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サッカーと非認知能力

こんにちは! 

前回自己流のプレー分析に関する記事を書いてから結構空いてしまいましたが、リーグ戦も前期が終わり、今回は少しサッカーのプレーに関する話題とは違い、教育の分野で、個人的に興味を持って調べている非認知能力に関して書いていこうと思います。

プロフィールにも載せていて、noteの1回目にも自己紹介も兼ねて少し書いたのですが、自分の人生の目標の一つ、『サッカーを通じた教育で世界の紛争を減らす』という観点からの内容になります。

サッカーを通じた教育がなぜ世界の紛争を減らすことにつながると考え出したのか、について書いていこうと思います。

その前に、まず非認知能力とは何かについて説明します。

1. 非認知能力とは

そもそも非認知能力とはどういう能力なのか。恐らく聞き馴染みのある言葉では無いと思います。

非認知能力(Non-Cognitive Skills)とは、IQや計算力、記憶力など点数で可視化でき、認知しやすい能力を認知能力というのに対し、勤勉性やリーダーシップ能力、コミュニケーションスキルなど、点数などで可視化、認知しにくい能力のことを指します。

非認知能力には様々な要素がありますが、その中でも

ビッグファイブといわれる5つの重要な要素、幼少期にそれらを伸ばすことか将来の獲得賃金にも影響を及ぼすと考えられている

要素があります。


それは各学者によって多少の違いはあるようですが、代表的な5つを紹介します。

1. 勤勉性


好奇心を持ち、知らないことを恐れず、学ぶ意欲の強さ。自己統制力、達成への意志の強さ、計画性、まじめに課題にも取り組む姿勢。

2. 安定性


神経症傾向(Neuroticism)とも言われる。外的ストレス、内的ストレスに対して不安や緊張、怒りなどを制御でき、神経、精神を乱されず安定させられる傾向。

3. 自主性


その時々の状況に応じて人任せにせず自ら考え、行動できる傾向。

4. 外向性


自己以外に意識を向け、利他的に考えられる傾向。オープンマインドとも言われる、他者に心を開ける傾向。

5. 協調性


リーダーシップにも含まれる、自己と他者の協調だけでなく、他人同士の協調にも関われる傾向。他者の意見を聞き、他者に対するリスペクトを持って接する傾向。


この5つが、代表的な非認知能力のビッグファイブと言われ、幼少期にこれらの能力を伸ばすことで、将来の獲得賃金が上がるという研究がされています。 

また、勤勉性などを考えると想像つきやすいかと思いますが、これら非認知能力は、テストの点数などの認知能力にもプラスの影響を及ぼすと研究で考えられています。しかしその逆、つまり認知能力が非認知能力を伸ばす直接的な関係は認められていないと考えられています。

このような研究について、次の項目で詳しく書いていきます。

2.非認知能力に関する研究


1.海外の研究


こちらにいくつかの非認知能力に関する研究が紹介されてるので引用させてもらい、紹介しようと思います。


Segal(2013)は、米国の 8 年生(中学 2 年)で問題行動(不登校、遅刻、宿題未提出など)があった人は、テストの成績を基に学力の影響を排除しても、 26-27 歳時の賃金が相対的に低い傾向を指摘した。

Heckman and Rubinstein(2001)は、アメリカの GED(General Educational Program) とよばれる高校中退者の高校卒業資格制度の効果を分析して、GED を取得した者の賃金は高校 を中退し GED を取得していない者の賃金より低いことを明らかにしている。その理由として、 高校を中退しGEDを取得した者は、学校の授業に無断欠席するなどの問題行動が見られる傾向があり、GEDにより高校卒業と同等の学力があるとみなされても、規律や我慢強さ、動機とい った点が欠けており、賃金にも影響が出てくるとした。

Lleras(2008)はアメリカの高校 1 年生(10 年生)に対する教師からの評価を非認知スキルの指標として、10 年後の賃金に与える影響をみている。具体的には、宿題の遂行、勉強の取り組み、遅刻の有無から勤勉性、他の学生との良好な関係から社会性・協調性等の指標を得て、これらが賃金と有意な関係があることを示した。また、課外活動に関して、運動系クラブや学術系クラブへの参加は、教育獲得や賃金に有意に正の影響をもつが、美術系クラブへの参加は、教育獲得に有意でなく、賃金に負に有意に影響していた。

Cabane and Clark (2011)は、The National Longitudinal Study of Adolescent Health のデータを分析して、高校時代に週1回チームスポーツに参加していた男性は、成人時の時給が1.5%高く、管理職になる確率が2%高かった。
一方、女性は、個人種目のスポーツに参加していた人ほど、管理職になる確率や仕事の自律性が高いことを示した。

Cornelißen and Pfeifer (2012)は、German Socio-Economic Panel (GSOEP)を分析して、 スポーツ活動は子どもの自尊心や競争心、粘り強さ、動機付け、規律と責任を発達させ、これらはすべて学校で身に付ける非認知スキルであり、学習過程で役に立つものであり、スポーツ活動は健康を増進させて、生産性の向上にも直接つながるとしている。

NLS-72 のデータによると、部活動を熱心に行っていた人は、監督者の地位(supervisory position)に付く確率が有意に高かった。また、運動部で活動した人の賃金は、他の課外活動をした人よりも、 4.2%(NLS-72)と 14.8%(NLSY)高いと試算された。

最後に、認知能力、非認知能力の形成時期について述べる。
一般的に、人的資本の投資収益率は年齢とともに減少する(Cunha et al. 2006)。
Carneiro et al. (2007)は、イギリス の the National Child Development Study のデータを分析して、7 歳から11 歳、11 歳から16 歳の認知テストスコアと非認知スコアの変化に着目して、非認知能力は認知スキルよりも後年でも鍛えられることを示している。

https://www.rieti.go.jp/jp/publications/dp/14j019.pdf



2.日本の研究


また、以下に紹介する論文ではより直接的に日本の就職活動に非認知能力が影響を及ぼすとする研究を紹介しています。


日本では,企業組織においてチームワーク能力は 高く評価されてきた経緯がある。例えば,経済産業省が民間企業や大学の有識者を集めて開催した「社会人基礎力に関する研究会」(座長:諏訪康雄)は, 社会人基礎力として,「前に踏み出す力」「考え抜く 力」「チームで働く力」の 3つの能力(と 12 の能力 要素)を提示した。官民を挙げてこのような提言がなされたという意味では,そこで提示された「チー ムで働く力」は,企業からも高く評価され,必要とされていると言えよう。

この研究会の中間報告によれば,従来,読み書きを含む基礎学力と社会人としての資質との間には高い正の相関があると考えられており,従業員の採用に関しては基礎学力だけを見て,採否の判断をしていればよかった。しかし,ビジネス環境の変化に伴 い,基礎学力だけでは測れない社会人基礎力の存在 に注目が集まるようになり,それぞれを個別に評価する必要があると考えられるようになったことがわかる。大学生の視点からこのことを言い換えれば,「チームで働く力」を含めた社会人基礎力を高めることができれば,就職活動時に高く評価されると言える。

経済産業省の社会人基礎力は,有識者の議論に よって構築された概念であるが,教育学や心理学の 学問領域では,社会人基礎力のなかでも「前に踏み 出す力」と「チームで働く力」は,非認知能力(OPO DPHOJUJWF TLJMMT),として定義される。


OECD(2015)は,能力の形成を動態的なフレームワークで理解する必要があると指摘している。つまり,過去に身につけた認知能力と非認知能力が相互作用を与えながら,将来の能力形成に正の影響を与える。
そのようなフレームワークを考えると,より若い時期での能力形成が中長期的に大きな影響を与えると言えよう。また,非認知能力の形成に関しては,成人した後よりも若い時期の方が可変性は高いと考えられている。

以上を踏まえると,小学校時代の学習経験が非認知能力を形成し,それを介して就職活動の結果に影響を与えている可能性がある。本研究では,この点
に注目し,小学校時代の学校外教育経験がチームワーク能力(非認知能力)の形成を通じて,大学生の就職活動の結果に影響を与えていることを検証す
る。

本研究で得られた分析結果は次の通りである。
第1に,小学校時代の学校外教育および大学時代の諸活動は,チームワーク能力を向上させていることが明らかになった。

第2に,チームワーク能力は,内々定獲得に影響を与えていることも明らかになった。

ただし,第3に,小学校時代の学校外教育および大学時代の諸活動が内々定獲得に与える影響は,直接的なものではなく,それがチームワーク能力の形成を通じて行われる媒介的なものであることがわかった。

本研究の結果から得られる示唆は,幼少期や青年期といった人生の早い段階の学習環境とそこでの能力形成の機会を獲得すること(あるいは用意すること)がよりよい初職の獲得へと繋がっていく可能性である。今後は,この機会を確保するための個人的な,また政策的な手立てを考えていく必要があるだろう。

https://eprints.lib.hokudai.ac.jp/dspace/bitstream/2115/81051/1/HighEdu.28.25.pdf


これらの研究により、大きく3つのことが言えます。

1つ目は、非認知能力が高いと将来の獲得賃金にプラスの影響があること。

2つ目は、非認知能力を高めることにスポーツが有用だということ。

3つ目は、年齢が早い段階の方が非認知能力はより高められる傾向があるという事。

個人的にポイントだと思ってるのは、非認知能力の教育が経済的にプラスに働くという点です。

なぜなら、世界で起こっている大小さまざまな紛争は、宗教の違いを認めようとか、他者へのリスペクトが大事とか、差別はやめようとか、気持ちや考え方の問題だけで無くなるものだけではないと考えているからです。


極端な話、非認知能力の教育を改善し、上にあげた非認知能力のビッグファイブが少しでも上がればこれら考え方の違いからくる紛争は減るはずです。

ただ世界にはそう単純じゃない、経済的貧困からくる余裕の無さや格差社会に対する不満による紛争など、いくら非認知能力を説いても現実的に生きていくために他者のことを考えていられない、といったことがあると感じました。

日本で財布を落としても返ってくることが多い、という話が海外で話題になりますが、それは、本当に日本人の素晴らしい気質なのか、明日飲む水が無くても同じようにできるのかどうか、日本が比較的裕福だからではないのか、という話です。

そのため、非認知能力を伸ばすことが経済的にプラスに働くという研究結果はポイントだと考えています。

最後の項目ではこれらの研究結果を踏まえたうえで、自分がこのような考えに至ったきっかけと、長期的な目標について書いていこうと思います。


3. 非認知能力に着目したきっかけと目標


ここまで、非認知能力がどういったものか紹介してきましたが、自分がこの非認知能力になぜ着目することになったのか。そのきっかけを最後に書こうと思います。

もともとはバルセロナへ3年弱滞在している間の経験がきっかけでした。

その間に12歳以下のチーム、14歳以下のチーム、19歳以下のチームにいたのですが、19歳以下のチームにいた際、1つ印象に残ってる出来事がありました。

そのチームにはイスラム教徒の選手がおり、ラマダンの期間、彼は他人に裸を見られてはいけないため、通常スペインではみんな練習が終わるとすぐにシャワーを浴びて帰るのですが、練習終りに彼が先にシャワーを浴びるのを指導者が言うまでもなくみんな自然と、誰1人全く文句を言うこともなく待っていたのです。

これは文化的な背景もあると思いますが、日本だとなかなか目にしない光景だと思いました。異文化や考え方の違いに対する慣れは日本には特に必要な気がします。

もう1つ、これは直接的にどうというわけではないのですが、世界の紛争に関してより強く関心をもったきっかけは、自分が通っていた語学学校のすぐ隣駅で当時ヨーロッパで頻発していたイスラム国の無差別テロがあったことです。

バルセロナは移民も多く、様々な考え、人種、宗教の人々がいます。その中で、その違いを尊重すべきというシーンもあるし、逆に、電車内での自分勝手なふるまいなどは、それは考え方の違いとかじゃなく周りに配慮不足ではないのかと思うこともありました。

例えば電車の中でギターをいきなり弾きはじめるとかは、その人の自由でもあるし、周りには迷惑でもあるし、何が悪いとか、世界的な絶対悪とは何かとか、難しいなあと考えていた中で、それでも前述の19歳以下のチームでの出来事のように、特にサッカーの競技レベルの高いチーム内であればあるほどやはり他者に対するリスペクトや、自主性など、漠然と考えていたサッカーを通じて学ぶ大切なことができてる選手が多かった気がしていましたし、これはどの世界でも大事なのではないかと感じていました。

その点でも気になったことは、サッカーを教育のツールとして使うことは、スペインでは強いチームほどきっちりしていて、下の方になるほど雑になっている気がしてました。

日本では部活、クラブチームともにサッカーを通じた人間教育には重点が置かれている気がします。各チームのホームページ等を見てもほとんどそういった文言が書かれているように思います。

なので、サッカーを学びにスペインに行きましたが、逆に、スペインはその点は改善すべきだと感じました。

こういったことから、世界的に見てもサッカーを通じた人間教育をすることの必要性を感じて帰国しました。

帰国後、その漠然としたスポーツを通じた人間教育に関して調べていたところ、”非認知能力“と言語化されたものがあることを見つけ、自分の中で漠然としていたものが線引きされたような感じです。


以上のような背景で、自分は非認知能力に着目し、それが世界の紛争を減らすことに役に立つと考えています。元日本代表の宮本恒靖さんが行っていたマリモストという活動も似たような理念ではないかと思います。

また、その教育の仕方、普及の仕方に関しては、学校教育もままならない地域でもボール1つあればサッカーを通じた教育は可能だと思っているので、自分が直接子供たちに教えに行くというよりも、非認知能力の教育ができるその地域の大人を増やしていきたいと考えています。


ただ、現段階での自分の人生の目標としては、まず欧州5大リーグ1部の監督になるという目標があるので、世界でこのプロジェクトを進められるようになるのはまだ先だとは思ってます。


それでも、サッカー監督としての高みを目指していても、その過程でこのサッカーを通じた非認知能力教育も重要になると思います。

また、トップを目指している道の途中で出会う人との巡りあわせも含め、1人ではできないと思うので、これからもいろんな人と協力してまだまだこの分野は研究していきたいと思っています。

こうして発信してると思わぬことも出てきたりするのですが。

4. さいごに


どうしても1回はこの非認知能力について書いておきたくて、今回はサッカーのプレーとは関係ない内容となりましたが、読んでいただいた方ありがとうございました。

そしてこの非認知能力の教育に少しでも興味を持ってもらえたらうれしいです。

また次回も読んでいただけたら嬉しいです!




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