第3回(2024.10.10)授業へのフィードバックから

2024年度も第3回の授業が終わりました。今回は人間の「知覚」に関連する話題として信号検出理論(Signal Detection Theory; SDT)を紹介しました。
今回もたくさんの深いフィードバックをいただきましたので、皆さんに共有したいなと感じたものを紹介していきます。

  • 信号検出を数学に落とし込むのはとても面白いと感じました。しかし、それぞれのデータを明確に数値化するのが難しいのではないかと思いました。

信号検出理論そのものは綺麗な数学なのですが、人間に応用したとたんに、綺麗な数値化が難しくなるんですよね。

  • 人間の反応バイアスが鈍いという話があったが、それに関する論文があるのか気になった。

「鈍い (sluggish) 反応バイアスβ」の話自体は、今日のスライドで紹介した教科書の参考文献で登場しています。
Green, D. M. & Swets, J. A. (1966). Signal Detection Theory and Psychophysics. New York: Wiley.

  • 信号検出のノイズが何かというのが、分かりそうで自分では分からないものが多かったです。

信号検出理論の「ノイズ」は、わかりたいもの(「信号」)を邪魔するもの全て、という理解で良いと思いますよ。

  • 「詳しい式の形は覚えなくていいです。なぜなら確率変数の実測値を正確に測ることはできない(人間の場合は)」とおっしゃっていましたが、人間以外だと測ることができる場合があるのですか。

例えば物理系などでは繰り返し実験をやって確率変数となる変数の実測を繰り返せば、確率分布を(ある程度)正確に捉えることができるケースが多いのでは無いかと思います。もちろんやはりノイズの多い状況とか、測定が難しいなどの場合は難しいと思いますが。

  • 人間が本来あるべき反応バイアスよりも保守的になり切れず、リスキーにもなり切れないと言っていいおり、自分も決断するときに頭では極端な判断をするべきだとわかっていても安定な決断をしてしまうことが多いので、身に染みて理解することができた

心理学は人間、すなわち私たち自身についての学問です。自分を対象に、あるいは例に、考えてみることは理解をとても助けます。その際には自分自身を客観的にみる習慣を身に付けてください。

  • 聴覚検査のような話と、最後のベータの話が面白く感じました。自分は聴力検査をした時に勘違いなのか音が聞こえて押してしまうことがよくあり、実際に聞こえているのかどうかわからなかなってしまいます。それでも、検査自体は良好なのですが、この検査結果にはバイアスのようなものがかかっているのですか

今回の文脈で考えれば、反応バイアスβが小さい(リスキー側の)傾向がある、ということでしょうかね。

  • 0か100かはっきりしたものが好まれそうだが、実際世の中には混沌、ランダムが常なので、人間は実はそっちの方が安心するのではないかということがベータが鈍くなることに表れているようで面白かった。

なるほど。深いですね。

  • 交差点で友達の顔を見つける例において、灰色の濃さは友達の顔との類似度という認識であっているでしょうか?

ターゲットとなる信号、すなわち見つけようとしている友達の顔と近い(似た)顔の人が他にも存在している、ということでしょうか。

  • 損益の信号検出のバイアスに与える影響は図示することは可能でしょうか。

可能です。今回はやりませんでしたが(図が複雑になるので)、授業で扱ったP(S)の議論と同様に、条件付き確率の確率分布に損益(金額)を掛け合わせたグラフを書いてみれば良いのです。

  • 閾値を自身で調整できるとあったが、聴覚障害は調整ができなくなったのか音を知覚できなくなったのかどっちなのだろうか?

聴覚障害は感覚器(耳)または信号伝達・感覚処理の機能の不全と思われます。心因性難聴というのもありますので、必ずしも感覚器の機能の障害とは限らないようです。

  • リスキーな選択をするときでも保守的な選択をするときでも、その選択をすることによりできるだけ損害を減らしたいという保守的な思考が働いているのではないかと思いました。

なるほど。その場合、「損害」をいわゆる経済損失以外も含めた(=お金の価値で直接計算できないものも含めた)広義の「損害」で考える必要がありますね。

  • 人間は大胆になれず最適な閾値の設定が困難ということですが、他の生物はより得意だったり苦手だったりするのでしょうか。自然界で生きるにはエラーが許されないため得意な種が多いとは思いますが、人の脳も侮れず微妙なところです。

興味深い疑問ですね。もちろん動物は言葉(実験のための指示)を理解できませんので同じパラダイムで実験をすることはできませんが、閾値(反応バイアス)の設定の問題だけでなく、そもそも感覚器の性能が人間とは桁外れに優れた動物がたくさんいます。詳しい先生に教えを乞いたいところです。。

  • 耳から送られる音の信号が、あれだけノイズだらけだと知ってびっくりしました。でも、鳴っていないはずの音が聞こえるという経験はほとんどしたことがないのが不思議だと思いました。

  • 今回授業で紹介された、人間の感覚器から伝わる信号のブレの大きさには驚かされました。機械の発せられる信号とは大きく異なり、モデル化にも限界があるのかもしれないと思いました。しかし、新たに無次元数を設定し、できる限り正確なモデルを構成しようとしており、改めて認知主義の姿勢を実感させられました。

次回の授業で、実測データの例を持っていきますね。

  • 統計で行う検定のようなことを信号の検出においても行っている点が興味深かった。また、そのしきい値が実際に起こる確率や損益により左右する点も面白いと感じた。年齢や環境によってしきい値が変化するのかも気になった(感覚的な確率の捉え方が異なるだけかもしれないですが)。

年齢や環境によって確実に変わると思います。例えば歳をとると自分の身体を素早く正確に反応させる能力 (motor control) が衰えるため、より保守的になると考えられます。

  • 反応バイアスが理論値と実験値で異なるというのは、経済学やゲーム理論などに通ずるところがあるなと感じた。

はい。この授業の「隠しテーマ」は「人間の情報処理は必ずしも合理的では無い」なのです。でも行動経済学の知識がこれだけ一般的に広がった今では、それほどの驚きではありませんね。

来週は月曜日が祝日、木曜日が休講のため、次回の授業は10月21日にになります。ちょっと間が空いて今いますが、次回は信号検出理論のもう一つの重要な概念である感度(sensitivity)を紹介し、ROCやビジランスタスクなどこの理論がどのように現場で応用されているかをご紹介します。
お楽しみに。


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