第13回(2024.11.25)の授業のフィードバックから


こんにちは。
工業心理学2024もいよいよ終わりが近づいてきました。
最後の2回は、この授業の認知主義をふりかえってその限界などを議論します。
そして認知主義では扱えない(けれども産業応用上重要と思われる)流れを、ほんの少しずつだけ紹介します。
今回は「非認知能力」についてお話ししました。
今回もらったフィードバックからいくつかご紹介したいと思います。

  • EIが低い自覚があるのだが後天的に向上させることは可能か?また可能ならどのような訓練があるのか教えて欲しい。

  • 今回の授業では非認知能力について学んだが、非認知能力を伸ばすにはどのようなことをすれば良いのか気になった。

情動知能(Emotional Intelligence; EI または EQ)についてもお話をしました。本日の授業の最後に触れた Social (&) Emotional Learning (SEL)というのはそのために提案された教育プログラムです。

  • 感情のスキルが仕事やチームワークの生産効率に影響することを踏まえても学校教育でしっかり感情について学ぶ機会を作ることはいいことだと思った。

  • 日頃自分の感情をもっと上手くコントロールできれば良いのにと思うことがよくあるのでEIを高める教育に興味を持ちました。

はい。SELについては私も注目しています。授業で紹介した書籍「21世紀の教育」は比較的薄く読みやすい本ですのでぜひ目を通してみてください。うちの研究室にもありますので来てくれれば先着1名でお貸しします。

  • 「非認知能力」という言葉は私の出身高校の校長がほぼ毎回口癖のように話していたので、今日の講義は大変懐かしい内容でした。校長は、「非認知能力は勉強のように教えることが出来ないものだ。中学高校のうちに身につけなさい。大人になってから獲得するのは難しい。」と言っておりました。今となってはその言葉の大切さや重みがわかる気がします。

本日の授業に出てきた Social (&) Emotional Learning のカリキュラムについても、小学生や中学生、高校生向けのは入手できましたが、大学生向けというのは見当たりませんでした。しかし私たちがおこなった実験の結果、大学生でも効果がありました。

  • 情動知能が仕事のパフォーマンスを予測するための良い指標となるということが面白く興味深かった。自他の感情を正しく認識してコントロールできる人は確かに優秀で信頼できる印象がある。

私も経験的にそう思います。

  • EQという指標とIQという指標をいい感じに組み合わせたら就活の時とかに使えそうな指標ができそうだなと思ったが客観性が足りないかもなと感じた

IQもEI(EQ)もそれぞれ妥当性と信頼性をきちんと検証された心理尺度が存在するはずですから、それぞれを2つの指標として使うことは問題ないはずです。
一方、それらを組み合わせる(例えば和を取る)ことで何か新しい指標ができないか、ということであれば別問題です。それぞれが違う次元を表す、直交してはいないかもしれないけど独立な軸なので。

  • 情動知能をもっと論理的に説明するモデルはないのだろうか。と思いました。それともそれぞれパーソナリティーがあり論理的に説明することはできないとされているのか気になった

情動知能については、それが能力であるという立場(モデル)と、パーソナリティのような特性であるという立場(モデル) (さらにその mix モデル) があります。

  • BIG5パーソナリティ測定尺度はどれくらいの信頼性を持ちますか?自己評価である限り数値化が全て正しいとは思いません。もちろん非認知能力の測定であるが故そもそも簡単に測れるものではないことは承知ですが。かと言って他者評価しても意味ないですもんね。

パーソナリティのお話もして、その中で例として主要5因子 (Big Five personality traits; ビッグファイブ) についてもお話ししました。
Big Five については、何十年もの間数知れない心理学研究者が検証を重ねており、まず軸が存在することについては間違い無いでしょう。次に測定尺度(質問紙)については、それぞれの質問紙は研究者が「適当に思いつきに作った」ものではなく、それで本当に目的とする5つの因子が測れるか(妥当性)、何度測ってもいつ測っても同じ結果が出るか(信頼性)について検証を重ねてエビデンスを得たものだけが公表されていますので、これも信頼できると思います。

  • 必ずしも正しいとは思わないが、BIGFIVEの計算結果は意外で面白かった。

今回のように授業の中で簡易的に測定するのが良いとは思いませんが、尺度自体は研究者が検証しているものなので結果はある程度(簡単にやってしまった分を割引いでも)信用して良いと思います。

  • ビッグファイブのスコアを求める演習がありましたが、それについて、あれは自己評価か他人に評価してもらうかによってだいぶ結果が変わりそうですが、そのあたりも考慮して設計されたものなのですか。

基本的に自分について評価するように設計された尺度です。ただ、他に「他人についてあなたが感じていることを…」という使い方をする尺度もあります。

  • 内向的な人ほど芸術面で優れている可能性があることはよく聞く。誠実性だけが非認知能力だと扱われていたなどというようなBig5の話は面白かった。

あくまで授業で使った小塩先生の教科書では、です。他の文献では他の4因子も含むものもあります。が、個人的には例えばビッグファイブの「神経症傾向(Neuroticism)」を「能力」と呼ぶのには違和感があります。

  • 自分の場合、やたら活動的な時期と生きる屍になっている時期がある。おそらく誰しも振れ幅の差こそあれ同じようなものだと思う。パーソナリティもタイミングによって変わるだろうから、その場で出た結果を一概に本人の傾向とはできないだろうなと思った。

パーソナリティは、比較的時間的に安定していますが、全く不変ではありません。

  • 性格分類のbig5に関しては、主成分分析のように統計解析的に5軸を出してそれにラベルをつけたのか、軸候補があってそれらから実際に独立してそうな5軸を出したのか、などの経緯が気になった。

まず、ビッグファイブ は「あなたは何型」「あなたは何型」と性格を「分類」するものではありません。あくまで、5次元空間の中でどの位置にいる、ということを言うものです。(そもそも「分類」できると考えますか?例えば測定結果のスコアが +0.1 になった人と -0.1 になった人が、違う「分類」の人間だと思いますか?)
ビッグファイブは統計的に求められた因子とされています。おそらく大規模な質問紙調査の結果をもとに因子分析を行なったのではないでしょうか。

  • 最近(?)MBTI診断が話題で、自分としては結構MBTI診断が好きなので今回の工業心理学でパーソナリティ診断を学べてよかった

  • 今回は非認知能力についての話だった。特にビックファイブパーソナリティは面白かった。最近はMBTIが流行っているが、それとは違う物差しで人間を理解しようとしていると感じた。

  • 今回の授業では特性に関する話があった。特性とは個人に関する心理的な性質である。特性にはビッグファイブがあり、開放性、誠実性、外向性、調和性、神経症傾向である。スコアを測定する方法は色々あると言っていたが、MBTI診断もそのひとつであると感じた。

  • 非認知の世界ということであった。興味深いのは演習でやった心理テストのようなものだったが、あれとmbtiにはどのような違いがあるのか気になるものだった

  • 初回の講義で先生は、心理学者たちはMBTIを信じていないと言っていましたが、本日のパーソナリティー診断とMBTI診断のなにがそんなに信憑性の違いを生み出しているのですか?素人からは同じように見えました。

パーソナリティに関連して、MBTIに関するコメントを書いてくれた人が多かったように思います。
MBTI(Myers-Briggs type indicator)は、もともとユングの理論に基づいてメイヤーとブリッグズが開発したアンケートですが、「科学的根拠はない」とされています。これについては wikipedia に詳しい批判が記述されていますので、一読することをお勧めします。

あなたは血液型による性格の分類を信じていますか?ほとんどの心理学者は「血液型の間で性格の差があるとは言えない」と考えています。それと同じレベルで、ほとんどの心理学者はMBTIを心理尺度と認めていないと思います。科学ではなく、日常会話の「ネタ」としてはいいのかもしれませんが。(私も日常生活では「あいつはO型だから… 」なんて話には乗りますが、科学者の立場からは「血液型で性格が違うという科学的根拠はない」と言います。) 

  • 心理学の分野などにおいて、特性と状態の区別が思ったよりも大切なことなのだなと思いました。なんとなく日常生活ではいっしょくたにして考えてしまいがちですが、確かに授業でやったように分けないと影響が出るなと思いました。 (思ったよりも自分の誠実性が低くてちょっとショックでした)

状態(state)と特性(trait)の区別は重要です。例えば不安を感じやすい特性の人でも、いつでもどの瞬間でも不安な状態かというとそんなことはありません。あくまで「感じやすい」という傾向があると言っているに過ぎません。

  • 今までの授業だと心理学は説明しきれない、みたいな全て引っくり返された感覚になった。 今までの認知主義で人間の行動をある程度理解したつもりになっていたけど、確かにまだ話すことは沢山あると感じた。

心理学 = 人間を理解する科学は、この授業が主に扱っていた認知主義の他にも幅広い分野があります。興味があれば是非勉強してください。

  • 麻雀の直感についての研究は、大いに興味深く、わたしも似たようなことをやってみたいと感じた。

たとえは「直感」という概念について勉強して、研究に値するテーマを見つけられるなら、うちの研究室でもどうぞ。単に麻雀がやりたいのであれば、他の研究室で雀卓があるところがありますので、そちらの方が良いでしょう。

次回はいよいよ最終回。私が一番大好きな感情についてのお話をします。
お楽しみに!


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