区別して考えることが興味深かったです。今回の授業であまり感度に対する理解が出来なかったので、レジュメが出たらしっかりと復習したいと思います

はい。ぜひ。

  • (質問) 人間のビジランスレベルは30分で減衰するそうですが、これは生物の間で差はありますか。例えば異様に長い生き物はいますか。

ごめんなさい。これはわかりません。単純に考えて人間と同じ条件で実験ができないので、調べるのが難しいと思います。ただ、野生に生きている生き物たちはしばしば人間とは比べ物にならない高度な能力を持っているので、ビジランスの減衰がずっと遅い、あるいは適度に「休憩」に相当するものをつかってビジランスレベルを維持する生き物はいそうですよね。

  • ビジランスタスクに関して、いまバイトで試験監督をしているのだがとても当てはまっていると思った。

心理学は私たち人間自身を対象とした学問ですので、自分自身の経験や生活に結びつけて理解できると理解が深まりますね。

  • バイアスの説明で主観確率という言葉が腑に落ちなかった。信号があるのに見逃してしまうというのは単にFAであるのではないかと疑問を抱いた。

主観確率とは、ある確率について、真の値とは別に「だいたいこのくらいの確率である」と人間が主観的に信じている値のことです。もちろん一人一人違う可能性があります。

  • 鍛錬によって認知ビジランスレベルは向上可能だが感覚ビジランスは不変というのは面白いです。無意識で判断できる能力は上げられないということですね。

訓練は一般的に感度の上昇に貢献します。その一方で認知ビジランスは時間と共にビジランスレベルが上昇する、という話はしました。

  • 感度に関して、2つの分布の期待値の差を無次元化するという試みは分かったのですが、分母となる標準偏差はなんの分布の標準偏差なんでしょうか。2つの分布の起こる確率を加味しているようには思えないですが、重み付けなしに合算して1つの分布としてもいいのでしょうか。

このあたりが人間でSDTを扱う難しさなのですが、まず信号レベルの確率密度関数のグラフが仮に描けたとすると、という話です。そしてそれぞれの分布の広がり(分散)がほぼ同じ、という暗黙の過程を置いています。もちろん実際に測定してみると等分散が仮定できない、ということは多々あると思いますので、その場合は両者の平均などをとって考えるしかない、でしょうね。

  • ビジランスタスクについて理解を深めました。30分で人間の作業の精度が落ちる話が印象に残っていて、作業場やソフトウェアを設計する際は長時間同じ作業にならないようにしたりリフレッシュできる仕組みが必要と考えました。

ちなみに私はオランダの「何もしない時間」ニクセンの新聞記事を読んでから、25分間仕事をしたら5分間何もしない時間を持つ、というサイクルを維持するよう努力してしまいます。ついついオーバーしちゃうんですけどね。「仕事を止める」「何もしない」というのは想像以上に難しいです。

今回第4回で「知覚」のステージを後にして、次回第5回と第6回では注意と認知資源についてのお話をします。第4回はお話ししたいことがたくさんありすぎて、私が一方的に喋っている時間が長くて少し退屈だったかもしれませんが、次回第5回ではミニ実験を予定しています。
お楽しみに!

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