午後をいく船
工事中の神社の境内しか歩いたことがない。
どの樹にもとまらない蝉のあとしか追ったことがない。
「わたしの肩幅を覚えているあなたの抱く腕だけを
記憶しながら」
工事中の神社の境内で
もうすぐだれもが知っている夕方がやってきて
きみを溶かしていく。
きみの感覚の濃度へとなにもかもが昇華するとおもえて、
もう見えない距離の島へと傾いていく無色に
溺れていたりする。
「あなたのなかのだれかと手をつないで。
そのだれかの瞳が映す景色に
あなたの好きだった色を塗りながら」
病にも似た工事中の神社の境内に感染して、
きみから落ちていく記憶は、どこかでだれかが拾っていく河べりを
彎曲しながらおりていく。
知らない土地の知らない冷夏、
「去りつつあるだれかのなかに
もう痕跡もないあなたを見送りながら」
いつだってⅧ月は
六〇パーセントの眠りを眠る。
ええ、どの樹にもとまらない蝉のあとしか
追ったことがないから。
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